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魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする  作者: 流優
日々とはかくも早く過ぎ去るもの
201/613

勇者の油断



「ああああああ~~~!!」


 ――ネルは一人、絨毯の上でのたうち回っていた。


「ぼ、ぼ、僕は、な、何を……!!し、しかも、あんな、あんなことも言っちゃって……!!」


 脳裏に強烈なインパクトを残しているのは、この住処の主である魔王――ユキとの一幕。


 ずっと嗅いでいたくなるような彼の体臭に、密着した肌から伝わるゴツゴツとした男性らしい身体の感触。

 熱い吐息が肌を撫で、間近で視線を交差させた時の心臓の高鳴り。


 それら全てがネルの身体の奥底に刻まれ、全く薄れることなく今も彼女を悶々とさせる。


「~~ぜ、絶対おにーさんの血のせいだ!!おにーさんの血、絶対にただの血じゃないって!!」


 あんなこと、普段であれば確実にやらないだろうし、しかも人目のあるところとなると、尚更そうだ。


 あの時は、ただの興味本位で彼の血を舐めてみたら、何だかとても気分が良く、そして気持ち良くなってしまい……気が付いた時には、もうあのザマである。


 イメージとしては……そう、酔った時に近いかもしれない。


 軽い酩酊状態となり、理性の(たが)が少し外れて、本能の部分が剥き出しになった姿だ。


「っっ、あぁぁああぁぁっ!!恥ずかし過ぎるっ!!」


 レフィに咎められた辺りで少し我に返り、そしてさらに時間が経って冷静になった今は……もう、しばらく人の顔は見られそうにない。


 人前でそんな姿を晒してしまったこともそうだし、何より自分が、本能の部分で(・・・・・・)それを望んでいる(・・・・・・・・)ということを実感してしまったため、恥ずかし過ぎてどうにかなってしまいそうだ。


 きっと今の自分は、わかりやすい程に真っ赤になっていることだろう。


 だがまあ、幸いここには、他の住人達はいない。

 ここは、今まで全く使っていなかったが、ユキが一応城の方に人数分作っておいた個室の、ネル専用の部屋であるため、誰かが入って来るということはないのだ。


「…………でも、おにーさんいい匂いだったな」


 絨毯の上に転がったまま、ポツリとネルはそう溢す。


 訓練で、男性と一緒になって剣を打ち合うことは多々あったが……しかし、あんなに間近で、『男』という生き物を感じたのは生まれて初めてのことだった。


 当然、あそこまで近くで見詰め合ったこともないし、抱きすくめられたこともない。


 父親を早くに亡くして母親一人に育てられた身であるため、『男』にあまり慣れていないネルにとって、先程の一件は本当に強烈な経験だったのだ。


「…………あ」


 ――と、ふと彼女の視界に映ったのは、自身の服に付いた、赤い染み。


「……おにーさんの血、付いちゃったのか」


 恐らく、舐めている時に垂れてしまっていたのだろう。


 全く気が付かなかったが、かなりべっとりと付いていて、しっかり洗わなければ落ちなさそうだ。


 その染みを、彼女はしばし眺めてから――徐に、自身の鼻を近付けた。


「……これ、おにーさんの匂いする」


 彼の、血の臭い。


 スンスンと鼻を鳴らし、その残り香を吸い込む。


「えへへ……やっぱり、いい匂いだなぁ」


 些か自分でも、気持ち悪いことをしている自覚はあるが……しかし、ここには彼女以外誰もいないのである。


 気にすることはないだろうと、頬を緩ませていた彼女だったが――。


「あー……ネルさーん、その、そろそろ飯の時間――」


 ――その時、トントンとノックされ、ガチャリと開かれる扉。


 入って来たのは――ちょうど今、彼女が脳裏に思い浮かべていた、一人の青年の姿だった。


「…………お大事に」


「お大事にっ!?」


 そう言い残して青年は、自身で開いた扉をパタリと閉めた。


 ネルは素っ頓狂な声を漏らしてから、慌てて扉の前まで飛んで行ってからもう一度開き、その向こうにいる彼に弁明する。


「と、というか待って、誤解!!誤解だから!!きっとおにーさんが今思っていることは、絶対に勘違いだから!!」


「俺のことは、気にしなくていいんだ。その……お前が、自分の体臭フェチでも……俺は、受け入れるから」


「そんなの受け入れなくていいからね!?あとそれは誤解だって!!僕は服に残ったおにーさんの残り香を――ってああああ!!何を言っているんだ、僕は!!」


 うがああぁっ、と混乱している様子のネルに対し、青年は気遣ったような表情を一転させ、ニヤリと笑みを浮かべる。


 その顔を見てネルは、ようやく自分が担がれたということに気が付く。


「っ、か、からかったね、おにーさん!?」


「いや、どちらかと言うとお前が自滅しただけだと思うが」


 ――た、確かに!


 真っ当な反論にネルは数歩たじろいでから、やがてその場にしゃがみ込んで両手で顔を覆い隠す。


「う、うぅ……最近僕、こんなことばっかりだ。もう、駄目、僕は死ぬしかない」


「ハハハ、じゃあ、その屍は俺が拾ってやる」


 からからと笑って青年はそう言うと――(うずくま)る少女の身体に腕を通し、そのままヒョイとお姫様だっこの要領で持ち上げる。


「――っ!!な、な、何するのさ、急に!?」


「そろそろ飯だからな。お前を連れて行こうと思って」


「そ、それなら、自分で歩くって!」


「お前、今のまま放っといたら中々こっちに来んだろ。ま、そのまま担がれてろって」


 彼女の言葉を全く聞き入れた様子もなく、青年はネルを()(かか)えたまま部屋を抜け、廊下を歩く。


 腕の中で感じる、青年の肌の温もりと、彼女がこうなった原因ともいえる、彼の体臭。


 ひどく、安心してしまう、彼の匂いだ。


「………もう」 


 胸中に様々な想いを抱きながら、しかし少女は一言、ただそれだけを呟く。


 ――やがて少女は抵抗をやめると、コツンと青年の胸に身体を預け、大人しくその腕の中で、しばしの間揺られ続ける。


 最近、ダンジョンの住人達に毒され、油断しまくり勇者。


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] そのうちレイラも血を舐めに来そうだな
[良い点] 「俺のことは、気にしなくていいんだ。その……お前が、自分の体臭フェチでも……俺は、受け入れるから」 いよいよ勇者も人の道から外れてる、おめでとう(笑)
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