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魔王になったので、ダンジョン造って人外娘とほのぼのする  作者: 流優
日々とはかくも早く過ぎ去るもの
200/613

血の味とはいったい何味か



「――ん、おいしかった! ありがと、おにいちゃん!」


「おう、お粗末様」


 口端から血を垂らし、ニコッと笑みを浮かべるイルーナの頭を、ワシャワシャと撫でる。


「……最初見た時は大分ビックリしたけれど、そう言えばここにいる皆って、人間じゃないんだもんね」


 俺がイルーナに血をあげる一部始終を見ていたネルが、苦笑混じりの表情を浮かべてそう言う。


「あぁ、まあ、確かにイルーナは一番人間に近い見た目をしてるもんな。……俺も、どちらかと言うと人間に見えるか?」


「うん、珍しいけど、そういう髪に眼の人もいるからね。翼を出さなかったら、人間だよ」


 クスッと笑ってそう言ってから、彼女は感慨深そうな様子で周囲へと顔を向ける。


 彼女の視線の先にあるのは、我が家の面々の姿。


 俺が魔界に行ったおみやげで買って来た本を読むレイラに、オセロの対戦をしているレフィとリュー。


 その隣で、興味深そうに対戦の様子を見ているのは、エン。

 対戦の順番待ちでもしているのかもしれない。


「それにしても、不思議だよねぇ……ここにいる皆って、レイスの子達以外、同じ種族はいなかったよね?」


「……そう言えばそうだな。レイとルイとローのアイツらも、三人で一人みたいなもんだし」


 彼女らは、同時に召喚したしな。

 まさしく三位一体だ。


「フフ、これだけバラバラの種族の子達が揃っているのも、相当珍しいんじゃないかな。というか、他にはないよ、きっと。人間は結構排他的なところがあるから、他種族にはあんまり寛容的じゃないしね」


「お前ぐらい呑気なら、人間ももっと楽しく生きられるだろうにな」


「あ、ひどいなぁ、その言い草!」


「誉め言葉さ」


 わかりやすく頬を膨らませてみせるネルに、俺は笑いながら肩を竦めた。


 ――と、ネルと会話を交わしていると、ちょんちょんと俺の服の端を引っ張られる。


「あるじ、あるじ」


 顔を向けると、そこにいたのは、シィ。


 滑舌は大分良くなっており、現在では多少舌っ足らずなぐらいだ。


「お、どうした、シィ」


「シィも、あるじのち、ちょっとのンデみたい!」


 ちって……あ、血か。


 ……え? 血?


「な、何だ、急に。そんなの飲んでも美味しくないぞ?」


「ううん、だって、イルーナがおいしいって! あるじのち、おいしいんだよネ?」


 そう言ってシィがイルーナの方に顔を向けると、イルーナは元気良くコクリと頷く。


「うん!!もう、さいっこうだよ!しゅわしゅわジュースよりおいしいんだから!!」


 彼女の言う『しゅわしゅわジュース』とは、炭酸飲料のことだ。


 時々出してやると、物凄く喜ぶのだが……そうか。イルーナからすると、炭酸飲料よりは俺の血の方が美味しいのか。


 ……そうは言っても、比較対象が炭酸飲料だと、嬉しく思っていいのかどうかちょっとわからんな。


「ま、まあ、いいけどよ。じゃあイルーナ、場所変わってあげてくれるか?」


「わかった!」


 そうして俺の膝上から降りたイルーナに変わって、今度はシィが俺の膝上に乗る。


「ありがと、あるじ。それじゃあ、いただクね?」


「おうよ。美味しくないだろうがな」


 そして、彼女は俺の首筋に顔を(うず)め、未だ血の流れ続けるイルーナの牙の痕へと口を付ける。


 ひんやりとした、心地良い感触。


 見ると、シィの身体が半透明であるため、俺の血の赤色が彼女の体内へと入り込み、彼女の身体の水色と混ざり合う様子がよくわかる。


 ……何と言うか……どことなく、官能的な光景だ。


 血を吸われるのは、一年イルーナに吸われ続けて流石にもう慣れたと思っていたのだが……俺の血が、直に彼女の身体の一部となる様子がわかるから、そう思うのだろうか。


 ――やがて、ひとしきり飲んで満足したらしく、俺の首筋から顔を上げるシィ。


「……ん! おいしかッた! みつぼしレストランなみ!」


「いや、三ツ星レストラン行ったことないだろ」


 全く……ヘンな知識ばっかり覚えちゃって。


 誰だ、そんないらんことを教えているのは。


 ……あ、俺か。


「というか、ホントにそう思ってるのか? 俺に遠慮してそう言ってるんじゃないか?」


「ううん、ほんとだよ! しゅわしゅわジュースもおいしいケど……でも、あるじのちも、おいシかった!」


「でしょー?」 


 シィの同意を得られたイルーナが、ちょっと得意げな表情でうんうんと首を縦に振る。


 ……まあ、満足していただけたなら、それでいいけども。


「……ね、おにーさん。ぼ、僕も、ちょっとだけおにーさんの血、飲んでみてもいいかな」


「は、はぁ? な、何だよ、お前まで」


 シィの様子に感化されたのか、そんなことを言い出すネルに思わず怪訝な声を発すると、自分でもおかしなことを言っている自覚はあるのか、彼女は若干もじもじしながら言葉を返す。


「や、その……や、やっぱり気になるじゃない? イルーナちゃんもシィちゃんもこうやって言うからにはさ。本当に美味しいのかなって」


「ただの血だって」


「もしかしたら、そうじゃないのかもよ? おにーさん魔王なんだし」


 いや、魔王は関係ないと思うが。


「だから、ほら……そう、調査! 調査のため、僕はおにーさんの血を所望します!」


「調査て。……まあ、いいけどさ」


 思わず苦笑を浮かべていると、シィがネルに向かってにこにこの笑みを向ける。


「わかった、なら、次はネルおねえちゃんにかわっテあげる!」


「ん、ありがと、シィちゃん」


 ニコッとシィに微笑んでから、ネルはシィと入れ替わるように胡坐を掻いた俺の膝上に乗っかり、俺の首筋に顔を埋める。


 自然と正面から抱き合う形になるため、俺の背中にキュッと腕が回され、そしてサラサラの髪が頬をくすぐる。

 幼女組とは違い、華奢だがしっかりと女性らしい身体の感触と温もりが、肌を通して直に感じられる。


 そして――ペロペロと首筋を這う、彼女の小さな舌。


 ゾク、と背筋を走る、言いようのない快感。


 ――クッ……こ、これは、イルーナやシィの時よりマズいぞ。


 かなり、クるものがある。

 迸る情動のままに、このまま押し倒してしまいたいという欲求が、沸々と湧き上がる。


 ……いや、一応、まだ正式にはそういう関係にはなっていないが、夫婦を見据えた相手である以上、そういうことを致してもいいのか?


 …………いやいやいや、駄目だ。何を血迷っているんだ、俺は。


 ここには幼女組もいるのだ。そんな、不健全なものは決して見せられない。


 そうして一人、内心で葛藤を繰り広げながら俺は、己の内の欲求に負けてしまう前に、ネルへ言葉を掛ける。


「ネ、ネル、も、もういいだろう? 調査は十分したろ?」


「うん……でもなんか、こうしてるとおにーさんの匂いに包まれて……気持ち良い」


 な、なんてことを言いやがる、この娘は。


 天然か。

 天然の小悪魔か。


 俺が今、どんな心の内か知らないからこそ、そんなことが言えるのだ。


「ま、全く……お前、俺が紳士の中の紳士じゃなかったら、今頃襲われてるぜ?」


 意識して、冗談めかしてそう言った俺に――しかし、彼女は。


「……その、おにーさんだったら、まあ……いいよ?」


 俺の耳元で。

 甘い声色で、そう囁いた。


 …………えっ。


 ちょっと、えっ、待って。


 何、その甘い声は。


 何、その潤んだ瞳は。


 いいの?


 いいのか?


 俺は、己の中の情動を解放してしまっていいのか?


 いつの間にか、ネルは俺の血を舐めるのをやめ、正面から俺の顔を覗き込む。


 ――交差する、俺の瞳と彼女の潤んだ瞳。


 その頬は赤く、息は荒い。


 しばし見つめ合ってから、やがてネルは徐に瞳を閉じると、淡いピンク色の唇を俺に近付ける。


 俺は、まるで吸い込まれるようにして、彼女の唇へと顔を寄せて行き――。





「――――ウッホン!!」



 

 ――特大の咳払いに俺達はハッと我に返り、その声が聞こえて来た方向へと、二人同時にガバッと顔を向ける。


「……そういうことをするな、とは言わん」


 そこにいたのは――腕を組んでジト目をこちらに向ける、レフィ。


 そしてその後ろに、同じようなポーズを取っているリューとエン。


「元はと言えば、お主らを焚きつけたのは儂であるし、今後(つがい)となる以上、まあ、そういうことをする日もあるじゃろう。夫婦とはそういうものじゃ」


「「…………」」


 何にも言えず、無言でいる俺達を見下ろしたまま、彼女は言葉を続ける。


「じゃがな。それを、こんな白昼堂々と行うのはどうかと思うのじゃが……お主らはその辺り、どう思うかの? せめて、場所を選ぶべきだとは思わぬか?」


「「お、仰る通りです……」」


「うむ。ならば以後、気を付けるように」


 そう言い残して最後、レフィは後ろのお供二人を連れて、将棋盤の方へと戻って行った。


「…………なぁ、ネル」


「う、うん? な、何かな?」


「結局、俺の血は何味だった?」


「あっ、ご、ごめん、わかんない。おにーさんの匂いを嗅ぐのに夢中――じゃなくて! その、やっぱり僕は人間だから、血の味の美味しさはちょっとわかんなかった」


「……お前もやっぱり、ウチの住人だな」


「え? どういう意味さ、それ?」


 ――やっぱりどこか、ちょっとずれている、ということさ。


 気恥ずかしさからか、未だ顔を真っ赤に染めたままながらも、不思議そうに首を傾げるネルに、俺は誤魔化すように笑って言葉をはぐらかしたのだった。


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こちらもどうか、よろしくお願いいたします……! 『元勇者はのんびり過ごしたい~地球の路地裏で魔王拾った~』



書籍化してます。イラストがマジで素晴らし過ぎる……。 3rwj1gsn1yx0h0md2kerjmuxbkxz_17kt_eg_le_48te.jpg
― 新着の感想 ―
[気になる点] ・・・ 血の契り (笑) 成立 ⁉︎ ・・・ [一言] ユキも取り込まねば ・・・ 一方通行 ⁉︎ (笑)
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