DPが足りない話
リューの一族が帰ってから、少し経ったある日のこと。
「……マズい」
DPの収支欄を見ながら、小さくポツリと呟く。
――あれだけ大量に確保しておいたDPが、気が付いたら底を突きそうになっている。
いや、まだ大分残ってはいるし、明日になれば自然とDPは増えるのだが、一番多かった時と比べ、二十分の一にまで低下してしまっている。
これは恐らく、一か月と経たない内に底を突くだろう。
……使い過ぎ、か。
最近はダンジョン領域の拡張をあまり積極的には行っていなかったのだが、魔物狩りは定期的にペット達にやらせているため大丈夫だろうと、特に気を遣うこともなくバンバンDPを使用していたのだが……完全に失敗した。
考えられる原因としては、ここの住人が増え、なおかつ最大の収入源であったレフィからのDP収入が無くなったのにもかかわらず、俺が特に対策をしてこなかったことか。
DPが足りないことに煩わされる、ということが近頃は無くなっていたため、数値のことが完全に頭から抜け去ってしまっていたのだ。
森の新たな罠の設置とか、ほぼ消費DPを見ずにやっていたからな。
しまったな……気分は、アレだ。
収入が倍増し、比例して生活が贅沢になっていっため、収入が落ちた際に贅沢をやめられず貧乏になっていった、的な。
いや、知らないけどさ。
――何かしら、テコ入れをする必要がある。
久しくしていなかったのだが……これは、細やかな金策ならぬDP策を行うべきだな。
* * *
「――という訳で、レフィさん、ご助力をお願い出来ないかと……」
いつもの生活空間である真・玉座の間で、レフィの前に正座して座る俺。
「いや、突然過ぎてどういう訳か全くわからんのじゃが」
「そのですね。少々問題が発生して、その解決に覇龍様のお力をお借りすることが出来ないかと思いまして。こうして、お話を聞いていただけないかと」
「お主が気持ち悪い敬語で話す時は、大抵何かを誤魔化そうとしている時よな」
バレている。
「いえいえいえ、そんな。誤魔化そうだなんて。ただ、話を聞いていただけないと、今後しばらくお菓子を出せなくなってしまう可能性が……」
「何ッ!?」
ガバっと立ち上がり、俺に詰め寄るレフィ。
「お、おい、声がでけぇバカ」
「ぬっ……」
と、落ち着いた様子で再び腰を下ろし、その場に胡坐を掻いて座り込みながらも、強い意思を感じさせる視線を俺に向け続けるレフィ。
どうでもいいけど、スカートのまま胡坐で座ったら、パンツ見えるぞ。
「……どういうことか、説明してもらおうかの?」
「実はな、今DPの値がヤバいことになってる。多分、このままの調子で消費していくと、一か月も経たない内に底を突く」
「でぃーぴーというと、お主が何か物を出現させる時に使用するものじゃったな?」
「あぁ。最近はずっとプラス収支だったから、全然気にしてなかったんだけど……ここ、住人が増えただろ? なのに、今までと同じ感じで全く気にせずDPを使いまくっていたら、そうなっちまって……」
「む……そうか。そう言えば、儂もお主の伴侶となったから、儂からのでぃーぴー収入は無くなった訳じゃな」
「あー……まあ、確かにそれは理由の一因ではあるが、そのことはいいんだ、別に。他の選択肢があった訳じゃないからさ。俺がバカだったから、それを加味して先のことを考えていなかっただけで」
DP収入が無くなるのが嫌だからレフィを嫁にしない、なんて、そんなバカげた選択はあり得ないからな。
というか、レフィからのDP収入が無くなっても、あの時はやっていけると考えていたのだ。
ダンジョン領域も広げ、ペットも増やし、ここの体制も整って来ていたからな。
考えが甘かった、と言うべきだろう。
「だから、何らかの対策はしなくちゃいけないんだけど、その……他のヤツらにあんまり心配させたくないんだ。出来れば何事も無かったかのように、誰にもバレない内にDPの確保を行いたい」
持続的な措置としては、今後さらにダンジョン領域を拡張してDPの自然回復量を増やし、ペット達と共に積極的な魔物狩りを行うとしても、とりあえず今は、一時的な措置が欲しい。
そのために、レフィの力を借りたいのだ。
「なるほどの。それで儂に頼って来たと」
「あぁ。やっぱこういう話を出来て俺が頼れるのって、ずっと一緒にいるお前しかいないからさ」
「ほ、ほう。そうか、儂しかおらぬか。ほう……」
と、若干頬を赤く染め、わかりやすく得意げな様子でそう呟く銀髪龍少女。
コイツはホントにチョロくて可愛いな。
頼りになる嫁さんで助かるよ。
「コホン……まあよい。話はわかった。お主の頼れる伴侶として、協力してやるとしよう。それで、いったい何をするのじゃ?」




