決闘《3》
今週修羅場でやばかった。
来週からは、恐らく投稿回数増やせると思います。
――落ち着こう。
落ち着いて、深呼吸してから、何故こうなったのか。
どこで俺は間違えたのか、しっかりと状況を把握するべきだろう。
まず、俺は何を言った?
俺は、リューの親父を安心させるつもりで、そしてリューの雇用主として当たり前の義務を示すつもりで、「リューのいない日常はあり得ない」「アンタの娘は命に代えても守る」と……。
――これ、冷静に考えたらプロポーズじゃねぇかッッ!!!!
「お、あれは、想定外の事態が発生して、その原因を思考してみたところ、それが自分じゃったと気が付いた時の顔じゃの」
「あー……うん。僕も、そう思う」
「魔王様、気を張っていらっしゃる時ですとそうでもないのですがー……素の時ですと、考えていらっしゃることがすぐお顔に出ますからねー」
「――ちょっ、ちょっと……ちょっと待ってろ!」
初手で致命的ミスを犯していることを理解した俺は、リューの親父に手のひらをバッと向けてそう言うと、ダッシュでリング上を降り、のんびりと会話を交わす我が家の面々の下に向かう。
「な、なぁ、聞いてくれ。どうしよう。想定外の事態が発生した」
「いや、最初から全て見ておったが、想定内の事態であると思うのじゃが?」
「完全にプロポーズだったよね」
そう、呆れたような表情で、ジト目をこちらに送って来るレフィとネルの二人。
「い、いや、俺はその、単純に雇い主として、従業員の保障をしておくべきだなって考えて……」
「仮にお主がどんな意図であったのだとしても、もう無理じゃろ。相手はそうは思っておらず、そしてすでに誓約を誓った後。今更勘違いでした、などと言いだしてみろ。それこそあの頭の固い小僧は、怒り狂って襲い掛かって来るのが目に見えておるの」
……確かに、その未来は容易に想像出来るな。
せっかく何とか上手く収まりそうな雰囲気が、一瞬で消し飛ぶことだろう。
「おにーさんは……何と言うか、いっつも脇が甘いよねぇ」
「そうじゃな、此奴は基本的に、どこか一つ抜けておるからの。普段はまともな顔しおっておる癖に」
「フフ、でも、そういうところが好きなんでしょ?」
「……う、うるさいわ。お主とて同じじゃろうが」
「うん、まあ、そうなんだけどね」
ちょ、ちょっと、やめて君達。
今のこの状況で、そんな恥ずかしい話を始めないでください。
「? 別に、リューおねえちゃんも、お嫁さんにしちゃえばいいんじゃないの? おにいちゃん」
「およめサん!」
そう、不思議そうに首を傾げるイルーナと、あんまり話をわかってなさそうにニコニコしながら元気良く言葉を放つシィ。
イルーナさん。
お嫁さんって言うのはね、そんな話の成り行きで、簡単に決まって良いものではないんですよ。
と、それから俺は、先程から押し黙ったままのリューの方へ、恐る恐ると顔を向ける。
「…………」
彼女は頬を赤く染め、もじもじしながら、しかし何だか期待のこもったような視線で、チラチラとこちらを窺い見ている。
「…………リュー」
「ひゃっ……ひゃいっ……?」
「あの……怒ってません?」
「な、何をっすか?」
「いや、その……お前の意思の介在しないところで、こんな、勝手に話が進んじまって……」
頬をポリポリと掻きながらそう言うと、彼女はふるふると首を左右に振り、その意思を伝えて来る。
「いえ……ご主人が、ウチのことを大事に思ってくれているってことがわかって、その、ほ、本当に嬉しかったっすし……ご、ご主人のことは、ウチも……」
顔を真っ赤にし、下を俯きながら、ブツブツとそう言うリュー。
…………え、マジ、すか?
何でしょうか、その、あんまりまんざらでもないような感じ。
これが、モテ期というヤツなのでしょうか。
ハハ(白目)。
……いや、そりゃ俺だってリューのことは嫌いじゃない。
普通に美少女だし、面白いし、気安くふざけられるヤツだし。
だが、流石にそろそろ、キャパオーバーである。キャパシティオーバーである。
ちょっと、三人目の嫁さんは、俺の許容限界を超えている。
「……あの、レフィさん、あなたは今回の件については――」
「お主がしかと甲斐性を見せておる内は、別に構わぬぞ。リューも、見知った奴じゃしの」
そう、あっけらかんとした様子で、肯定的な意見を返して来るレフィ。
「……じゃ、じゃあ、ネルさんは――」
「うーん、僕よりリューの方が、おにいさんは付き合いが長いでしょ? だから、皆の好意のおかげでここにいる身である僕としては、その辺りのことは何にも言えないかなぁ。おにいさんとリューと、それでレフィがいいのであれば、別にいいんじゃない?」
くっ……ネルも肯定派か。
レイラは……ダメだ、完全ににこにこ微笑みで、我関せずという態度をその立ち姿で示している。
幼女組は、言わずもがな。
彼女らは純粋なので、皆一緒にいられるならいいじゃない精神であるため、何が問題なのかもわかっていない様子でキョトンとしている。
……ええい、もういい。
わかった。いいさ。二人目も三人目も同じことだ。
この際、何人でも面倒を見てやるよ!
「――リュー!」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
もうなんか、難しく考えるのが億劫になってしまった俺は、若干思考放棄気味に彼女へと言葉を放つ。
「お前も、ここにずっといろ! ここでずっと、のほほんとしてろ!」
「は、はいっす! ウチ、ずっとここにいるっす!」
「よし!!なら、俺の嫁ってことでいいな!?」
「――はいっす!!ウチ、ご主人のお嫁さんになりたいっす!!」
「いいだろう!!来い!」
そう言って俺は、彼女の腕を取り、グイとこちらに引っ張る。
「わひゃっ――」
その勢いで胸の中に飛び込んで来た彼女を抱き寄せ、そのまま俺は、いわゆるお姫様抱っこで彼女を抱き上げる。
「あ、ちょ、ご、ご主人……」
「うるさい。黙ってろ」
腕の中で頬を真っ赤に染め、こちらを見上げて来るリューを極力見ないようにしながら、俺はその状態で元の場所に戻り、リングの上で待っていた彼女の父親の前に立つ。
「アンタの言うこと、全て理解した。その上で、リューのことは、俺が責任持って預からせてもらう」
「…………いいだろう。――リュー」
俺のことをジッと見据えたまま、自身の娘へと口を開く、リューの親父。
「は、はいっす、父さま」
「この男が嫌になったら、いつでも里に帰って来い。だが……わかっているな。これは、お前が選んだ道だ。そう易々と帰って来るようなことがあれば、承知はせんぞ」
「……わかったっす。……でも、父さま。ウチの覚悟は、本物っす」
若干頬を赤くしたまま、だが、彼女は真剣な表情で、父親へと言葉を紡ぐ。
「ウチは、ご主人と、そしてここの皆と一緒に、ここで暮らすって決めたっす。だから、心変わりなんて、しない。里に帰ることは、ありえない」
「…………」
しばし眼を瞑って押し黙ってから、やがてリューの親父は徐に目蓋を開き、重々しくコクリと頷いた。
「……わかった。ライノートと、我が一族の者達には、俺から伝えておく。この男には言ったが、一年後にまた、ここに来させてもらおう。それまでに、しかと妻として相応しい振る舞いを、身に付けておくことだ」
父親の許しの言葉に、リューはパアッと表情を明るくさせる。
「はいっす!!ありがとうっす、父さま!!」
「……フゥ、全く……予想外のことばかりで、ちと疲れたぞ」
「おう、なら、ウチの宿でゆっくりしていけ。嫁の家族であるなら、身内として全員歓待してやるぞ」
「……フッ、ならば、お言葉に甘えさせてもらおうか。娘を送り出す身としては、その旦那となる男と、少し酒でも飲み交わしたいところなのだが?」
「勿論。お義父様のご要望なら、どこまでもお付き合いしますよ?」
肩を竦めてそう言った俺の言葉に、リューの親父は、苦笑気味の笑みを浮かべたのだった。
――こうして、俺に、嫁がまた一人増えた。
……嫁が増えるって表現、俺、絶対何かおかしいと思うんだ。




