決闘《2》
すいません、間違えて別の話を一度投稿してしまいました!
お騒がせしてごめんなさい!
――数十秒後。
「グッ……我がライバルは、強大なり、か……」
体育会系君はそう言い残すと、まるであの世に旅立つ前であるかのような大袈裟な動作でドサリと地面に倒れると、そのまま動かなくなる。
勿論、殺してはいない。
ちゃんとステータス画面を見ても彼のHPは三割残っているので、単純に気絶しただけのはずなのだが……君、そんな演技が出来るぐらいなら、実は結構余裕あるよね。
あと、勝手にライバル認定しないでください。困ります。
「チッ……!!何たることだ!!手も足も出んとは!!」
と、リングの外からこちらを観戦していたリューの親父が、簡単に勝負がついてしまった、本当に二十秒もせずに勝負がついてしまったこちらを見て、思わずといった様子でそう声を張り上げる。
いやぁ……うん、俺が言うのもアレだけど、わかっていたことじゃないですかね。
――この世界の生物は、前世の生物より基本的に強い。
大分強くなった自信のある俺より強い生物などごまんといるし、むしろ俺よりステータスが低いのにもかかわらず、その持ち前の戦闘技能で圧倒してくるようなヤツもいるし。
俺、ある程度は戦闘というものに慣れて来たとは言え、基本的に身体能力及び魔力任せのごり押し戦法しか出来ないからな。
ただまあ、しかしそんな俺でも、ある程度であればこの世界に順応して来ているのだ。
そこらの普通の戦士ぐらいが相手では、そんな簡単に負けてやる道理はないのである。
「クッ……なれば、やはり俺が出るしかないか……ッ!!魔王ユキ!!貴様、俺と決闘しろ!!」
と、そう言い放ったリューの親父に、何故かウォーウルフ族の彼らの方からブーイングが飛び交う。
……まあ、自分達の方から決闘を申し込んで、それであっさり負けた後だもんね。
流石にそれで、負けたのが嫌だからもう一度決闘しろとは、彼らもどうなのかと思っているのだろう。
「うるさい黙れ!!このままおめおめと帰ることなど出来るか!!――魔王ユキ!!答えを聞かせてもらおう!!」
「えー……いいけどよぉ、流石にそれで納得してくれよ?」
「フン、その余裕、どこまでかましていられるか、見物だなッ!!」
* * *
知ってた。
「カハァ……く、クソ……ッ!!」
ドサリと膝を突き、牙のような印象を受ける剣へともたれかかりながら、息も絶え絶えの様子で呼吸を荒げるリューの親父。
……うん。さっきの、体育会系君よりは強かった。
動きも素早かったし、攻撃もまた洗練されていた。
でも、所詮はそこ止まりだ。
いつかの老執事戦を終えた後である今の俺は、その程度の攻撃じゃビックリしないのである。
「ほら、もう諦めろ。はっきり言うが、お前らの実力じゃ束になって掛かって来ても俺は負けんぞ」
「――諦めろ、だと!?そんなこと、出来るものかッ!!」
そう、まるで血を吐き出すようにして、言葉を吐き出すリューの親父。
「失踪した娘が!!次に会った時!!名も知らぬ男、それも魔王などという男の下で!!メイドなどをやらされていてッ!!それが、幸せだと!?馬鹿を言えェッ!!」
――あぁ。
そうか。
このおっさんは、娘のために、こうまで身体を張っている訳か。
だからこそ、ボロボロになっても、部下達からブーイングをされても、こんなに頑なで、なおも立ち上がろうとするのか。
…………。
「…………おい、おっさん」
「黙れ!!それ以上口を開くな、魔王ッ!!」
ギリリ、と歯を食い縛り、怒鳴るリューの親父に――俺は。
――アイテムボックスから取り出した短剣で、親指を小さく斬り裂いた。
「いっ……てぇ。おい、おっさんも指を出せ」
そう言って俺は、血の垂れる親指を、リューの親父に向かって伸ばす。
「……何の、つもりだ」
「こうするんだろ。お前らのところじゃ、誓いってのは」
リューが、以前やっていたのだ。
どういう経緯で、その誓いを立てることになったのかは、もう忘れてしまったが……だが、その時に彼女が『ウォーウルフが誓いを立てる時は、親指を斬り裂き、互いに血判を合わせる』、と。
あの時は確か、親指を斬るまではしなかったのだが、簡易的ではない本気の誓いをするには、そうするのだと言っていたのを覚えている。
「――誓おう。アンタの娘は、命に代えても絶対に守る。襲い来る、全ての脅威から」
「…………貴様、本気で、それを言っているのか」
「本気だ。アンタがリューを大事に思うように、俺にとってもリューは、もはやかけがえのない存在になった。……俺の日常において、リューのいない日常など、考えられない」
そう。
俺にとって彼女は、もはやいなくてはならない、大事な存在だ。
リューのいない日常はあり得ず、それが失われそうなることを考えるだけで、俺は恐怖を覚えるのだ。
「故に、誓う。アンタの娘は、命を賭けて守る。リューが、平穏な日常を過ごせるように、この身を賭す」
その俺の言葉に、リューの親父は、口を閉じて押し黙り、俺のことを鋭い眼差しで睨み付ける。
――しばしの間、漂う静寂。
俺は、リューの親父から眼を逸らさず、そのままボタボタと血の垂れる親指を前へと伸ばし続け――。
「…………フン」
――やがてリューの親父は、小さく鼻を鳴らし、自身の剣で親指を斬り裂いた。
「その言葉、違うことは許されぬ。貴様の意思、それが偽りではないこと、もう一度示せ」
「あぁ、何度でも言おう。リューは俺が守る。絶対にだ」
「――いいだろう」
そしてリューの親父は、ボロボロの身体にグイと力を込めて立ち上がると、血の垂れる親指をこちらへと伸ばす。
重なる、リューの親父の親指と、俺の親指。
「俺の言葉を、復唱しろ。――此身を廻る祖の父、祖の母の血に賭け、我想い、我願いを此処に誓う。是を破りたるは、我身、祖の血から消え失すべし」
「此の身を廻る祖の父、祖の母の血に賭け、我想い、我願いを此処に誓う。是を破りたるは、我身、祖の血から消え失すべし」
「……貴様の意思、貴様の覚悟、しかと受け取った。その確かな力と、この誓約の下に、娘は貴様に託す。……娘を泣かせるようなことになれば、俺と、この身を流れる祖先の血が、末代まで貴様を呪うだろう」
「それは怖いな。せいぜい喧嘩しないようにしておこう」
「フン……」
俺の軽口に、リューの親父は鼻を鳴らし――そして、もうすでに決まった話、とでも言うような口調で、その言葉を続けた。
「――いいだろう。貴様を、娘の婿として認めてやる」
………………んんんっ?
「貴様の誓約が違われぬよう、一年後にまた、ここに来させてもらう。その時まで、貴様自身が言ったこと、努々忘れるな」
――待って。
ちょっと、待って。
色々と言いたいことがあるが、まずこれを言わせてくれ。
――最近、こういう流れ、多くないですかね。




