ギロル氏族《2》
「待て、リューの親父。アンタはきっと、勘違いをしている」
「黙れッ、魔王!!貴様の悪行は聞いているッ!!我らもまた騙せるとは思わないことだッ!!」
そう、怒りの形相で怒鳴る、ウォーウルフ族の族長。
いったい何を聞いて来たんだ、このリューのおやっさんは。
俺、そんな人に怒鳴られるようなことをした覚えはないんだが。
……いや、そう言えば俺、リューを我が家に招き入れた時って、人間の街を襲いに行った結果だったわ。
リューを探し求めてこんなところまで来たってことは、彼らが情報を得たのはあの街で、だろう。
何か俺の悪評を吹き込まれた可能性は大いにある。
……こんなことなら、リルはこっちに連れて来た方が良かったか?
……いや、リルのことは俺、家族だとは思っているが、完全にペット扱いで首輪も付けてるしな。
ウォーウルフのヤツらは、フェンリルを神聖視しているということだから、そんなリルを連れて来たらむしろ激昂するだろう。
アイツのことは、連れて来なくて正解だったはずだ。
「落ち着け、族長さんよ。アンタの娘は無事だし、このまま付いて来れば会わせてやる」
「信じられるものかッ!!」
「……俺を信じるにしろ、信じないにしろ、ここにいたら全滅だぞ。なら、一か八か俺の言うことを信じて付いて来てもいいんじゃないのか?」
「魔王の言うことなど何も聞かぬッ!!万一全滅するのだとしても、皆元より覚悟して付いて来てくれた者達だッ!!貴様の命を絶つためならば、我らギロル氏族、一人残らず戦って死ぬまでッ!!」
……あぁ、もう……面倒くせー。
俺は若干げんなりした顔を浮かべながら、とりあえず落ち着いてもらおうと、言葉を続ける。
「アンタが何を吹き込まれたか知らねーが、それは多分ウソだ。とにかく、今ここで言い争っていても不毛なのは間違いないし、建設的に話し合いをだな――」
――その瞬間、唐突に目の前へと迫る、族長の身体。
全く戦闘するつもりもなく、話し途中で完全に油断していた俺は、慌てて回避行動を取るが……とんでもない速度で突っ込んで来たリューの親父の、腹部に対する前蹴りを食らって吹き飛ばされ、背後に生えていた大木をへし折り土煙を巻き上げて停止する。
「立てッ! 貴様はここで、息の根を止めてやるッ!!」
「――そうかい。わかった。……あぁ、わかった」
俺は、倒れたまま徐に腕を動かすと――虚空の裂け目を、開く。
大してHPは減らなかったが……流石に少し、イラっと来るものがあった俺は、アイテムボックスから大剣――刃引きのされた、訓練用の木造りの大剣を取り出すと、それを杖のように地面に突き、ゆっくりと立ち上がる。
――いいだろう。
リューの親父だろうが、その仲間だろうが、もう知らねぇ。
殺すつもりはないが、しかし、嫌でも俺の話を聞き入れる状態には、なってもらおうか――。
* * *
「おにいちゃんお帰り!」
「む、帰ったか。――お主、何じゃ、それは」
草原エリアへと出て来ていたらしく、遊んでいた幼女達に混じっていたレフィが、怪訝そうな表情でこちらを見る。
「……聞かないでくれ」
――俺の背後には、山積みのウォーウルフども。
ペット達にも協力してもらい、どうにか無理やり、扉に押し込んでここまで連れて来たが……マジで大変だった。
意識の無い人を運ぶのがあんなに面倒だとは。
一時の感情で、暴れたりなんかするんじゃなかったわ。
「ハァ……ほら、起きろ、族長さんよ」
ペシペシとリューの親父の頬を叩くと、彼は「ウッ……」と唸りながら、ゆっくりと目を開ける。
「こ、ここは……」
「俺ん家だ。アンタが伸びている間に連れて来た」
そう声を掛けたところで、ようやく意識がはっきりして来たらしく、くわ、と目を見開く。
「きッ、貴様ッ!! よくも俺の部下を――」
「よく見ろ。全員息してんだろ」
俺の言葉にハッとしたような表情を浮かべると、リューの親父は慌てて自身の部下達の方へと顔を向ける。
「……! ど、どういうことだ、重傷の者達まで傷が無くなって……!」
「だからウチまで来たら全員回復させてやるっつっただろ」
傷の重いヤツらは、運ぶ前にポーションぶっかけたがな。
ジト目を向けてそう言うと、山積みになっているウォーウルフどもの方から聞こえて来る声。
「……頭領、本当です。この魔王は、俺達全員を回復してくれました。頭領達のことは、情け容赦なく気絶させていましたが……」
そう俺の援護をしてくれるのは、重傷人だったため俺の大剣の餌食とならずに済んだ者達の一人。
「……き、貴様はいったい……」
――と、リューの親父が呟いた、その時だった。
「レフィ様ー、お菓子持って来たっす――……え?」
良いタイミングなのか、悪いタイミングなのか、ちょうどリューが真・玉座の間に繋がる扉の方から姿を現す。
「リュ、リューっ……!?」
「げっ、とっ、父さま!?」
驚愕の表情を浮かべ、持って来たお盆を落としそうになるが、それを見越して先に動いたレフィがヒョイとそのお盆を彼女の手から受け取る。
……お前、自分の親父に会って第一声が「げっ」って。
一応、お前を心配して来てくれたんだぞ。
「リュ、リュー、無事だったのか……!!」
感極まったような表情を浮かべ、リューの親父は彼女の下まで駆け寄ると、その身体を思い切り抱き締める。
「ちょ、ちょっと父さまっ、ご主人達が見ている前でやめてほしいっす!!」
「ウ、ウゥ……お、俺はてっきり、もうお前は死んでいるものだと……!!」
「勝手に殺さないでほしいっす!!この通りピンピン――って、何すかこれ!?一族の皆がいる!?しかも伸びてる!?」
「あ、すまん、それは俺がやった」
「あぁ、そうっすか。なら納得っすね。――いやいやいや、まず何で皆がいるっすか!?」
リューの親父に抱き付かれたまま、慌てふためいた様子でそう言葉を紡ぐリュー。
コイツ、大分混乱してやがるな。
「……すまない。何か俺は、大きな勘違いをしていたようだ」
「おう、よく勘違いされる。マジで」
ようやく頭が冷えてくれたらしいリューの親父に、肩を竦めてそう言う。
非常に迷惑だったが……まあ、俺も暴れるだけ暴れて一度ボコボコにしてやったし、リューの身内ということで水に流すとしよう。
それにしても魔王って悪名、マジでマイナス面がデカ過ぎだろ。
こっちの世界の魔王どもは、今までいったい何をしでかして来たのだろうか。




