閑話:勇者と魔王ごっこ
発作が起こったため流れをぶった切って閑話を投入。
だが反省も後悔もしていない。
「ぐわーっはっは!!この悪のカリスマである勇者ユキに、お前達魔王娘なぞが勝てるものか!」
「そんなことないもん!みんなの力を合わせれば、どんな相手だってきっと、勝てちゃうんだから!」
そう意気込む魔王娘イルーナの隣に、魔王娘シィと魔王娘エン、それから魔王娘三人姉妹レイ、ルイ、ローが並ぶ。
「フン、ならば証明してみせるがよい!ゆけ、我が腕、従者レフィシオス!」
「ふははははー!我を倒せるか、童女どもー!」
若干慣れていないためセリフが棒読みになりながらも、精一杯に悪役キャラを演じ、背中に翼を出現させて空に飛び上がるレフィ。
「あー!おねえちゃんお羽で飛ぶのずるーい!」
「ずるい?何を言っておる、こんなものは勝負に勝てばよいのじゃ!まっこと、魔王とは生温い存在であるよなぁ!」
「その通り!よく言ったぞ、従者レフィ!さあ、世界を恐怖のどん底に陥れたコイツを、お前達に倒すことが出来るかな?」
「……のう、儂は一応勇者の従者であったよな?」
「悪の勇者の従者だからな。その辺りは気にするな」
「おねえちゃ――じゅーしゃレフィの弱点は、もう知ってるもんね!おねがい、ルイちゃん!」
と、魔王娘イルーナが言うと同時、いつも勝気な表情を浮かべているレイス娘の次女ルイがこくりと頷き、得意の幻影魔法を用いて、ボン、と一つの幻影を出現させる。
「ぬっ、そ、それは、幻の菓子――かすてら!」
ルイが出現させたのは、何故か知らんがレフィが幻認定をしている菓子、カステラ。
その幻影がふよふよと空中を浮き、レフィの目の前を漂う。
それを見て銀髪龍少女は、少々素の反応で、幻影とわかっているくせにまるで吸い寄せられるようにしてそろそろとカステラの幻影に向かって手を伸ばし――。
「レイちゃん、ローちゃん、おねがい!」
「ぬっ、し、しまったっ!」
と、油断してしまったところをレイの念力により身体の動きを縛られ、さらにローの精神魔法で上下左右を狂わされたらしく、上手く飛べずにヒュルヒュルといった感じで墜落していき、やがてすてんと真・玉座の間のカーペットの上に落ちる。
当然、覇龍の彼女であれば、呼吸をするのと同レベルで掛けられた魔法を無効化することが可能であるが、しかし油断して魔法を掛けられた時点で、残念ながら我が家のルールでは彼女の負けなのである。
「今だ!みんな、こちょこちょ攻撃!」
「あっ、ちょ、わひゃっわひゃひゃ!おっ、お主ら、ヒィッ、や、やめんか!」
そうして彼女は、床に転がされたところを幼女達に一斉に飛び掛かられ、全身くまなくくすぐられ始める。
ちなみに、普段は実体を持たないレイス娘達も、今は人形に憑依している状態で物理攻撃も可能であるため、元気良くくすぐりに参加している。
――やがて、幼女達が離れたそこに転がっていたのは、綺麗な銀髪をぐちゃぐちゃにし、着ているワンピースの裾を大きくはだけさせ、荒く呼吸を繰り返すレフィ。
ちょっと直視に堪えない絵面だ。
「お、お前……ゴホン、ほう!我が従者を、そうも簡単に降すか!やるな、魔王娘達!」
「あるジ、くだスって?」
「負かすってことだ。――いいだろう、お前達は俺が直々に相手をしてやる!俺はそこのマヌケと違って、とても強いぞ!」
「お、お主、わ、儂を間抜け呼ばわりとは、い、言ってくれるの」
おマヌケさんが息を切らしながら何か言っているが、欲望丸出しのせいで負けた彼女の声は、俺には何も聞こえないのである。
「レイちゃん、ルイちゃん、ローちゃん!」
「甘い甘い!その程度、この最強勇者である俺には効かんなァ!」
レイス娘達がこちらに向かってそれぞれ得意とする魔法を放つが、俺はそれをヒョイヒョイと躱してく。
魔力眼のある俺には、周囲を取り巻く魔力の動きなど見え見えなのだ。
「むむむ!強敵!みんな、今こそ力を合わせる時だよ!シィ!エンちゃん!」
と、魔王娘イルーナが言い放つと同時、何やら彼女の意図を悟ったらしい二人が、コクリと頷いて――。
「えっ、おわっ、ちょ、あぶねぇな!?」
そのまま、ピョンとジャンプして、俺に向かって飛び掛かって来る。
避けてしまうと彼女らを怪我させてしまう可能性があるため、俺は慌てて腕を広げ、二人をキャッチ。
「やっぱり!おに――ゆーしゃユキだったら、そうすると思った!もういっかい、レイちゃん、ルイちゃん、ローちゃん!」
と、次にレイス娘達が俺の身体に纏わりつき、ひっしと抱き付いてこちらの動きを止める。
「よーし!それー!」
「おわあっ!?」
そして最後に、魔王娘イルーナが俺の胴体目掛けて飛び込んだことにより、身動きの取れない俺は、そのまま幼女に塗れて後ろに倒れ込んだ。
「どうだ、まいったか!」
「まいっタかー!」
「……ぶい」
魔王娘イルーナと魔王娘シィが、俺の身体の上でこちらを見下ろしながら元気良くそう言い、そして魔王娘エンが片手でピースを作る。
「クッ…‥いいだろう、認めてやる。お前達は強い。だが、これで終わりではないぞ!我の真の力、第二形態を見せてやる!ぐわーっはっはっは!」
「きゃぁっ」
特に外見に変化は無いのだが、まあ第二形態となった俺は、幼女ズを身体に張り付けたままグオンと身体を起こし、その場で大きくぐるんぐるんと回転し始めた。
「あははは!すごいすごい!おにいちゃんもっとー!」
「アるじ、もっと!」
歓声を上げる、幼女達。レイス娘達も、声は上げないが人形の全身を使って楽しさを表現している。
「わはははは!しっかり掴まってろよ!」
そうして俺は、彼女らと笑いながら何度も何度もその場を回転して、そして最後に、再びバタンとカーペットの上に倒れ込んだ。
「ははは、あー、目が回る。お前ら、大丈夫か?」
「楽しかったからへーき!」
「……ん」
「うン、たのしカった!――ねェ、レフィおねーチゃンも、こっちコようよ!」
と、ニコニコ顔のシィが声を掛けるは、幼女達のくすぐり攻撃からようやく回復し、やれやれといった様子でこちらを眺めていたレフィ。
「そうだな、ほれ、こっち来いよレフィ。お前の愛しい愛しい夫の、片腕が空いてるぞ?」
「フン、戯け」
そう言いながらも、彼女はとことことこちらに近付き、ちょこんと俺達の近くの少し空いたスペースに腰を下ろす。
「? 何だ、素直だな」
ちょっと怪訝に思いながらそう話し掛けると、何故かレフィはニヤリと笑みを浮かべ――そして突然、ガバッと俺に抱き付いた。
「今じゃ!こやつの身体は儂が押さえておる!好きにくすぐれ!」
「あっ、ちょ、おま――あひゃっ、あひゃひゃひゃっ!」
レフィの音頭で、一瞬で攻勢に回った幼女達が、その小さな手を這わせ俺の身体を全力でくすぐり始める。
何とか逃げ出したいところだが、しかしレフィが覇龍の力を遺憾なく発揮して俺をがっちりと押さえ込んでいるため、全く身動きが出来ない。
「まっ、待て!タンマ!ちょっ、うひっ、ホント待って!待ってください!」
「フン!儂だけあんな息が出来なくなるまでくすぐられ、お主がヘラヘラ笑っておるのは我慢ならん!遠慮することないぞ、お主ら!大義は我にあり、じゃ!」
「あぐっ、くっ、レ、レフィ!て、てめ、覚えて――うひひひひ!」
「ほーれほれ!ここか?ここがええんじゃろ?」
器用に両足を絡ませるようにして俺の身体を押さえながら、幼女達の攻撃に参加し、ニヤニヤと笑って自由な両手で俺をくすぐるレフィ。
「くっ、この、お前、勇者の従者だったろうが!何主人裏切ってやがんだ!」
「儂は魔王娘にやられ、改心したのじゃ!今は世界の害悪たるお主を倒すことを至上の目的とし、この生を捧ぐのみ!」
「お前の忠誠心弱過ぎだろ!?」
菓子の幻影に釣られて負けただけじゃねえか!
「チッ、あひゃっ、ひひ、し、仕方ねぇ、こうなったら――幼女諸君!今日のおやつは何が食べたい!?」
その言葉に、俺を集中攻撃していた幼女達の動きがピタッと止まる。
「な、何じゃ、どうしたんじゃお主ら!?」
突然言うことを聞かなくなった幼女ズを見て、動揺の声を上げるレフィ。
「諸君、同盟を結ぼうではないか!今、我を裏切った不届き者への制裁に手を貸すというのであれば、今日のおやつは好きなものを出してやるぞ?勿論、レイス娘の君達にも、好きなだけ魔力を食わせてやる!」
「やったぁ!おにいちゃん、ちょこころね食べたい!」
「……どーなつ」
「シィもまリょく!」
歓声を上げる幼女達に、宙を飛び回って喜びを表すレイス娘達。
ダンジョンの魔物は、魔力を糧に生きているからな。
彼女らにとって魔力は大好物なのである。
他人に魔力を与えるのは、自身の魔力を相手の持つソレに近しいものに変換してから流さなければならないため、なかなかに難易度が高いのだが……しかし、ダンジョンモンスターであるシィやレイス娘達に与える分には話は別だ。
俺はこのダンジョンから生まれ、そして彼女らもダンジョンから生まれた魔物。
つまり、魔力の質が非常に似通っているため、彼女らは俺がただ普通に流し込んだだけの魔力を吸収することが出来るのだ。
「ぬわああ!?お、お主それはずるいぞ!?」
「フハハハハハ!!幼女を統べしもの、勝負を制し、だ!!詰めが甘かったな、レフィ!!」
一転攻勢。
幼女達を味方に付けた俺は、上に乗っていたレフィを床に押し倒し、その華奢な身体を幼女達と共にくすぐり始める。
「わひひひひひ、ま、待て!わ、悪かった、儂が悪かったから!」
「おやおやおや、そんな謝った程度で許されると思っているのかぁ?お前は悪のカリスマである勇者ユキを裏切ったのだ!それ相応の報いは受けてもらわねばなぁ!」
「にゃひっ、し、尻尾はやめろォ!」
「おらっ、どうだ!お前の弱点は全部知ってんだ!」
勿論、レフィが本気になって振り解けば、余裕で逃げることが可能だ。
しかし俺だけではなく幼女達がいる今、それをすると彼女らをケガをさせてしまう可能性があるため、レフィは思うように抵抗が出来ないのである。
見たか、この我が策略を。力が強いだけが全てではないのだよ。
少女を押し倒してその上に乗っかり、身体中を弄っているというこの絵面、何だか大分ヤバいことになっている気がしなくもないが、しかしそんなことは知らん。
フハハハハ、苦しみに苦しみ抜いて、絶望の淵に沈むがよい!
――それから、数分後。
抵抗虚しく身体中を弄ばれ、服を大きく乱し、口端から涎を垂らして、見るも無残な姿で床に転がるレフィ。
ツン、と身体を突くと、ビクリ、と身体を震わせるのが、なんだかすごく――エロいです。
「みんなー、ご飯出来たっすよー。――え、ちょ、どうなってんすか?な、なんか、ヘンな呼吸の仕方してるっすけど……レフィ様、大丈夫なんすか……?」
と、その時、キッチンにいたリューが、こちらにヒョコッと顔を覗かせる。
「うむ、気にするな、リュー。不届き者に制裁を加えただけだからな」
「悪は去ったのだー!」
「のダー!」
元気良く上に腕を振り上げ、そう言うイルーナとシィ。
微妙にニュアンスが違う気がするのだが、まあいいか。
「……そ、そっすか。ま、まあとにかく、もうそろそろお昼の用意が出来るっすので、そのつもりでいてほしいっす」
「りょーかい。それじゃあお前ら、飯の準備をするぞ」
「「はーい」」
「……ん」
そうして、幼女達が手伝いに向かったのを見送ってから、俺は床に倒れたままの銀髪龍少女へと視線を下ろす。
「ほら、レフィ。飯だぞ」
「お、お、お主。よ、よく平気な顔して、わ、儂の前に立てるものじゃな……?」
「まあまあ、そう言うなって。もっとやりたくなっちゃうだろ」
「うひゃぁっ!?わ、わかった、わかったから、突くのをやめろ。ちゃ、ちゃんと言うこと聞くから」
俺がツン、と指先で触ると、身体を大きく仰け反らせ、そして若干涙目で懇願するようにそう言うレフィ。
「…………」
「うにゅっ!?い、言うこと聞くって言ったじゃろ!?何故まだ儂の身体を弄る!?」
「いや、なんか、今のお前を見てたらこう、もっと苛めてやりたいってリビドーが掻き立てられてな」
「鬼かお主!?」
愕然と叫ぶレフィに、俺は笑って彼女へと手を伸ばす。
「ハハ、ほら、悪かったよ。さ、それより飯だ」
「……調子の良い奴め」
その俺の手を掴み、恨めしそうにこちらを睨むレフィ。
俺はニヤリと笑みを浮かべて肩を竦め、グイと腕に力を入れて彼女を立ち上がらせた。
治療完了。




