おや、今日は風が穏やかです。
私は人との付き合いをよく知りませんでした。
なんせ、友人と呼べるような存在ができたのは初めてで。
だから、私は彼女の表面上ばかり見ていた。
その奥を知ろうと、本来そうするべきだったのです。
友人なら自然にそうなるはずなのに。
いまさら遅いですよね。
そう、なにもかも。
私、自分でも優秀なほうだと思ってたんですよ。でも、そんな事はなかったようです。
知らない事だらけで。
せっかく手に入れたかけがえのないものがあっさりこぼれ落ちた。
消えた、奪われた、砕かれた。
私の大切なものが。
「・・・・・・それでは・・・・・・始めましょうか」
週末があけ、私は春菜の教室に行きます。彼女の残り香がまだ少しだけ、感じる気がします。
今は授業中。このクラスは体育の時間です。
だから、ここには誰もおらず、お目当ての物を二つ奪います。
春菜にちょっかいと出していたのは主に三人。あとは便乗してたにすぎない。だからって罪がないわけではないですが。
まずは、この三人から終わらせましょう。
そして、放課後が訪れました。
「はぁあぁ、まじなんだよっ! 私のスマホどこいったっ!?」
「なんで私のもねぇーんだよっ!」
まだ帰らず教室に残り今だに三人は携帯を探しておりました。
それはもう貴方達にとって体の一部のようなものですからね。
「さっきから鳴らしてんだけど、音聞こえる?」
三人の内、二人からスマホをくすねました。手元に残る一人が二人の携帯に電話をしてますが教室から音は聞こえません。
それはそうです、だって別の場所にあるのですもの。
「おや、どうしました~?」
廊下からわざとらしく声をかけます。
「あ? 誰あんた?」
「いえ、なにかお困りかなと? 私そういうの見過ごせない性格でして。もし、よろしければなにかお力になれるかもしれませんよ」
「別に、いらね~し」
「いや、探すなら人いたほうがいいよ」
最初は見知らぬ私を訝しげに見ていましたが、どうやら提案をのんでくれそうです。
「ほう、なにかお探しでしたか? ならお手伝いしますよ~」
にっこり微笑む。
屈託ない笑顔で。
「こっちです」
私はもう一人のスマホを預かり、誘導します。
電話番号が内部に入っていればツールで探せます、なんて嘘をつき。
ロックを外してもらい、その最中にも色々中を見せて貰いました。
歩きながら、操作をする振りをして消去できるものは今のうちにやっておきましょう。
時計塔。校舎の上。私の、私達の場所。
大きなこの時計には、中心の少し下に扉がありました。
この巨大さゆえ、人が二人ほどは入れるくらいの。
奥では振り子が揺られ、ゆっくり歯車が回り続けていました。
時刻は17時55分。
中から鍵がかかるその内側の扉を開くと、あの時と同じ夕焼けが飛び込んで来ます。
結論からいいましょう。
だって、私はなにもしてませんもの。
彼女達が勝手にこの状況に陥ったのです。
まず、女子生徒の一人が、その扉から外へと落ちていきました。
あぁ、残念、もう少しで手が届きましたのにね。
「ああぁぁあああああああああああああああ」
絶叫がどんどん遠のいて。
「由香ぁっ!?」
「ちょっと、ちょっとっ」
残りの二人がその扉から慌てて外に身を乗り出しました。
そして、時間は刻まれます。
午後18時を。
「っふがうあうあうああぁっ」
「ああっあいだっああいいっあいあだああ」
突如あがる叫喚。
針が動き、二人の体が扉の縁に挟み込まれます。
華奢な体、柔らかい肉。しっかり食い込んでいきます。
「た、た、ああだすげけえっ、ちょ、ちょっと」
「ねねねえ、はあやく、いだぁあああ、おねええががいいい」
私は後ろからそれを眺めていました。
時は進みます。どんどん、どんどん。
針はゆっくりと、でも確実に先へと。
ミシミシとなにかが軋む音。
ここから見える四つの太股が見た事もない色に変わっていきます。
「あら、大丈夫ですか~? なんか二人の体変な風に曲がってますよ~」
鈍い音が弾けるように聞こえて来ます、それはとても小気味良い。
「助けたいんですけど、もうどうしようもないですねぇ。私、下の様子を見てきますね。あ、これ返します」
二人のスマホをブレザーの制服に戻しました。
ついでにこの時計塔の鍵も差し上げます。せっかくの場所でしたけど致し方ありません。
どれどれ落ちた子が気になります。もしかして生きてるなんて事もあるかもしれません。
「ちょっああ、といいかあなああいあいあいあいいいでぇえ」
「たすすあさけけけけててぇえっっ」
さようなら、これはこの子達にいったのではありません。
この場所にです。もう二度と来る事はできないでしょう。
古びた戸は、ギギギと音をたて、私は最後になるであろうこの場所の戸を閉めました。
時計塔の真下に降り外に出ると、そこには赤い血が大量に流れでていた。
全く動かない女の体、その至る所から溢れでています。
私はスマホを取り出し、その光景を何枚か写真に収めました。
ふと、上を見上げると、扉と針に挟まった二人も見えます。
ここから二人の顔がよく分かります。オレンジの逆光も建物に遮られ真っ青な顔がしっかり見て取れました。意識はもうないのでしょう、目は大きく見開き、鼻や口からはもう涎と血が漏れてます。
あれも写真に収めましょう。
そう思いカメラを向けると。
ブチリと、そんな音が聞こえたように、どちらかの体の一部が引き千切られ落下していきました。また、一つ、また一つと。
白い文字番を赤い血が重力によって下へ下へと伝っていきます。
肉片と血液が降り注ぎ、私の頬になにかが張り付きます。
「血の雨ってこういうのを言うのでしょうかね」
私は、親指でそれを拭うと、その有様を写真に残していきます。
「さて、帰りますか。暗くなってしまいます」
女の死体を跨ぎ、私は校門を目指します。
今日はいつもより遅くなってしまいました。
数週間後。
今日は風がとても穏やかです。
私は春菜のお墓に来ていました。
「ふふ、これなんてすごいですよ、脳みそが出ちゃってます」
「この腕って、どっちのでしょうかね。これ落ちてきたんですよ。貴方にもぜひ見せたかった」
墓前に携帯でとった写真を見せました。
きっと、喜んで見てくれているんだと、私はそう思っています。
「これも、これも・・・・・・うふふ」
「ふふ・・・・・・はは・・・・・・ははは」
あれ何ででしょう。私泣いているんですか。
「ごめんなさい。ごめんね。私はなにもしてあげられませんでした。なんで気づいてあげなかったのでしょうね・・・・・・」
たらればって私嫌いです。過去はなにをしても戻ってこないから。
だからこそ後悔がないように、今出来ることを全力でやらなくてはならない。
でも、そんな簡単にはいきませんよね。
友人は貴方で最後にしようと思います。
もう、こんな思いはしたくない、です。
「・・・・・・また来ますね。その時はまた別の報告ができると思います」
便乗した者、見て見ぬ振りをした者も同罪です。
全員の詳細は頭に刻み込みました。
今は、まだなにもしませんよ。
でも、最高のタイミングで罰を与えますので、それまでは普通に過ごしてください。
墓地を後に。
思えば、この頃から私はどこか今までの自分とは別のモノになっていたのでしょう。
でも、そうじゃなきゃ規格外の異常者には対抗できないのです。
枠を越えた異常者を相手ができるのも、壊れた異常者だけなのですから。
この町で起こる少女失踪事件。
この時点ですでに20人を越えておりました。