相手の名前
うつらうつらしていたのは、時間にしてほんの5分ほどだろうか。
くちびるに何が触れ、反射的にそれをついばむと、右に傾けていた頭の支えがなくなった。
「は?」
一瞬にして、目が覚めた。
おーけー、転んでいない。
足は地面についている。
上半身は? 横向き。
頭は?誰かの膝の上。
は?
「すみません、起こさぬよう花びらをお取りしようとしたのですが、、まさか指を...とは思わず、動揺しました」
ルシアの精一杯の従者モードだ。
うん、把握しました。
公衆の場で、従者の指を咥えた痴女が、膝枕されてるわけですね! 恥ずかしい!
「こちらこそ、すいません むしろ、ベンチから転がり落ちずにすみ、助かりました。。」
「落としたら、なんのための従者ですか」
従者のとっさの判断と行動力、グッジョブ!
のそのそと上半身を起こすと、周りは至って穏やかな広場のままだった。
大きな音は立てなかったし、寝そべって寝ている人もいるくらいだから、目立っていなかったことにほっとする。
「そろそろお店に戻りましょう?」
そういってルシアが帽子を差し出してくれた。
その時風が吹いて、ルシアの手から帽子が飛んでいった。
「ジェラート食べたいから、買ってくるっ あっちのポップコーンも食べたいから、並んできてっ!」
帽子に気を取られた隙にそう言うと、振り向かずに屋台へ向かって駆け出した。
「何やってんだろ」
休んでいたベンチからジェラート屋はすぐ近くだが、ポップコーン屋はぐっと離れている上に、行列だ。
帽子を待ったまま並んでるルシアが見える。
「ストロベリーとヨーグルトのダブルと、抹茶のシングルください」
「はいよー」
和のテイストが普通に共存できるこの世界。
「ジェラートでご機嫌とりできるかな」
落とさないようにと手元に気を取られ、後ろに並んでいた人との距離を誤ってしまった。
ぶつかりそうになり慌ててよけると、今度は近くに立っていた別の人にぶつかってしまった。
腹部にジェラートをぶつけるというおまけ付きで。
「本当に申し訳ありませんっ お怪我はありませんか」
ジェラート屋さんの椅子を借りて、私はもう涙目だ。
「大丈夫ですよ 。貴方は羽根のように軽くて、軽くて衝撃なんてなかったくらいだ。ジェラートも貴方にかからないでよかった。ベタベタも取れたし 気にしないで?」
服を脱がすわけにいかず、ハンカチ、水の魔法、風の魔法、で濡らして乾かしてを繰り返した。
「本当に申し訳ありません サレニー家にお立ち寄りください 新しいジャケットを仕立てさせましょう」
「そこまでしなくて、大丈夫ですよ?」
嫌味っぽい人でなくてよかった。だからこそ、より申し訳なく思う。
「ですが、、お名前を聞かせていただけますか? せめてお詫びの品を後日、、」
「お詫びは結構ですが、、名前はロビン、ロビン・マクラーレンです」