会話の選択
名前に反応し、さっきまでろくに見ていなかった顔を見上げると、スチルで慣れ親しんだ寮長ロビン・マクラーレンの顔がそこにあったのだった。
ゲームのまんまの顔してる。。
動きが止まった私を不思議に思ったのか、マクラーレン様が尋ねてくる。
「君の名は?」
「サレニー家のエミリーと申します」
震えた声に気づかれただろうか。
「サレニー家か 最近始めた店の評判がいいね 咳止めの効果に、母が喜んでいたよ」
「それはよかったです、、」
ああ、もう頭がいっぱいいっぱいだ。
入学日のイベントにとらわれていたが、あの時悪役令嬢と寮長が知り合いか初対面かなんて、ゲーム内では触れられていなかった。
肝心なところで、ゲームの知識は役に立たない。
そもそも広場でジェラートをぶつけるイベントこそ、放課後デートのマクラーレンとヒロインのイベントなのだ。
それを入学前の悪役令嬢が、発生させてどうする!!
もう訳がわからない、涙がこぼれてきそうだ。
「あー、エミリー嬢?貴方を悲しませてしまったお詫びに、ジェラートをご馳走させてもらえまいか?」
わー、ゲーム通り。 1奢ってもらう。2断る。3ヒロインが買い直すと言って譲らない。で、好感度変わるんだよねぇ。
ここは2の断る一択だ。
「いえ、あのもう実は従者を待たせてまして、ごめんなさい」
しどろもどろになりながらも、なんとか答える。
「そうなのかい それは残念だ そういえば僕も、向こうに従者を待たせていたんだった」
「エミリーお嬢様!」
ルシアの声だ! 駆け足なのに、帽子を落とさず、ポップコーンもこぼしてない。さすが。
「ルシア! ジェラートが、マクラーレン様で、寮長が染みになって、魔法で咳止め薬が〜、、、」
「お嬢様、すみません 何一つ伝わってきません。」
「僕のジャケットが、可愛いお嬢さんのジェラートを食べてしまってね 染みにならないよう魔法を使ってくれたんだよ」
「そうでしたか、失礼をいたしました 主人に代わり、お詫びいたします 重ね重ね申し訳ないのですが、少し急いでまして、この場を失礼させていただきたいのですが」
ルシアすごい、年上のマクラーレン様にも堂々と受け答えしてる。
「本当に申し訳ありませんでしたわ」
「僕こそ引き止めてごめんね ほら、早く行った方がいいみたいだよ」
マクラーレン様は帽子をルシアからすっと取ると、私にかぶせ上から頭を撫でてくれた。
小さな子扱いされてるのは分かったが、せめて最後はと、礼式にのっとったお辞儀をするのがやっとだった。
ジェラートを食べ損ねたことも忘れ、足早にその場を去りたかった。
考えなきゃいけないことが、たくさんできた。




