十九 対面
スケッチブックをパラパラとめくる黒、それを後ろから覗き込む人型の白。
そして白が手に持つ無瞑。
二人は同時に僕たちに気づき、こちらを向いた。
その瞬間、僅かな……ナニカを感じた。
僕はこの感覚を知っている。この形容できない感覚とはこの世界に転生したときからの付き合い。
……そう、“虚無”だ。
即座に神力で術式を展開。その発生源を特定……
しようとして、その“虚無”は感じられなくなった。現れたときと同じように、ふっと消えた。
……気のせい、な訳ない。
確かにあの虚無は僕への指向性を持っていた。
僕が“虚無”を感じたんだ。気のせいな訳がない。
……だけどこの家の中で“虚無”があるのは基本的に実験室だけだ。虚無が在るはずがない……
つまり誰かが放った、誰かの魂が発生させた“虚無”ということだ。
だったら。指向性を持たせた虚無を発生させるのを攻撃と見なせば、黒は誰の仕業か判るはず。
そう思って黒を見ると。
驚いたように白を見ていた。
……いや、白ではない。
白のすぐ前に、見たことのない少女が立っていた。黒は彼女を見ていたみたいだ。
彼女の髪はなんとも形容しがたい色をしている。
あえていうなら……そうだね、輝きが無い銀色……かな?いや、それも適切じゃないように感じる。
僕は彼女を知っている。何年も前から。
彼女は僕を見据えて言った。
「創造神様。……こんにちは」
その口調には何やら、悲哀のようなものが混じっていた。
まるで狂喜を宿しているかのように。
髪と同じ色の瞳に僕が映っていないように感じた。
……へぇ、これが“無瞑”か。
白と同じ弱さを持ち、黒と同じ強さを持つ。
そしてそこに銀華と同じ覇気を纏い、僕と同じ気配を宿す。
ある意味、素晴らしい。
別の意味で、素晴らしくない。
「あぁ、無瞑ちゃん。はじめまして」
そう、『はじめまして』だ。
僕と無瞑は初めて出会った。
初めて言葉と目線を交わした。
そして、僕が意識下において『無瞑』と呼び捨てしているのに言葉では『ちゃん』付け。
やはり、僕は、無瞑を家族として受け入れていないらしい。
……無瞑を生み出した張本人にも関わらず。
「無瞑ちゃん、君が僕の前で人型になるなんて、銀華とよっぽど、言葉を、心を、通わせたのかな?」
彼女が人型になるなんて、今まで――少なくとも一億年前までは――無かったことなのだから。
銀華が気付かない内に無瞑を手放すなんてあり得ない。
僕に気付かれながらも、意識に留まらぬよう、いつの間にか、行動していたのだろう。
おそらく黒が白にドナドナされたとき。
……ああ、もう!
ダメだこのテンション。僕のキャラじゃないし柄じゃない。
あーもーやめやめ。
なんか僕の不穏な気配に当てられたのか黒も白も伊弉諾伊弉冉ペアも硬直してしまっている。
無瞑なんかもう悲しそうな顔してるし。
そんなに『ちゃん付け』されたのがアレだったのかな?ショックだったのかな?
ともあれ、僕のさっきまでのテンションは虚無による影響の一つ。
所謂“心の中に闇を抱えている”ってあるじゃん?あんな感じ。どーしても時たまブラックでダークでシリアスになっちゃうんだ。
これはたぶん駄神様もいっしょ。
駄神様も結構テンション変だったけど、今の僕にそっくりなんだよね。
まぁ僕が駄神様の力で創造神になったってのも原因の一つだろうけど。
……なんか自分で駄神様と自分が同じって言うの結構ダメージくるね。
「さて、無瞑。どうして人型になったのかな?何か心変わりでもあったの?」
とはいえ大方見当はついてる。
今の無瞑を見る限り、彼女は“式”ではないのだ。
たぶん銀華の式神にそうやったらなれるかとかの相談じゃない?
無瞑は一度目をつぶり、深呼吸してからこう言った。
「私を、鍛え直して、ください」
え、ちょっと想定してなかった答えなんですけど。
……あ、うん。式になる相談なんて白にすればいい話だしね。
「……厚かましいお願いだというのは、理解しているつもりです」
いや、黙ってるのは混乱してるだけで渋ってるんじゃないよ。
鍛え直す?つまり刀として?
「いやぁ、別にいいけど。……理由を聞こうか」
んー、無瞑相手だと口調がどうしてもぶれるね。
一人のときはいいけど、白と黒がいるし、伊弉諾くんに伊弉冉ちゃんもいる。あまり心象を悪くしたくないし……っていうか心象がどうの考える時点でもうダメだ。
あーやだやだ。これだから虚無と駄神様は嫌いなんだよ。




