表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

あのウロコがダメなのです

 最近の図鑑はDVD付きですが、爬虫類のだけは勘弁してください…!!

 蛇が跳ぶなんて、名前がパラダイスとか意味が分からない!

 ジャングルは人が行くところではありません!

 突風とバサバサという羽の音。

 すぐそこにいたそれは、ビッシリ生えた爬虫類の鱗が翡翠色に輝いている。

 二階建ての家くらいの体に、薄く開いた口には牙が並び、冷たい縦長の瞳がギラリと睨む。

 恐怖と混乱で動かなかった体が、ずうぅぅんっと二本足で目の前に巨体が降り立った瞬間、弾かれたように寝ているあかりに覆い被さる。


(…っはあ!? えっ!? ドラゴン?)


 見たものが信じられなくて今度は顔だけ後ろに向ける。


(コモドドラゴン? はでっかい蜥蜴か! えっ!? 本物? ファンタジー?)


 幻ではあり得ない確かな質量を肌に感じながら脳裏を掠めたのは、最近日課になった寝る前にネットで読んでた小説。

 その中でも異世界トリップと言われるファンタジー系の始まり方を思い出した。魔法と剣とイケメンの中世ヨーロッパのような世界観の物語。

 でもあれは、突然現れる光の中に吸い込まれてた!

 そんで、どこかの石造りの塔のてっぺんとかお城の地下とかの魔方陣の上にいて、金髪美形の王子とかイケメン宰相とかに迎えられてた!

 それかゲームの知識で魔法無双とかしてた!


(まだそんなに読んでたわけじゃないけど、こんないきなりドラゴンに襲われるなんて話読んだことないよ~!! 第一わたしパズルゲーム専門だしー!!)


「…っ!? っ! ……!!」


 逃げなきゃ! 逃げなきゃ! あかりだけでも…っ!


《ねぇ、君が聖女?》


 ほとんど本能であかりを抱っこして逃げようとした背中側から小学生の男の子のような少し高めの声がした。

 緊張感のない、ボーイソプラノ。

 回りを見渡してもわたしたちとドラゴン以外誰もいない。

 ドラゴンがしゃべる?

 確かにそんな話もあったけど…。


《ねぇ、聞こえてる? 君、聖女なの?》


(聖女…?)


 走り出してた足が止まる。

 本当は止まったらいけなかったのかもしれない。

 そうやって油断させていきなり襲ってくるのかもしれない。

 それは大きな口か、よく聞くブレスか。

 なのに足を止めてしまった。

 ドラゴンがしゃべったことにビックリしたからか、その声があまりにもあっけらかんとしてたからなのか。


「……聖女って、なに?」


 声が震える。

 あかりを抱いてる腕に力が入りすぎて肩まで痛くなる。

 ドラゴンは一歩も動かない。でも首を傾げるようにこちらを覗きこんでくる。

 イラストなら『きゅるん☆』って感じになるんだろうけど、わたしは蛇も蜥蜴も嫌いだ!

 こんな恐竜みたいなのが『きゅるん☆』してもかわいいわけがない!!!

 あぁ、こんなときにまだ寝てるなんて、うちの子けっこう大物かもしれない。


《あれ~? 聖女じゃないの~? でも二人の他に人間の匂いしないよ?》


 あれ~? あれ~?っていいながら左右に首を振るドラゴン。

 声はかわいいのにかわいくない! というより、怖い!

 頭が動く度にぶぉんぶぉん音が鳴るし、開いた口に飲み込まれそうだ。

 熊と遭遇したときは、刺激しないよう落ち着いて、背中を見せずにジリジリと後退しろっていう。

 それに倣って気づかれないように足を動かす。

 まともに考えて、ドラゴンから逃げられるわけはない。

 絶対あっちの方が動きは速いし空を飛ぶし、わたしは子どもを抱いてる。

 でも、目の前のドラゴンはまだ頭を振ってて、いきなり噛みついてくるような仕草は見せない。

 この近くに隠れられるような場所は、ない。

 それでも、このまま距離を取れれば逃げられるかもしれない。

 無理に決まってる。でも、やらなきゃ。


(こんなワケわかんないところで死にたくない!)


 ジリジリ、ジリジリと慎重に後退していく。

 浮き足立ちそうになるのを必死で抑えながらゆっくり、ゆっくり足を滑らす。

 …と、ドラゴンがこちらを見た。


《あれ~? あ…、あ、待って、待って》


 緊張のせいか、耳がよく聞こえない。

 ぼわんぼわんと膜が張られたようなのに、自分の血が流れる音がいやに耳の近くでする。

 何かしら言ったドラゴンはベロンと長い舌を伸ばしてわたしの体に巻きつけた!


「…!! …っ! ~~~!!」


 声すら出ない!

 喉からひきつった音が辛うじて漏れただけ。

 舌の弾力とベタベタのヨダレが妙に生々しい。

 しゅるっと口元に寄せられる。


(あかり、ごめん!)


 ぎゅっと娘を抱きしめる。

 せめて、せめてこの子が痛い思いをしませんように…っ!

 出来ればわたしも痛くありませんように!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ