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9. 別に羨ましくない

「シュウ君、サンダー君、サファゼ村へようこそ!

縁あって君達が最初にこの村に訪れてくれたことを光栄に思います。

サファゼ村は王都からジロー、フォルマートへと続く重要な街道沿いにあり

ミーソ等の特産品を産出することで発展してきました。

しかし近年、北部の諸国との交易の活発化により、

港町フォルマートの重要性が下がるとともに……」


 木箱の上に立って声を張り上げている姿は、さすが村長の風格がある。

だけど、乾杯の挨拶のはずだったよね。社長のスピーチみたいなんですけど。

チラチラと手元を見てるけど、いつの間に原稿なんか作ったんだろ。


「話が長ぇー!! しかも分かんねー!!」

「メシが冷めちまうだろ!!!」

「お腹すいたピョ……」


 村人達から容赦無いブーイング。

村長は手に持ったメモをションボリ眺めて

「では、これより歓迎の宴を始めます……」

とだけ言って肩を落として箱を下りた。


 おれ達はあっという間に取り囲まれた。

おれはスピーチの時からキラキラした目でこっちを見てた子供達に、

サンダーは熱っぽい目で見ていた娘さん達に。

いや、別に羨ましくないからね。


「お兄ちゃんは移界人ニャ? 移界人って何ニャ? 海の向こうから来たニャ?」

「今度、兄ちゃんは特別に秘密基地を教えてやるモゥ」

「とりあえず、座って話そうか」

今度は尻餅をつかないように先に座ったので、気持ちに余裕がある。

おれの膝の上が定位置になったブラブル君を乗せて、

保父さんになったような微笑ましい気持ちで子供達の話を聞いた。


 少し大きい子達は母親の自慢料理を持ってきてくれる。

「お母さんのシチューはお肉が溶けるくらい柔らかいの。

あたしも手伝ったんだよ」

ミルクで煮こまれ溶けた野菜が、大ぶりに切られた肉の臭みを消す。

サワークリームのような酸味と野菜の旨味が飽きさせない味を作っている。

日本で食べてたシチューとは違うけど、これも大人も子供も好きそうだ。

「おいらが捕ってきたツノウサギの肉だ」

香草焼きなのかな。ハーブと塩をまぶしてこんがりと焼いた肉。

ツノウサギと言うくらいだから、兎の仲間なんだろう。

兎の肉はクセがないと聞いたことがあるけど、この肉は少しクセがあって

ハーブとよく合っている。ちょっと鶏のスモークに似てるかもしれない。


 おれが次々と料理を食べている間、サンダーもお姉さん方にお酌され

料理を勧められてにこやかに応対している。

んん、犬だった時にもモテてたけど、もっと素っ気なかったような……。

そもそも、ピチピチTシャツに短パン、ビーサンにリュック背負った

昭和の小学生みたいな格好でなぜモテる。

全く、男前は得だよね……。

いや、別に羨ましくないからね。




「シュウ君。ちょっといいですか」

村長さんがおれを呼びに来たようだ。

子供達に「シュウ君を少し借りますよ」と断り、おれを庭の隅に誘った。


「こちらはオルモンド商会のオットーさん。

オルモンド商会とは、オットーさんの先代の頃からこの村との取引があります。

ジローさんの要望でうちの村で細々と作っていたミーソを王都で売り出したり、

不作の年に食料を融通してもらったり、いろいろと便宜をはかってもらっています」

そこに居たのは恰幅のいい、村長と同じくらいの年の男だ。

ケモ耳ではないから人間なんだろう。

しかし……シマのシャツにベストと小さな帽子、大きなヒゲ……誰かに似てる。


「オルモンド商会七代目になりますオットーです。

七代目と言いましても親父がまだ現役で居座ってますから、

私は仕入れなどで国中を回っているんですよ。

うちも古い商会ですからね、国中に支店があるので何かとお役に立てるでしょう。

ところでシュウさん早速ですが、タマゴをお持ちと聞きましたがお売り頂けませんか」


「ブラブルさんの家にお礼にいくつか渡そうと思ってるから。

えっと……2パック……20個なら。」

「おぉ、なんと20個も! それだけあれば王都での販売が……。

ううむ、20個で2オーノ。金貨2枚でいかがでしょう」


「どうと言われても……こっちの世界のお金は分からないし」

村長の方を見ると頷いていたから、この値段で良いってことなのかな。


「じゃあ、それでお願いします」

おれはエコバッグから玉子を取り出しながら

「賞味期限が書いてあるから……。昨日採れたやつかな。

あと14日は生で食べても大丈夫みたい」

「素晴らしい!! タマゴは生が一番美味ですからな!!

それになんと美しい入れ物!! まさに白く輝くタマゴの為の容器ですな。

さて、急いで出発すれば、王都でも生タマゴが食せます」


 オットーさんはいそいそと、腰に括ってある革袋から金貨と銀貨を取り出した。

「手持ちがないと聞きましたので、対価の半分は

この村の店でも使いやすい銀貨でお渡しします。

この銀貨はアルノと言って、10枚で金貨1枚、1オーノです。

では、早速明日の早朝にでも村を立ちますので、

準備のためこれで失礼ます」


「忙しい人だったね」

「彼はああ見えて、優秀な商人です。私の幼馴染でもあります。

彼は小さい頃、華奢で体も弱くて。この村で療養していたんです」

歳月とは恐ろしい。華奢な少年をあそこまで変えるとは!


「そろそろお疲れでしょう。ジュラブルを呼んで家に案内させましょう」




 おれとサンダー、ジュラブルさん一家は長老に挨拶して、

まだまだ続きそうな宴会を先にお暇することにした。


 おれと手を繋いで、嬉しそうに、でも少し眠そうに話すブラブル君。

しばらくするとジュラブルさんに抱かれて眠ってしまい、

微笑みながらそれを覗きこむ母親。

そんな親子を見てると、父さんと母さんを思い出した。

心配してるだろうな……。

遠い世界に来てしまったからか、1日も経ってないのに酷く会いたい。


「俺が居ますから」

横に並んだサンダーが言う。

寂しそうな顔でもしてたか、おれ。

「今日はいろいろあって疲れたなー、サンダー。

明日も教会に行ったり、あ、俺達の服も買わなきゃね。

ジローに行くなら準備もしなきゃ。

忙しくなるから、今日はしっかり休まないと」

おれは元気にそう言った。


 本当に、今日はいろいろあった。

そう、いろいろと……




「ああああああ、DVD返すの忘れたっ!!!」


 延滞料が小遣いの範囲内のうちに、元の世界へ帰れますように……。



今回は少し長めになりました。


オットーさんは、ゲームのキャラがモデルです。

異世界の商人っていうと、なんだかこの人が浮かぶんですよ。

オットーさんはまた出したいなぁ。

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