8. たんたんタヌキ爺さん
「まず、この世界に全ての物に魔力がある。人にも物にもな。
その魔力で魔法が生まれる。しかし、魔法を操れる者は少ない。
魔力の流れを作り、意のままに体の外に出すことが出来る者のみじゃ。
他の生き物とて同じこと。魔法を操る動植物は魔物と呼ばれるのじゃ」
狸の長老はズズズと茶をすすると、ほれこんな感じじゃと掌の上に
光る金色の玉を出した。
「おおお。眩しい!!」
たんたんタヌキの……おれの頭の中をあのフレーズが駆け巡った。
「わしのは光の魔法じゃ。オンダヨーク様の加護じゃの」
んん? そこはかとなく親しみのある響き。
「オンダヨーク様って神様のこと?」
「そう、3柱と呼ばれる神の一人でな、正義と天則の神じゃ。
この世界には、1主・3柱の神が居る。
1主のギルダムル様が混沌としておったこの世界に降り立ち……」
この部分は後で教会で聞くだろうし、あんまり宗教には関心がないから、
テキトーにふんふんと聞き流した。
「……で、魔石は骨からできておる。
魔力が滞留しておった古の龍泉の跡から取れる魔石は大きさもあり、
膨大な力があるのじゃ。これは日常生活に使う魔道具には使えんがな」
軽くぼんやりしている間に話が変わってました。
「そろそろ良い頃合いじゃ。聞きたい事があればまた来るが良い」
そう言って長老はとっぷりと日が暮れた窓の外を見た。
あちこちに柔らかな明かりが灯っていて、人々が忙しく動いているのようだ。
野次馬たち、まだ帰ってなかったんだなぁ。
「最後に一つ。
移界人には神の恩寵があるからの、害をなそうとする輩には天罰が下るじゃろう。
まあ、おぬし達を殺そうとする輩はおらんということじゃ。
じゃが、利用しようとする輩は必ずおる。
今までの移界人は才能と恩寵によって、少なからずイルミナードの発展に寄与しとった。
うまい汁を吸おうと多くのものが寄ってくるじゃろう。
傀儡になりたくなくば、早々に生活の基盤をつくるがよいぞ。
寄る辺のない身では差し出された手を選べんからの」
おれは揉み手をしながらニヤニヤと寄ってくる脂ぎったオッサン達を想像した。
そして、監視され馬車馬のように働かされ枝のように痩せ細った自分の姿。
ガックリとうなだれて、つい情けない声がでてしまうってもんだ。
「おれ普通の高校生なのに……。特技もないし、成績も並だったから知識もないよ。
それに利用したりされたりなんて、政治家みたいな事、荷が重すぎる……。
やだやだ、おれどっかに隠れる。帰れるまで隠遁生活する!!」
「ふぉっふぉっふぉっ。そう怯えんでも良いじゃろうて。
この村にも商人が立ち寄るでの、移界人の噂もいずれ王都に届くじゃろう。
そのうち王と議会に呼ばれるじゃろうなぁ。
まあ、王都に出向く時に今の話を思い出すがよい」
王様!! 議会!!
おれ、無理やり議会に連行されるのか?!
んで、議長席から赤マントと王冠の議長から重々しく「遠田脩君」とか呼ばれて
おれはおどおどと答弁席へ……。
「記憶にございません」を繰り返し、けちょんけちょんに野次られるおれ……。
おれに答弁なんか出来るわけないじゃないか!!
おれの脳裏に、テレビで見た国会答弁の様子と映画で見た王様のイメージがミックスした妙な映像が流れた。
「お父さん、準備ができました」
想像の中でまでダメっぷりを発揮している間に、
丸顔の人の良さそうな中年男性が居間に入ってきてたようだ。
「初めまして。村長のロシタッソです。
異世界からの客人ですね。この村へお迎え出来て光栄です」
首タオルのゆるーい感じの長老とは違い、
シャツにベストとシワのないズボンと几帳面そうな出で立ちだ。
「歓迎の宴の用意ができています。村のみなが張り切って準備したものです。
お疲れでしょうがお付き合いください」
一同が移動したのは庭。
魔道具の優しい光がそこここに灯り、みなが持ち寄ったテーブルには
これも持ち寄ったそれぞれの家の自慢料理が並ぶ。
テーブルの間から大人も子供もにこやかに手招きをする。
村人達は口々に歓迎の言葉を乗せて、おれ達を中央の席に誘った。
宴会の始まりだ。
いろいろと駆け足になってしまいました。
狸爺にもっと説明をさせる予定だったのですが……。
イルミナードの仕様は折に触れ1つずつ解明していくってことで……。