7. 野次馬連
はい、ハーメルンの笛吹き男が通りますよー。
先頭、獲物を持ったオッサンカルテット。
後に続くは、移界人であるおれとサンダー。
更に続くよ、おれに纏わりつく子供たち。
少し遅れて、何しに来るんだか分からん村人達。
ぞろぞろぞろぞろ……。
賑やかさが興味を呼び、なんだなんだとさらに集団が膨れ上がる。
村人の大半が行進に参加してるんじゃないの。
結局のところ、みんな暇なんだね。
「ねぇサンダー。俺達が異世界から来たってこと、受け入れて貰えて良かったけどさ。
皆、警戒心無さ過ぎじゃない。ふつー、知らない世界から来たなんて言ったら
未知の生物だよ。宇宙人か妖怪かってレベルじゃん」
「異世界からの先人が居るらしいですから。
その人達の功績のおかげかもしれませんね」
「あー、ジローさんとか。陶器作ってたって言ってたよね。
うわぁぁぁ。おれ、何の知識も技術も無いよ。普通の高校生だよ。
いきなり賢人ポジションに置かれちゃうの?
怖いよ、おれ日本で普通に生きたいんだよ」
「そんなに慌てても仕方がないですよ。
この世界での移界人の扱いについても長老に聞いてみましょう。
無茶なことを要求されたら、逃げればいいんです。
俺が守りますから」
さらっと男前発言でました。
俺には逃げるの選択肢は思いつかなかった。
知らない世界で生き抜く自信がないし。元の世界に戻る前に、天国行きは確実。
でもサンダーは守るって言ってくれた。そう、相棒と一緒なら大丈夫。
おれも覚悟を決めた。
怖い事になったら、逃げよう!! と。
長老=村長かと思いきや、長老は前村長らしい。
まずは村長に挨拶するのが礼儀ではと思ったら、長老の息子が村長だって。
村長は親父である長老に頭が上がらないので、長老に挨拶しておけばいいだろうとのこと。
長老は現在、悠々自適の生活を楽しんでいるそうだ。
「着いたぞ。ここが村長の家だ」
長老宅は村の奥まった所にあった。
高さは3m程、厚みは人が歩ける程の石垣が続き、見張り台の様なものもある。
今は門が開いているが、門扉は重厚な作りで一人では開閉できそうにない。
どう見ても、ちょっとした要塞だ。
「大型の魔獣やら盗賊なんかの襲撃があった時には、村の皆がここに逃げ込むことになってる。
お、あれが長老だ」
ジュラブルさんの指す方を見れば、
麦わら帽子、首にはタオル、長靴に手袋で家庭菜園してる丸い顔の爺さん。
「おー、みな揃ってどうしたのじゃ。きゅうり来てもキュウリはないぞ。ふぉっふぉっふぉっ」
「………」
「………」
今確かに、俺の目には北極熊と流氷が見えた。
長老が気楽に暮らしてるのは良くわかった。
広い屋敷とはいえ、とてもじゃないが行進全てを入れられるはずもなく、
おれとサンダー、ジュラブルさんが中に招かれ、長老の話を聞くことになった。
置いて行かれることにブラブル君はかなりスネスネだったけど
「シュウとサンダーを家に泊めるから、母さんに言ってこい」
というジュラブルさんの一言で、嬉々として家にすっ飛んでった。
村人達は誰も帰ろうとはせず、声高に話しながら群れている。
不本意ながら、おれにも連れてきた責任があるとかいえ、ちょっとウザい。
「いつものことじゃ。娯楽に飢えとるからの。まあ後を楽しみにしておくがよい」
長老が気にしてないからいっか。長老の家の庭だしね。
案内されたのは、日本の庶民レベルと照らし合わせてもごく普通の居間だった。
ソファーは3人掛けのが2つと1人掛けのが2つ、テーブル、本棚、チェスト。
日本でよく見るリビングと同じだ。
変わった所といえば、テレビが無いこととチェストの上の置物が妙な形だというくらい。
「まあ、座りなされ。いまは居間など珍しくないじゃろ。ふぉっふぉっふぉっ」
「………」
「こいつらは移界人で、人間がシュウ、犬族がサンダー。
うちのブラブルが魔獣に襲われたのを救ってもらいました」
ジュラブルさんは長老のダジャレを華麗にスルーした。
「こんにちは。おじゃましてます?」
まるで隣の国から来ましたみたいに軽く紹介されちゃったんで、どう挨拶していいんだか。
迷った挙句に、語尾が上がってしまったのは見逃して欲しい。
「俺達は今日この世界にきたばかりで、戸惑っています。
ここがどんな世界なのか。どうしたら元の世界に戻れるのか知りたい」
「ふむ、移界人か。
おぬし達が居た世界と異にする場所では、戸惑うのも無理ないことじゃ。
そう、この世界イルミナードには神の恩寵によって異界の人間が呼び寄せられる。
最近は120年なかったがの。昔は10年に1人は訪れておったそうじゃ。
ほとんどの者がこの地に骨を埋めておる。じゃが、幾人かは異界へ戻ったと記録があるぞ」
「良かった……帰る方法はあるんだね」
「まあ、神次第じゃな。人にはどうにもできんからの。
すぐには帰れんと覚悟しておいたほうが良い。
ところで、おぬし達はどの神に会ったのじゃ」
「神……ですか。会った覚えはないけど。
うーん、散歩してたら知らない森にいて、会ったのは馬と鳥とウサギ?」
長老は眉間にシワをよせて俯くと
「明日にでも教会に行くが良い。どの神の加護だか知っておいたほうが良いじゃろう。
それに、元の世界に戻るにしても、しばらくはイルミナードに暮らすのじゃ。
神々の事や教義も知っておかなければな」
「うん。どの神様が呼んだのか分かれば、帰してってお願いしやすいかも。
行ってみる価値があるね」
「うむ。ではこのイルミナードについて語るかの。
わしが若い頃、ジロー翁によく話を聞いたもんじゃ。
ジロー翁が言っておった、異世界とは違う事柄から話そうかの」
カラカラと音がして、女の人がワゴンでお茶を運んできた。
30前後かな。楚々とした仕草でお茶を入れてくれる。
長老に似た、丸顔で小さな耳がある……この顔は……そう、タヌキだ!!
「娘じゃ。別嬪じゃろ。
まだ未婚じゃでの、おぬし達がこの町に住むなら嫁にやるぞい。
ふぉっふぉっふぉっ。
まあ、茶でも飲みながら話の続きをしようかの」
爺さん、幾つの時の子なのよ。
ってか、本日2度めの結婚話だよ。しかもウマとヌタキって……。
はっは、自分で言うのもなんだけど、モテない人生歩んできましたよ。
女の子とウフフアハハに夢がある。
このさい、人がだめなら獣人もアリかなぁなんて思うけど。
だけど16歳の高校生なのよ、まだ可能性は充分あるはず。
まだ、結婚はできません。
と勝手に心の中でお断りした、タヌキ嬢の入れてくれた良い香りのお茶は、
ほんのり甘くて美味しかった。
長老宅の話は1話で終わるはずだったのに……。
全く進みませんでした! (゜д゜lll)
次回に続きます。