3. 散歩日和
今日は1~4話を連続投稿予定です。
Tシャツとジーンズに着替え、リュックに荷物を詰める。
先週出かけた時のものがそのまま入ってる気がするが、見なかったことにする。
いや、自分でもどうかなと思うけど、のんびり支度しすぎて時間が無くなってきたから仕方ない。
母さんに頼まれた玉子は、おばちゃん達の争奪戦により
スーパーが開店してから30分程で売り切れる。
ミッション完了の為には急がないと。
財布、携帯、サンダーのおやつに散歩グッズ。返却するDVDも忘れずに。
二階に向けて「いってきます」と声を張り上げてから玄関を出る。
梅雨が明けたばかりの7月初旬。今日もいい天気。
午前中なのにちょっと暑いくらいだ。
庭に回ってサンダーに声をかける。
「サンダー、出かけるよ」
散歩用のリードに付け替えたサンダーを連れて外に出た。
「こんにちはー」
「しゅうちゃん、サンダーくん、こんにちは」
ご近所のおばちゃんやお婆ちゃん達に、おれは《しゅうちゃん》と呼ばれている。
サンダーが《くん》付けなのに、おれは《ちゃん》。
女顔のせいだと思うとやり切れない感はあるけど、面倒なのでそのままにしてる。
なにしろ、おばちゃんは強い。怖い。動物の次くらいに怖いのだ。
ご近所さんと挨拶を交わしたり、アメをもらったり、子供に膝カックンされたり、
「どこ受験するの?」と聞かれてみたり(もう4月に入学してますよ)そんなこんなで、
家から徒歩10分程の商店街へ到着した。
「サンダー、ここで待ってて」
リードをガードレールに繋ぎ、スーパーへ。
修羅場をくぐり抜け、98円の玉子を3パックゲット。
このスーパーは、お一人様一パック限定とかケチなことを言わないのだ。
予算が少ないので、昼は冷蔵庫にある物でチャーハンでも作るとして、
夕飯の食材を探すことにする。
誕生日だし、ステーキでも食べたいよなぁ。
和牛ステーキ用肉、一枚1200円也。あっさり断念。
鶏肉で我慢するかな。もも肉、100g・102円。よし、合格。
月末まで海外出張の父さんの分を除いて、
家族分2人+1匹分400gのパックをカゴに放り込む。
他に付け合わせのニンジンやジャガイモ、プチトマトもチョイス。
カフェオレ、コーラのペットボトルも一本ずつ購入。
一本は散歩中に飲むつもり。
続いて、歯磨き粉を選ぶことに。うーんと辛いのってどれだろう。
「きっと修ちゃんの役に立つ予感がするの」って母さんが言ってたけど、
理由が想像できない。爽やかな息で好感度UP?
モテないおれへの気遣いですか。
母さんの予感は当たる。物凄い当たる。女の勘ってレベルじゃない。
100%の的中率だ。狙って予想は出来ないらしいから、
予知とか大げさなものじゃないと思う。
でも、従っておくのが無難(母さんの機嫌を損なわないためにも)なので、
《スーパー・エクストラ・クール》というのをチョイス。
可愛いバイトさんがいるレジで会計を済ませて店外へ。
サンダーはママチャリとママチャリの間に、置物のように行儀よくお座りしていた。
妙に馴染んでいて可笑しい。精悍な感じの犬だけに、余計に。
「おまたせ」
おれ達は公園に向かって歩きだす。目的地は広い敷地を持つ森林公園だ。
森林公園って言っても、林より広場の方が広いけどね。
家とスーパーと公園の3点、ちょうど場所的には正三角形になる。
帰り道というよりも遠回りと言った感じだ。
「今日は肉買っちゃったから、早めに切り上げないと。暑くなってきたしね。
また夕方にでも家の近くを散歩する?」
「バゥ」
公共の場所でのマナーを守って、リードをつけたサンダーと軽く走る。
ジョギング中の中年夫婦を追い越し、ベンチのカップルを見なかったことにし、
いつものコースを軽快に走った。
エコバッグ持参なのが、かっこつかないけど。
軽く汗をかいたところで、涼しそうな木陰で休む。
木に寄りかかってエコバッグからコーラでも出そうとした時、
地面がグラリと揺れた気がした。
と、目の前が暗くなった……。