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15. 押忍! 魔法道場

 さてさて、魔法講座三日目。

懲りずに今日も教会に来ちゃいました。


 昨日の訓練という名の強制労働(しかも3人の看守付き)を思えば、

バックレてもおかしくない。

しかし、一晩経ったらあら不思議。気力が復活してたんだよね。

魔力循環の健康効果かもしれない!

それに魔法使いってロマンでしょ。憧れでしょ。

せっかく異世界に来たんだから使えるのなら使ってみたい。

そんな気持ちに負けちゃいました。

試しに一日だけ勉強するくらいならいいかなーなんて……。

昨日みたいな事になったら、さっさとジローへトンズラするけどね。




 本日の生徒はオンダヨーク様の加護持ちのおれとサンダーだ。

先生は、もちろんアッコさん。


 ご加護の魔法を習うのは屋外ということで、おれ達は教会の裏庭に出た。

視界の隅に魔導車らしき不吉な物が見えたような気がする。


「オンダヨーク様は《古の英雄》にして、正義と天則の神。

遥か古の時、創造主ギルダムル様唯一神であった頃、

呪脈を巡っていた魔力が、永き時を経て徐々に一処に集まり凝縮していった。

数多の天変地異、強大な魔物の出現、魔力の固まりは

その秩序の無き力故に世界を壊しつつあった。

まだ只人であったオンダヨーク様が討伐に向かわれ、

ギルダムル様のご加護を得てその身を引き換えに魔物を討った」


 アッコさんは朗々と語る。


「ギルダムル様は英雄の死を惜しみ、己の力を分け与え

正義と天則の神へと生まれ変わらせたのだ。

神となったオンダヨーク様は、魔力の留まりを開放し世界の隅々に行き渡らせた。

以来、人も獣も路傍の石とて、この世の全てに魔力が宿るようになったという」


 オンダヨークの神官はそこで一息ついた。


「そういうことでだ、オンダヨーク様のご加護は

全てを平等に流れる《風》、不均衡や悪を正す《雷》が基本だ」


「ハイッ! アッコ先生!」


「何だね、シュウ君」


 アッコさんは、手を挙げたおれをビシッと指さした。

先生、結構ノリノリの様子である。

勝手に《アッコ先生》と呼んでみたが気にしてないのか、

気に入ったのか謎だ。


「先生は真偽を見極める技を持ってるって言ってたけど

それは魔法じゃないの?」


「よく気づいたな。《真偽を見極める技》は雷魔法の上級だ。

嘘を付いた者に正義の鉄槌が下るのだ。

そういえば、長老の奥方が存命だった頃、

村に訪れた子連れの冒険者の女がな、我が子は長老の子だと言い出してな。

村を二分するほどの夫婦喧嘩になった故、村人総出で私に仲裁を頼みに来てな。

仕方なく、ジャッジをしたのだが……。長老にそれは見事な稲妻が落ちたわ!

長老め、オロオロしながら心当たりが無いと言っておったが

ウソだったとういわけだ。

長老は脳天が禿げ、周りがチリチリという奇天烈な髪型で2年すごしたわ。

ハッハッハ。結局、かの子は長老の種ではなかったんだがな」


「ホントなにやってんのタヌキ爺さん……。

長老の不倫騒動なんて情報は聞きたくはなかったけど、雷の魔法を鍛えれば

真偽を見極める技っていうのが使えるようになるんだよね。

チリチリパンチヘアにするとか……ギャグ漫画じゃないんだから……。

カッコ悪いし、おれ覚えなくてもいいかなー」


「何を言うか。重宝されるんだぞ。長老の浮気疑惑はともかく、

法廷には必ず真偽を見極める技を持つものが裁判員として控えている。

嘘を暴く手段があれば、犯罪の抑止力にもなるしな。

まあ、すぐに覚えられるものではないわ。この2日間は初級魔法の訓練だ。

魔力の強いお前達なら中級まで習得できるやもしれん。期待しとるぞ!」


 そう言って、アッコさんは厳つい体にふさわしい声でハッハッハと笑い、

ようやく訓練に入った。




「よし、では雷魔法の初歩の初歩、ライトの魔法からだ。

右の掌を上に向けて、その手の上に丸い明かりが点くのを想像しろ。

手で握れる程の大きさの物でいいぞ」


「え、それだけ? 呪文とかは無いの?」


「ライトごときに呪文なんぞ必要ないわ! 

上級魔法を使う時には気力を高める呪文、天候などを操る大規模魔法を

使う時には神の力を借りる為の祈りの言葉があるがな。

呪いではあるまいし、初級・中級魔法に呪文は必要ない。

体内から魔力を出す時にイメージを乗せるのだ」


「イメージで魔法を作るわけね。やってみる」


 明かり、明かり……電球みたいなイメージかな……。


「おおおおお、点いた!!」


 豆電球が……。ショボい、ショボすぎる!

しかも切れかけの白熱灯の如く、弱々しく点滅してたりする。

部屋の照明がこんなんだったら、暗い性格になること請け合いだ。


「うーむ、シュウは鍛錬が必要だな。

サンダーは見事だ。次は頭位の大きさをイメージしてみろ」


 サンダーは、掌の上10cm程の所に紅く光る玉を出している。

おお、魔法使いっぽくてカッコイイ。

しかし、おれの豆電球と見比べてバツが悪そうにするのは止めてもらいたい。




 それから、光の玉の大きさや持続時間を調節する訓練を続けた。

おれはどんなに力んでも光の玉を大きくすることができず、

アッコさんに呆れられ、サンダーに慈愛の目で見られた。

自分ではやれば出来る子だと思ってたけど、向き不向きがあるのだ。

他の魔法なら……と、心のなかで自分で自分を励ましてみた。


 持続時間の調節は魔力を出す大きさでするのだが、それがまた難しかった。

自棄になって持続時間に魔力をつぎ込んだら、

やりすぎていつになっても消えない灯りになってしまった。

後々の話だが、その光は5年近くも消えなかったりするので、

夜の待ち合わせ場所としてシンボル的存在になったりする。




 そして続くは、魔法講座四日目。今日もアッコ先生です。


「今日は風の魔法の初歩。ウインドだな。

生け垣に右手を向けて、空気の塊を押し出す感じで風を出す。

まずは葉がそよぐ位でな」


 押し出す感じがよく分からない……。

1m位の生け垣に向けて力んでみても、葉がそよりともしない。

風、風……扇風機、うちわ……うちわでパタパタ。

思考が体にリンクしたようで、手で扇いでしまう。


 メキメキ……。低木が根本から折れた……。


「……!!」


 アッコさんは呆然と

「それは……重力の魔法だな……ウルトリーネ様の造形魔法の中級だ。

もう少し魔力を注いでいれば木を押しつぶしただろうな。

いきなり違う魔法の中級を使うとは、凄いのか阿呆なのか……。

生け垣は、明日癒しの魔法を習ったら治しておくように……な」


 遠い目をされると、居たたまれないので質問をしてみる。


「アッコ先生、なんかいろいろごめんなさい。

それで……風の出し方が分からないんですが……」


「うむ、息を吹きかけるようにしてみたらどうかね。

掌に口があって、そこからフーッと息を吐くイメージだ」


 掌に口ってビジュアル的にどうかとは思うが、今度は分かりやすい。

そしてついに、風が出ることは出た。が、ショボかった……。

リーフさんのため息のほうが破壊力があるだろう。

しばらく練習を重ねて、涼しく感じる位の風が出せるようになったが、

あまり役に立たないかもしれないのが悲しい。


 アッコ先生は、強い風も広範囲の風も出せないおれにガックリ肩を落とし、

指示通り自在に風を操るサンダーに嬉々とした顔を見せた。


「これで私の講習は終わりだ。

魔法を使う者の多くは、シュウ程度、初級を使う魔法使いだ。

大きな魔力を持ちながらその程度なのは不思議だが、まあ標準ではあるし

他のご加護もあるから気にするな。

サンダーは魔力に相応しい魔法が使えるようだな。

高名な魔法使いの元か学院で修行を積み、中・上級魔法を習得するのもいいだろう。

これから、鍛錬を怠らず日々精進するように」




 おれ達、魔法使いになりました!

ゲームとか映画の魔法使いに比べると、威力も迫力の欠片もないけど。

胡散臭い手品師程度に見えなくもないけど、本物の魔法使いです。

種も仕掛けもありません。

そこんとこ、間違えないでくださいね。


ここまでで、序盤に書いておきたかった設定は粗方終わりました。


これからようやく物語らしくなってきます。(たぶん……)

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