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14. 使われる魔法使い(見習い)

「午後は魔力を体外へ出す練習をします。体内での循環は誰でも出来ますが、

魔力を意図して外に出す事が出来るかどうかが、

魔法を使えるか使えないかの違いになります」


 神官お手製の昼食を食べたおれ達は、再び応接室に居た。

今度は胡座をかいて、手には白く濁った色の石を持たされている。


「お渡しした魔石は、魔道具に使って魔力が尽きた物です。

魔道具の核に使う魔石には、用途に応じて魔法が掛けてあります。

例えば水桶の魔道具なら、魔石に水の魔法をかけるのです。

その魔法は一度かければ消えません。

ほとんどの魔道具は魔石に魔力が満タンの状態で販売されていて、

使ううちに魔力が切れてしまいますが、魔石に魔力を補充することで

魔道具は何度も繰り返し使用できるのです」


 ふむふむ、携帯の充電と同じかぁ。


「使用者から漏れる微弱な魔力に反応して、掛けた魔法が

発動するようになっているので、魔道具を誰でも使えるのです。

余談ですが、魔導車や記録器のように使用者の魔力を吸って

動くものもありますが、魔法使いにしか使えないので、

魔導道具と呼んで区別しています」


「えぇぇ! 車まであるの?!」


「ええ、車です! 何を隠そう、私が開発したのです! 

……ただ、大量に魔力を消費するので……私の魔力では教会から

町の外に出る辺りで止まってしまうんですよね……。

力のある魔法使いにしか売れないので、まだ3台しか……」


「………」


 サナーロさんは、最後は気まずそうにボソボソと呟いた。

リーフさんとアッコさんは、処置なしと言うように首を振っている。

教会から町の外って広場を縦断するだけだし、呆れるのも無理は無い。


「でも、シュウさんとサンダーさんなら! 

きっとジローまでの距離を走らせる事が出来るでしょう!

さあ、その為にも張り切って訓練を致しましょう!」


 サナーロさんの思惑が露見したところで、やっと訓練の話に戻った。




「では、空になった魔石に魔力を補充してみましょう。

お腹に溜めた魔力を心臓へ、そこから腕……って、おお?」


 おれの持っていた魔石が濃い青に変わっていた。


「あはは。出来ちゃったみたい」


「あはは。充填出来ちゃいましたね……。

慣れるまでは一箇所に魔力を集めてから出す方が楽なんですけどね……。

ではシュウさんは代わりにこちらの石を。

サンダーさんとブラブル君はお腹に魔力を集めて心臓から腕にですよ」


 さっきより一回り大きい魔石を試したが、一発満タンだった。


 どういう訳か背後から寒気を感じる。振り向いたらいけない気がした。


 その後、サンダーは溜めてから出す方式で、一発満タン。

ブラブル君は5回で満タンにできた。


「お二方とも素晴らしい!! 移界人の魔力がこれ程とは!!

いえ、これ程の魔力を持つ移界人は居なかったかもしれません。

ああ、シュウさんとサンダーさんをサファゼ教会にお迎え出来て良かった」


 サナーロさんはもはや、笑み崩れて揉み手状態になってる。

王子様系エルフのイメーシが台無しだ。つくづく残念なイケメンだ。


「ブラブルも6歳にしては上出来だ。早めだがご加護を調べてみるか」


「ぼくも魔法使いになれるピョ? 

魔法使いは仕事に困らん、儲かるぞって父ちゃんが言ってたピョ。

ガッポリ、ウハウハのアヘアヘだってピョ。」


 アヘアヘって何……?


「アヘアヘ……? ま、まあ魔道具の作り手は引く手あまただからな」


 ブラブルは「アヘアヘピョー」と体をくねらせながら、

リーフさんとアッコさんに引かれて礼拝堂へ行った。


「それでは、訓練を続けましょうか。

実際に魔法を使う際には、火を飛ばす、風を吹かせるなど

体から必要な量の魔力を一気に外に出す必要があります。

そして、一気に出せる量によって、使える魔法の規模も決まるのです。

外に出す力を鍛えるには、魔力を込めやすい魔石での訓練を

数多くこなすのが最適なのです」


 そう言ってサナーロさんはどこからか重そうな袋を引きずってきた。


「教会中から魔石を集めてきました。さあ、どの魔石からでもどうぞ!」


「まじで! これ全部?! このデカイのって何に使うの?!」


「えぇ、あなた方の魔力なら余裕ですよ。ふふふ。

さあさあ、これも訓練ですから。存分にやっちゃってください」


 揉み手に手首までクネクネさせているサナーロさんは

残念なイケメンを通り越して、もはや気持ち悪いイケメンだ。


「はああ……。俺は小さい物から出来るだけ多く片付けますから、

シュウは大きい物から無理しない程度にお願いします」


「うん……おれの方が魔力が大きいらしいからそれが妥当かもね。

サンダーも無理しないでよ」


 それからおれ達は黙々と作業、いや修行をした。




 しばらくして、全身からガッカリ感を滲ませてリーフさんが戻ってきた。


「ブラブル君はウルトリーネ様のご加護のようですわ。

サナーロが確かめてきてちょうだい」


 サナーロさんがいそいそと礼拝堂へ行ってしまうと、

リーフさんは大きなため息をついて壁際のソファーに腰を下ろした。


「どうしたの? 礼拝堂で何かあった?」


「なんでもありませんわ。わたくしの事は気になさらないで」


 おれの危険信号はその言葉に敏感に反応した。

女性の「なんでもない」は選択を誤ると大変な事になる……。


 おれは、自分の耳に「ギギギ」と聞こえる程ぎこちなく首を戻した。

話を聞かなかったら、鬱憤が後で爆発して大惨事になるかもしれない。

聞けば、無神経だとかで怒りの矛先がおれにロックオンされるかもしれない。

とりあえず魔石に集中しているふりをして様子を見つつ作戦を……。


「はあああああ……」


 こ、これは聞いてくれのアピールだ!!


 ……ギギギ。


「何があったのかな~。は…話してみると、ら…楽になるかもよ?」


「そんなに怯えなくていいじゃない。昨日は悪かったわよ。

わたくしも色々と焦り過ぎなんでしょうね」


「昨日のことは気にしてないよ。で、何を焦ってるの?」


 話を聞くで正解だったようだ。

しかし、ここで油断してはいけない。地雷を踏んで即死の可能性もある。


「わたしは13歳で神官になったのよ。史上最年少でね。

10歳でご加護を調べた時に、魔力がとても大きいから

神官になるようにって勧められたの。それまで家の事情で、母と二人

肩身の狭い思いをしてきたから、才能があると言われてとても嬉しかったわ。

周りを……いいえ、わたし達に見向きもしなかったあの人を見返せると思ったの。

だからが誰よりも努力した……子供が経験する全ての事を犠牲にしてね」


「才能だけじゃなくて、努力もするところが凄いよ。

結果が出て良かったじゃん」


「良くなんてなかったわよ。

わたしが神官になった途端、あの人が口を出してきたの。

当時のわたしは、最年少神官という話題性と見た目で

教団の広告塔のような存在だったから、それを利用しようと考えたのね。

最初に派遣された教会にあの人が来たわ。

「今まで忘れたことなど無い」なんてよく言えたもんだわ。

身重の母を着の身着のままで追い出したくせに。

「わたし達は家族だ」と言うあの人の目の中に、わたし達にしてきた仕打ちに対する

後悔も肉親への情も全く無かった。

薄汚い欲しか持たない魔獣のようだったわ」


 あの人ってもしかして……。


「わたしはあの男に利用されないだけの力を手に入れるわ。

あの男の手の届かない所まで登ってやるわ」


「今よりもっと上に?」


「ええ、当然よ。村の教会の神官長なんて、取り換えがきくもの。

こんな不安定な地位じゃだめだわ。もっと教団の中心に近づかなければ。

それなのに、この村に来てから……神官に推薦出来そうな人材は来ない、

同僚は戦闘好きの筋肉フェチに、ガラクタばっかり作る発明オタク。

はあああ……上手くいかないものね。

あの男に利用されないように広告塔の立場を辞退すれば、替りの広告塔は

二重人格で腹黒女のサユリですって! 

あの女は自分が移界人の孫だってだけで、わたしを見下して

「下々の出では上辺を取り繕っても恥をかくのは目に見えていますもの。

ボロが出る前に辞退するのは、あなたにしては賢い判断だわ」

って言い放ったのよ。わざわざサファゼ村まで来てね。

移界人がなんだって言うのよ。

あなたもね、ほけほけとした顔をして、努力も無しにわたしより

魔力が大きいって何なのよ。

移界人ですって? 神の恩寵? 勝手に湧いてきたくせに、

なんでこの世界で頑張って生きてる人の上に立つの?」


 湧いててって……おれは虫ですか。

どこで間違えた、おれ。

すっかりロックオンされちゃったよ。


「えっと……気がついたらこの世界に居たわけだし……」


「リーフ、よしなさい。移界人とはそういうものでしょう。

神のご意思でこの世界に移されたのですから。

リーフは神官でありながら神のご意思を否定するのですか」


 助かった……サナーロさんが初めて神官らしく見えた。

おれは、気持ちの悪いイケメンだと思ったことを少しだけ反省した。


「ウルトリーネ様のご加護でアヘアヘピョー!」


 緊張感が一気にぶっ飛んだ。アヘアヘ1粒300m。




 その日はハイテンションのブラブルがマシンガントークをかまして、

ウヤムヤのまま魔法講習は終了。


 翌日、おれ達を待っていたのは応接室にそびえ立つ魔石の山。

村中から集められたそれに、おれ達の魔力がスカスカになるまで

容赦なく搾り取られることになった。


 とても村人には見せられない恐ろしい光景だった。

なぜ特別に応接室に案内されたのか、理由がよく分かった。


 そして……その日のリーフさんは生気を吸い取る鬼ババのようだった。




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