13. 易しい魔法講座
昨日はそこはかとなく疲れた教会訪問の後、着替えの服を買っただけで帰った。
服屋での出来事で、サンダーまでもが疲労困憊してしまったから。
何があったかって? まあ……これだけは言っておこう。
昨夜は一晩中サンダーが犬の姿で尾を丸めてプルプル震えてたと。
うん、男前は良いことばかりではないね。
さて今日は早速、魔法講座第一日目。
当然のようにブラブルは付いて来る気マンマンだ。
魔法の習得は素質のある者なら誰でも門戸を開いているので、
見学してても構わないだろうと、ジェラブルさんが言っていた。
3人の神官から心なしかVIP度の増した出迎えに不安を抱きつつ、
おれ達は礼拝堂の右手にある扉へと連行された。
「ここからは、参拝の方は立入禁止区間ですの。
各神官の居室や資料室、応接室、厨房があります。
普段は魔法の習得は礼拝堂左の教室で行いますが、お二人は特別ですわ」
ここは厨房かー。ドアがなく、規模はジュラブルさん家の台所くらい。
6人がけのテーブルもある。それ程大人数の料理を作ることはないようだ。
その先は神官の居室。
"リーフの部屋"と書かれた可愛らしいプレートが下がっている部屋もある。
プレートの下に殴り書きで"入ったら殺す"と書いてある紙片が
ナイフで刺し留めてあるけど、一体何があったんだろう。
その部屋のドアからおれはそっと視線を外した。
おれ達は、2階に上がってすぐの応接室に通された。
やはりここも、おれがイメージする応接室と変わらなかった。
ただ、ソファーやテーブルが壁際にどかしてあって、
中央にマットのようなものが敷いてあった。
「さて、今日は魔力を体内で循環させる訓練をします。
マットに仰向けに寝てください。ブラブル君もやってみますか」
今日のサナーロさんは調子が良さそうだ。
病弱そうなのには変わりがないけど、若干声に張りがある気がする。
サナーロさんは、おれ達が横になったのを確認してから続ける。
「はい、体を楽にして、ゆっくり呼吸をして……リラックスですよ。
下っ腹に意識を集中して……温かくなるように……」
リラックス、リラックス、と。ああ、だめだ眠くなってきた……。
サナーロさんの声って、日本史のサダセンに似てるんだよなぁ。
サダセンは男なんだけど、色白でロン毛で前髪が顔にかかってるから
貞子に見えるんだよ。見た目は貞子なのに声は癒し系なんだよなー。
おれ、いつも授業で眠く………。
「ぐぇっ!」
「居眠りしないっ! ここに集中!」
痛い、痛い。下っ腹グリグリしないで。
サナーロさん、意外と力がお強い。
「お腹が温かくなりましたか?」
おれ達が頷くと、サナーロさんは満足気に頷いて続けた。
「今度はお腹の温かい塊を、心臓のほうに押し上げます。
呼吸はゆっくり、リラックスですよ。出来た人は頷いてください」
これには少し手間取った。胃のあたりでモヤモヤと熱が広がる。
そのまま熱が拡散してしまうみたいだ。
「ブラブル君はできましたね。では何度か繰り返してください。
シュウさんとサンダーさんは手を使ってもいいですよ。
手で誘導する感覚で」
「うひゃぁ」「むっ」「ピョー」
おれは、サナーロさんに下っ腹から心臓のあたりまで撫で上げられた。
さっきのグリグリ攻撃とは違い、微妙なソフトタッチ。
つま先から頭の先まで何かがゾゾゾっと走った。
サンダーは、アッコさんに撫で上げられ「いい体をしているな」と囁かれて
青い顔で頭ををプルプル振っている。
昨日の服屋での一軒を思い出したんだろう。気の毒に……。
ブラブルはリーフさんに、よく出来ましたと頭を撫でて貰って嬉しそうだ。
子供のくせにデレデレしおって……羨ましい。
「はい、次は心臓から眉間にです。
これは難しいので最初から手で誘導してもいいですよ」
確かに難しい。喉元でモヤモヤする。
あああ、ここまで出てるのにって感じ。
猫の喉に毛玉が詰まった時はこんな感じなんだろう。
1時間程モヤモヤと毛玉が詰まった猫の気持ちを体感した後、
最初にブラブル、次にサンダー、最後におれが眉間に魔力を通すことができた。
「おつかれさまでした。では、一旦休憩にします。
昼食にしますから厨房へ行きましょう」
パンパンとサナーロさんは手を叩き、ブレークを宣言した。
「ふぅぅぅー。魔法を使うのって体力要るんだなー」
「まだ使えてませんけどね。俺も体がダルイですよ」
「ぼくは元気だピョ。体があったかくなって、調子がいいピョ」
肩や腰を叩いているサンダーとおれを尻目に、ピョンピョン飛び跳ねる
ブラブルは本当に元気だ。何この違い、若いって素晴らしい。
「大人になって魔法を修得するのは大変なのですよ。
シュウさんとサンダーさんは魔力が大きいので、気分が悪くならないかと
神官3人であたりましたが、杞憂でしたね。
大抵の場合10歳前後でご加護を調べて、才能があれば魔法の習得をします。
あまり幼い子ですと魔力が少なくて練習出来る回数が限られますから。
逆に大人になると魔力が大きくなるのでコントロールが難しくなるのです」
またもやサナーロさんは満足そうだ。
「倦怠感だけでしたら問題ありません。むしろその大きな魔力を動かして、
だるいだけというのなら才能があるのでしょう。教えるのが楽しみです」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「そうそう、魔力を循環させると治癒能力も上がります。
力が湧き出るというか、頭もすっきりします。健康にもいいんです!」
目を輝かせてサナーロさんが力説するけどねぇ、全く説得力がないよね。
服屋での話は書いたんですが、諸事情により自粛しました m(__)m
悪ノリが過ぎました……。
よって、通貨の話が出来なかったのでここで。
鉄貨 1メタノ ( 10円)
半銅貨 半クプノ=50メタノ ( 500円)
銅貨 1クプノ=100メタノ (1,000円)
銀貨 1アルノ=10クプノ (10,000円)
金貨 1オーノ=10アルジ (100,000円)