12. 乗せられて魔法使い?
「ご、ごめんなさい」
つい条件反射で謝ってしまった……。ほんと、情けなくてすみません。
「シュウ兄は凄いピョ。悪くないピョ!!」
「そうです。好きでこの世界にきたんじゃないんですから、シュウのせいじゃありません。
加護も分かったことだし、帰りましょう」
おれを背に庇う、ブラブルとサンダー。
「魔力が大きいってことだから、魔法が使えるんだろ。
魔法を習うのはジローの町でもいいんじゃねえか。聞きたい事はその時に聞け」
と、おれの肩を叩くジュラブルさん。
「そうだね。ジローには行くつもりだし。今まで魔法なんて無い世界にいたから、
興味はあるけどあんまし魔法の必要性は感じないんだよね。
んじゃ、ジローに行く装備を整えに行こっかー」
おれ達は、服を先に買うべきか装備を見たほうがいいかなどと話しながら
教会の入り口に向かった。
「ま、待ってください……」
か細い声に振り返ると、金色夜叉のお宮みたいなポーズのサナーロさんが居た。
「ご加護を調べた神官が、魔法の手解きをするのが慣わしなのです……」
わあ、またパッタリ倒れた。
「ご加護を調べた神官なら、魔力の量を把握しているから教えやすいのだ。
教団からも少なくとも初歩は神官が教えるよう通達が来ている」
アッコさんが言う。サナーロさんのことは見事に放置だ。
「それより、サナーロさんは大丈夫なの?」
「耳長族は丈夫で長生きだから大丈夫だ。サナーロはただの寝不足だ」
なにそれ、エルフって物置のCMみたいなキャッチフレーズ付いてんの。
「リーフよ。お前、この二人がサユリの元に行っても良いのか」
「それは困るわね。サユリに手柄を奪われたら、わたくしの出世が……おほん。
あなたがた、最年少で神官になった、このわたくしが直々に教えて差し上げます。
ふふふ。基礎とは言わず、とことん。徹底的にね!」
笑みを浮かべているけど、まだ目つきが凶悪だ。
「えー、おれ鬼教官はやだ……」
「こういう人はヒステリーっていうんだって、ナットが言ってたピョ」
「感情をむき出しにするような人は、教師に向いていないのかもしれませんね」
「ジローの教会に別嬪な神官がいるらしいからな。そっちがいいんじゃねえか」
「なっ! あんたたちーっ!!」
再び目がつり上がりかけたが、神官長はフーフーと荒い息を吐き拳を握って堪えた。
「……おほん。先程はわたくし、取り乱して心にもない事を申し上げました。
大変失礼いたしました。心から反省しておりますわ。
優しく、丁寧に、手取り足取りお教えしますから……許してくださいますわよね」
うっわ、手を合わせて上目遣いするのは反則でしょ。
微妙に首を傾げて放たれた「ね?」が、おれの心臓を直撃した。
おれ、女の子からこんな風にお願いされたこと無いんだから。
あからさまに罠だと分かっているのに、いいかなーなんて思ってしまう、おれ。
「どうする? おれとしては、ここでもいっかなって……」
相変わらず神官長に胡散臭そうな目を向けているサンダーに聞いてみた。
「慣わしなら仕方がありませんね。さっさと魔法を習得してしまいましょう」
「あ……。魔法を覚えるのってどれ位かかるの?
おれ達は元の世界に帰るつもりだから、あんまり長期間なら覚えなくていいんだけど」
「魔法の循環などの基礎に2日、加護の属性の初級魔法に2日が一般的ですわね。
サンダーさんなら4日。シュウさんなら8日ですわ」
「おぉ、意外と早いじゃん。でもおれ、サンダーの倍かぁ……」
結局、サファゼ教会で習得することになった。
鐘2つが鳴る頃(朝9時)から夕方まで。昼食は教会が出してくれる。
丸一日魔法漬けってところに修行的な匂いを感じるが、きっと気のせいだろう。
最初の基礎講座は、おれ達の魔力が高いので神官3人で見てくれることになった。
後はそれぞれの神官が2日ずつ。アッコさん、リーフさん、サナーロさんの順。
ここに至って、はたとおれは思い出した。
教会に来たのは、誰の恩寵でこの世界に呼ばれたのか調べるためだったのだと。
はて……なんで魔法の習得をすることになったんだろう。
まあいっか、魔法も使える公務員……いいかもしんない。