1. 初めての☓☓☓
本作品が初投稿です。週に2~3話の投稿を目標に頑張ります。
よろしくお願いします。
森の中にいた。
鬱蒼とした密林ではなく、柔らかく光の差し込む清清しい空間。
初夏にふさわしい青々とした木々、露を含んだ草の香りを運ぶ爽やかな風。
人の背丈程のささやかな滝からの清流。
サラサラと流れる音が街の喧騒に馴染んだ耳を癒してくれる。
森林浴に最適な、思わず深呼吸したくなるような空間だ。
いつもの公園で、いつものようにサンダーの散歩をしてたのは、ついさっき。
いきなり目の前が暗くなったかと思うと、ここにいた。
「おれ、死んじゃったのかな。ここは天国ってやつなのかね」
「その可能性はありますね。犬が天国に入れるならですが」
声の方に視線を向けると、サンダーが首を傾げて見上げていた。
「俺も話せるようだし、元の世界ではないようですね」
「えっ!えぇぇぇぇぇ!!!」
サンダー、なぜに犬なのに話してるの?! なんでそんなに冷静なの?!
しかも、意外なイケボイス!
「ずっと、シュウさんと話してみたいと思っていたんですよ」
サンダーがニヤッと笑った気がした。犬なのに。
なぜかそれがサンダーらしくて、おれはちょっとだけ落ち着きを取り戻した。
「おれもサンダーとは話してみたかったけどさ。“さん”は要らないよ。シュウでいいよ。
おれとサンダーは相棒だと思ってるし。いつも守ってもらってばっかりだけどね」
「では、シュウと。ところで、どうして一瞬でここに移動したのかは分かりません。
その事はとりあえず後回しにして、まずはここは何処なのか、危険があるのかを把握しなければ」
「うん。ぼんやりここに立ってても仕方ないよね」
なぜ、知らない場所にいるのか。なぜ、犬がしゃべるのか。
どちらもすぐに答えが出そうもないので、置いておくことにする。
サンダーの言う通り、現状を把握してこれからどうするかが大切だ。
おれはリードをしっかり握ったままなのに気付き、サンダーの首輪から外す。
会話の出来る相手に紐を付けておくのは気が引けるし。
「首輪も外す?」
「いいえ、このままで。気に入っているので」
赤い首輪にはドックダグ型の迷子札がついている。
チタン製の特注品で、サンダーとおれの氏名と電話番号が彫ってある。
赤い首輪は革製。オスなのに赤?とは思ったけど、サンダーの精悍な黒いボディーに似合うので
出来るだけ濃い赤色の革を探した。
ドックダグも首輪も、おれのお年玉の大半を費やしたこだわりの逸品だからね。
気に入ってくれてて嬉しいよ。
俺は周りを見回した。人でも通りかかれば、ここが何処だか聞けるんだけど。
サンダーが話せるのなら、他の動物も話せるかもしれない。
諸事情により、おれはサンダー以外の動物が少々苦手なので、聞くのはサンダーにお願いしよう。
ちらりとサンダーを見ると、彼は匂いを探っているようだ。
「何か獣が近づいています」
サンダーはおれを庇うように前に立ち、警戒する。
しばらくして木々の間を縫うように出てきたのは、美しい白馬だった。
王子様か将軍様がお乗りあそばすような、気品溢れる堂々とした姿。
それなのに……薔薇に似た花を咥えていて、キザな感じが嫌らしい。
優雅な足運びで近づいてきたお馬様は、おれの目の前で止まると膝を折って右前足を差し出した。
器用に〔お手〕の格好になっている。馬なのに。
馬にしてはいろいろと違和感ありまくりの姿に、おれ達は警戒を忘れて呆然とした。
白馬は真っ直ぐにおれを見つめて……。
「結婚してクダサイ!!!」
「「はあ?!」」
おれ、遠田脩、16歳の誕生日の今日、白馬にプロポーズされました。