ディナーの食材Ⅱ
連投ですww
キャァァァァァァァアア!!!
つんざくような悲鳴が、突如として村中に響き渡った。
和やかだった空気が一変して、緊張の糸が張り詰め、ハティとニクスが鋭い視線を集落の外れにやる。
俺は、突然の事に反応しきれていなかったが釣られるようにして、二人と同じように視線を巡らせた。
・・・そこにいたのは巨大なイノシシだった。
一軒家くらいのサイズはありそうな、恐ろしくバカでかいサイズのイノシシ。
何でいままで接近に気付けなかったのか・・・というくらいに存在感がありまくるイノシシにポカンと顎を外す俺。
場違いなのは分かってるけど、リアルおっことぬし様についつい目が奪われたのだ。
村の横に広がる鬱蒼とした密林の中から現れたらしいイノシシは、空に向かって咆哮した後、近くにあった家をどんどん破壊していく。
悲鳴を上げるのは、イノシシに家を破壊された住民たちだ。
迷惑極まりないイノシシの暴挙になす術なく家を破壊される住民たちは、逃げまどう端からイノシシの突進を食らって吹っ飛んでいる。
獣人は人間よりも頑丈で戦闘能力が高い・・・と言われているが、全てが全て戦闘能力に特化している訳じゃない。
この村の自警団であるハティは一瞥しただけで現状を把握し、即座に村人に指示を飛ばす。
「全員、落ち着いて、森じゃなく広い所へ逃げるんだ!!!・・・ニクス!」
「はいよ!」
ハティの声に即座に反応したニクスは、背中の翼を広げて飛びあがるとイノシシの目の前に躍り出て撹乱を図りに行く。
野生で単純思考しかできない脳みそのイノシシがニクスの素早い動きに気を取られ、頭を上げる。
その隙にハティは村の人たちを誘導して村から外に出て行った。
・・・のをただ見つめる俺。
俺も何かすべきだろうなーとは思うのだが両手で抱えたハクサギとポテベアーと頭の上のイチゴリスにより、暴れまわるのに若干の躊躇いが生まれているのだ。
俺が突っ込んで行ったらどう考えても巻き込まれちゃうじゃん??こいつら。
俺一人ならなんとでもなる事だけど、ちんまいのが一緒だとさすがに・・・ねぇ??
イノシシにより吹っ飛ばされた人たちをとりあえず、安全な場所に引っ張って行って怪我している人もいたようなのでとりあえず「治癒」で治してあげておいた。
なんて優しい魔王なんだろうね!なんて冗談は置いといて。。。
「お前らもここにいな??」
ニクスと戻ってきたハティががおっことぬし様相手に苦戦しているようなので、3匹を安全地帯に置いて、一応の安全確保として結界発動。
衣嚢から今まで磨かれることしかされていなかった大剣を取り出す。
剣術なんて知らないので振り回すことしかできないが、俺のチートな筋力とスピードと魔法があればあんなイノシシ楽勝だ。
「ニクス、避けろよ!!」
目晦ましの為に空中をものすごい速さで飛びまわってイノシシの目線を独り占めしていたニクスにとりあえず忠告して上から下に、大剣を振りかざす。
風○傷!!!!
・・・と言わなかったのは自重の結果だ。
この世界で通じるとは思わないけど。。
犬耳の半妖の彼のように妖気と妖気がぶつかる場所・・・なんてモノ勿論俺には見えないので魔力でそれっぽくカマイタチを起こした。
視覚的にも見えるようにちゃんと白っぽく風を着色したので、見た目の迫力は完璧!・・・だったのだが、意外と素早いイノシシにはしっかりと避けられてしまった。
なんだとぉ!?
視認できることと、剣の振りが大ぶりな事が要因で結構簡単に避けられてしまった俺は驚愕により一瞬動きを止めた。
・・・・だめじゃん、風○傷!!
「えーと、あとは何があったかな・。えっと・・・・火炎斬り!!・・だったかな??」
・・・あらかじめ言っておくが遊んでいる訳じゃない。
至って大真面目だ。
俺の呪文に応じるようにして大剣が炎を纏うのを見て「便利な上にチョー楽しい!」・・・・なんて一切思ってないぞww
うん、思ってナイナイ
ちなみに、補足情報だが、火炎斬りはドラク○に出てくる武器による物理攻撃を応用した特技だ。
とまぁ、そんなことは置いといて。。
炎を纏った大剣を構え、チートな脚力で跳び上がった俺は、イノシシに勢いよくソレを振り下ろした。
体毛と肉が大剣に触れた瞬間、一瞬で焼ける音が耳に届き、漂う不愉快な臭いに俺は鼻に皺を寄せるがイノシシは倒れることなく
ブヒィャァァアアア
と五月蠅い金切り声を上げる。
意外とレベルが高いらしいイノシシに俺は、思わず舌打ち。
火炎斬り、結構自信あったのに。。
「あー・・・もう思いつかねーや。・・・ま、いっか」
ギュッと大剣を握り直した俺は、もう一度跳び上がりイノシシの横腹をなぎ払う。
しぶき上がる血が俺を襲うが、気にしている暇もないのでもう一太刀。
イノシシの体を馬鹿力に物を言わせて二等分にキッチリ上から下に切り分ける。
何の抵抗もなくスパッと綺麗に切れたイノシシがドォォォオオン・・・と倒れ、俺はそれが動かない事を確認して溜息をついた。
これで動かれてもホラーだけどね!
それにしても、なんか意外と生き物を殺しても罪悪感が無い事に、「あれ?俺って意外と鋼鉄のハート??」と内心不思議に思っていたら『魔王という肩書だからですよ』と影からナイトが話しかけてきた。
ずっと眠っていたらしく、欠伸交じりの声だったがイチイチなんか言うのも面倒だったので言葉の意味だけを受取っておいた。
いわく魔王は基本的に命を奪う立場なので、精神的に改造をなされているんじゃないかということらしい。
なんか、人間らしさが俺の知らないところで無くなってる・・・・
しょんぼりだ。
殺猪楽しい!!(殺人じゃなくて殺猪w)とは思わないが、何とも思わない自分にマジでビビる。
というか、トライト神との修行の時は狼に罪悪感があったんだけど・・・なんで??
『それは、まだこの世界に馴染んでいなかったからでしょう。』
俺の質問にナイトはしばらく考えてから、そう言った。
そう言われても慣れた自覚など全く無いので微妙にモヤモヤするんだが。。
【魔王】になんてなりたいわけではないし、何も感じない事にも違和感が半端ない。
頭で考えている事と心が感じる事がアンバランスな感じだ。
「キラ!怪我は無いか!?」
ナイトの言葉に押し黙って考え込んでいたら、降りてきて俺の肩を掴んだハティが心配そうな顔をしていた。
・・・どうやら心配をかけてしまったらしい。
「ん。これ全部返り血だし、俺には怪我無いよ」
改めて自分の姿を見て、ついつい苦笑してしまう。
返り血で、服は変色して無残な事になっていたし、カピカピになった髪とかがあまりにも鬱陶しい。
目にかかる髪を掻きあげて、ハティに「問題なし」と言うと「恐れ入ったよ」と何故か笑われてしまった。
「森の主を倒して怪我が無いとはな・・・・」
「・・・・森の主??」
「あれはこの森の主だったんだ。いままでも何回か襲われていたんだが強くてどうにもできなくてな」
なるほど、森の主だったからあの強さだったのかーと合点がいった。
森の主はどこの世界でもおっことぬし様なんだな。
「しかし・・・見事に血まみれだなー。サイアク」
「近くに湖があるから、そこに水浴びに行けばいい。」
「・・・・お風呂っていう習慣は??」
「フロ??何それ」
ハティの横に降りてきたニクスが会話に加わる。
てか風呂・・・ないのか、この世界。
「・・・マジデスカ」
「なにが??てか早めに水浴びしてきなよ?取れなくなるよ??案内したげるから。」
「キラが水浴びしている間に晩飯の準備をしておくからな。ゆっくり浴びてこい」
項垂れる俺をニクスが急きたて、ハティがうんうんと頷いた。
血は乾けば乾くほど取れにくくなるぞーというアドバイス付きだ。
「・・・・・そーする。てか、晩飯どうすんの??リっちゃんとハギとポアは駄目だからね!!」
「・・・・名前つけたの??」
「心配するな晩飯はあれだ」
咄嗟に3匹がいる結界を背中に庇って睨みつけたら、ハティは真っ二つになったイノシシを指差した。
え・・・・マジで??
リっちゃん=イチゴリス
ハギ=ハクサギ
ポア=ポテベアー
です。。
ネーミングセンスの無さについては自覚してますので何も言わないでくださいorz