プロローグ
かつて、世界には人の命と共に咲く花があった。
それを「命華」と呼ぶ。
人はその花の輝きを糧とし、ある者は力へ、ある者は祈りへと変えて生きていた。
世界の中心には、かつて一輪であった虹色の薔薇が、七つの色に分かたれて存在していた。
しかし、その強大すぎる力を巡り、国々は争い、大地は焼かれ、命華は戦火に散った。
ゆえに、世界は誓った。
「七色の薔薇の力は、決して使ってはならない」
その均衡を保つため、セレスフィアには四人の「四季」が置かれた。
春は始まりを寿ぎ、夏は輝きを謳歌し、秋は実りを愛で、冬は静かに未来を視ていた。
だが、冬は視てしまった。
薔薇の力を渇望する人の業が、再び世界を灰にする未来を。
「花に頼らず、薔薇を断つ力が要る」
冬の呼びかけに応じ、四人の四季は秘密裏に一本の剣を打ち出した。
四人の命華を素材とし、花を持たぬ者が花を断つための、無華のための剣──「フロリア」。
だが、その完成を前に、四季の均衡は内側から崩れ去る。
夏が、薔薇の魔力に魅入られたのだ。
「なぜ、あるべき力を使わぬ」
その単純で強大な誘惑に屈した夏の暴走により、春の桜は引き裂かれ、秋の落ち葉は散らされた。
残された冬は、最後の一歩を踏み出す。自らの命華である「椿」を、自らの手で斬り落としたのだ。
花を捨て、「無華」となった冬は、フロリアを手に取り、かつての友であった夏を討った。
戦いは終わった。
自らの源を断った冬は、四季の中で最も長く咲き続ける椿の粘りと、剣に遺された仲間たちの命の残骸によって、辛うじてこの世に繋ぎ止められた。
しかし、その心身は摩耗し、もはや言葉を持たぬ廃人となって歴史の闇へと消えていく。
四季が消え、調律者を失った世界。
圧倒的な力を振るう「華者」に対抗すべく、花持たぬ「無華」たちは、皮肉にも四季が遺した「命華を武具に変える技術」を盗み、磨き、「華装」を作り出した。
四季が何を願い、なぜその剣を遺したのか。
その真実を知る者は、もう誰もいない。
これは、
その始まりよりも前の、
終わりを知ってしまった者たちの物語。
お読みいただきありがとうございました。




