2.神託?神罰?
「さあ、どう神託を下ろす?」
※※※※※※
私は2つの神託を下ろした。
「神に通ずる言葉を持つ者が奪い続けられている。これ以上奪われぬよう略奪者に癒しの力を与えた。胸元に蓮の紋様がある乙女を見つけ、神殿の奥で紋様が消えるまで祈りを捧げさせるが良い。捧げた祈りは人々の癒しの力へと変わるだろう。」
そう。まずはあの妹に神託で癒しの力を与えたの。彼女は姉と同じ綺麗な魂になるポテンシャルがあるはず!紋様が消える頃には魂も浄化されてきっと綺麗な魂に戻るわ!
「おっとディオサちゃん、中々キツい神罰与えてんなあ。ドゥカス様、止めないの?」
「ええ、あれがあの子のやり方ならそれでも良いと思うの。」
そう。私の記念すべき神託1発目は…あれれ。神罰になっちゃった!私の心づもりでは1年ほどで浄化されて綺麗になる筈だったのに!
「ねぇ、お姉さま見て!私よ!私が女神さまに選ばれたの!蓮の紋様よ!みんなの嫌われ者のお姉さまには一生回ってこない幸運よ!来週には教皇さま直々にお迎えに来てくださるの!」
今までは周囲にバレないように私に何かする時や物を取り上げる時には誰もいない時を狙っていたのに、聖女に選ばれて気が大きくなったのか妹はその本性を剥き出しにして自慢してきた。
「お父さま!この家の幸運は私が聖女だったからなのよ!だから今まで遠慮してたけどもうしないわ!お姉さまが持っている物は全て差し出して!私が欲しい物は全て持っていくから!」
「お前、まさか今までも姉から奪い取っていたのか?」
「奪った?違うわ。私が欲しい物を私が持つのは当然でしょう。物だって人だって、お姉さまより私のそばの方が良いに決まってるじゃない。その証拠に蓮の紋様はほら!私にあるもの。」
お父さまもお母さまもようやく気が付いたみたいで青褪めている。だけど今更だわ。あの子が言う通り、女神様に認められたのはあの子だもの。
…女神さまも見る目がないわね。
「お迎えに参りました、蓮の紋様の乙女。これから先貴方は私どもの教会で過ごすことになります。ご家族とお会いになるのは最後になるかも知れません。お別れの準備はよろしいですか?」
「ええ!教皇さま!わたくしは蓮の紋様の乙女、聖女ということでしょう?それがこのような末端の子爵家といつまでも関わっていて良いはずがありません。これを最後に縁を切ります!」
あまりの言い草に顔色をなくすお父さまとお母さま。そちらには全く気遣うそぶりさえない妹がこちらを向き、凡そ聖女に似つかわしくない醜悪な笑みを浮かべて私に言った。
「さようなら、お姉さま。あ、そうだ!お姉さまの物はやっぱり要らないわ。よくよく考えたらショボい物ばかりだもの。それにこれからの私はなんだって手に入れられるんだから!ふふ。もうあんたのことを姉と呼ぶこともないわ!羨ましくても私に縋り付かないでよ!穢らわしいから。」
教皇の眉間に深い皺が寄った。
「ふむ、女神さまはこんなに細かいところまでご覧になっておられるのか。確かに蓮の紋様の乙女は神殿で預かるのが良かろうて。」
「それで!王子様にはいつ会えるのですか?」
「ん?王子様?」
「そうよ!だって私聖女だもの。最終的には王家にお嫁入りでしょう?」
ここに来て教皇さまの表情が固くなった。
「乙女よ。そなたには直接ご神託はなかったのか?」
まあそれもそうか、逃げられても面倒だからな。という呟きと共に教皇さまがご神託の内容を"一字一句漏らさぬように"と言いながら教えてくださった。
「神に通ずる言葉を持つ者が奪い続けられている。これ以上奪われぬよう略奪者に癒しの力を与えた。胸元に蓮の紋様がある乙女を見つけ、神殿の奥で紋様が消えるまで祈りを捧げさせるが良い。」
え?どういうこと?これだとまるで…
「これじゃあ私が犯罪者みたいじゃない!」
「そこまでは女神さまも仰っておられませぬ。紋様が消えるまで、ということはお勤めを果たせば早々に還俗できるということですから。」
いやあああ!
絶叫を上げながら妹は神殿へと連れて行かれた。
その夜。私の枕元に女神さまが現れた。
「今まで助けられなくてごめんなさいね。こんなに綺麗な魂の持ち主なのに…。あ、妹さんはきっと帰ってこられるわ!貴方の妹だもの!お勤めを果たしている間に同じように綺麗な魂に戻るはずよ!」
わーお!女神さまは性善説で動いてらっしゃったのですね。
「そして貴方には直接神託を出すわね。貴方の祈りの言葉は直接私に届くの。貴方なら大丈夫だと思うけど、悪いことには使わないでね。その代わり貴方が心の底から憂う事があったら…」
「祈りの言葉で知らせて!すぐ助けるからね!」
ウインクして女神さまは消えていった。都合のよい夢だった気もするし、本当だったと信じたい気もする。
…とりあえずもっかい寝よ。
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「ディオサちゃん、そんなに落ち込むなよぉ。ニンゲンなんてあんなやつの方が多いんだって!ドンマイ!」
うぅがっくり。私が蓮の紋様の乙女として選んだ妹は、結局魂が浄化されないまま寿命を迎えた。結構長生きだったのにい!
あまりの傍若無人っぷりにものの1ヶ月ほどで
「蓮の紋様は選ばれしものの印とちゃうわ!神罰の印やって何回言うたら分かるねん!つべこべ言わんと今日のノルマの癒しに行ってこんかい!サボったら晩メシ抜きやでえ!」
教皇様は西国のご出身だったんだねえ、というどうでも良い情報を周囲に知らしめつつブチギレした教皇だったが、飴と鞭は使いよう、と腹黒い笑いを浮かべた当時の第二王子が現れ、癒しの力を上手く使う方にシフトしていった。
それにしても"いつかここを出て王子様と結婚するの!"と上機嫌なままそこそこ長い生涯をここで終えるとは思いもしなかったわ。どんだけ汚れた魂だったのやら。しかもね、戻ってきてもまだ黒い汚れが残ってるの!このままじゃ輪廻転生の輪に入れられないから綺麗に洗わなくちゃ!
妹の方はあんまり成功とは言えなかったんだけど、姉の方は思った通りの活躍をしてくれたわ。
不自然と思われない程度に神の加護を利用して、陰ながら国の支えとなったの。
なるほど、これが良い塩梅ってやつなのね。
たまに大荒れするけど、大きな被害になりそうでならない海。4割ほどの作物がダメになったけど、奇跡の恵みと呼ばれる雨が降り、大きく飢えることなく済んだ干ばつ。
王都中の人が死に絶える可能性がある、と戦々恐々とした流行病。近隣の村に生える雑草が特効薬になる!と早い段階で分かって被害は少なくて済んだ。
全員を助けることはしない。何故なら誰も努力しなくなるから。
祈りの時に、こんなことまで添えられる。
「信心深い者には少しだけ多めの加護を。信心の足りない者には助かるかも知れない、少しだけの運を。」
私を神として育ててくれたのは彼女と言っても過言ではない。
「ディオサちゃんさあ、引きがいいよねえ。最初はキッツい神罰与えるなあと思ってびっくりしてたけど、姉ちゃんの方は素晴らしい引きだわ。あの子を引き当てただけで全部チャラでもいいぐらいだよねえ。」
「ありがとうございます。本当にあの子は良い子でした。あの子自身にも家族ができて幸せになってくれたんですよ!そんな彼女の控えめな祈りは世の中を明るくしてくれました。」
「けど、そろそろお役目を降りたいと。もう20年ほどだっけ?寿命はまだまだありそうだけど。」
「ええ。でも彼女曰く、子供ができてからたまに邪な気持ちが芽生える事が出てきたそうなんです。」
ウチの子が苦労しませんように。幸せに暮らせますように。豊かに暮らせますように。
…あの子の邪魔をする者が滅びますように。
「魂が穢れて道を誤る前に次の方に譲りたいと。」
「なるほどなぁ。あの姉ちゃんらしい潔さだな。」
私はこっくりと頷いた。
「ですので久々ですが、神託を下ろそうと思っています。」
「そうだな、下ろすなら勝手知ったるあの教皇がいるうちの方が良いだろうしな。」
「ディオサ。」
「あ!ドゥカス様!」
「今話が聞こえたけれど、新たな神託を下ろすのね。今度は1人で大丈夫かしら?」
「はい!次はひと通り自分でやってみます。けど、迷う事があったら相談していいですか?」
「もちろんよ!時間は少しかかっても良いわ。良い子を選びなさい。」
「ああそれと」
にっこり笑ってドゥカス様が言った。
「あの子と最後にお話ししておいで。そしていつもの彼女のセリフをお返ししてきなさい」
その日の夜女神さまが現れた。
「久しぶり!随分大人になったわね。長い間祈りを捧げてくれてありがとう!」
「女神さま!またお会いできるとは思いもしませんでした。…わたくしでお役に立てておりましたか?」
「もちろんよ。貴方のおかげで私は迷う事なく神の祝福を与える事が出来たわ。貴方の祈りが道標になったの。本当に長い間ありがとう。…まだ次の子は決まっていないけど、これから先私は貴方の声が聞こえなくなるの。寂しいけど、貴方は貴方のままでいてね。」
「はい、ありがとうございます。私も女神さまのお手伝いができて幸せでした。」
「じゃあ、最後に私からの贈り物。」
「信心深い者には少しだけ多めの加護を。信心の足りない者には助かるかも知れない、少しだけの運を。…貴方と貴方の血を受け継ぐ者たちに授けておくわ。」
そういって女神さまは消えていった。
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「うーん、お願いの仕方も色々あるのね。具体的で分かりやすいんだけど、前の子の時みたいにまだお互いにしっくりこないのよねぇ。」
「なんだよディオサちゃん!次の子と上手く行ってないの?」




