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暮木くんは『彼女』が欲しい  作者: 葛生雪人
2年B組 橋本さやか

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橋本さやか⑤

 考えて、うとうとして。

 そんなことを繰り返しているうちに朝になっていた。

 緩士ひろとが「明日にでも告白しようと思う」と言ったその『明日』がやってきたのだ。

 こんなこと今までにも何度もあったはずなのに、今回はいつもとは違う心持ちで迎えた。まるで保護者にでもなった気分だ。でもよくよく考えてみると、どちらを守るための保護者かわからなくて、登校中もずっともやもやと考え込んでしまった。

 私がそんな状況に陥っているなんて知る由もなく、緩士はデレデレした顔を見せる。

「いやあ、さっきB組の前通ってきたけど、やっぱり橋本はしもとさんカワイかった」

 満足そうに言う姿を見ると、昨日橋本さんに言ったことを撤回したくなってくる。

 じとっと睨みつけてから、

「橋本さんに迷惑かけないように。あと傷つけるようなことしたら、許さないからね」

 そう言った。

 私と橋本さんの間にあったことを知らない緩士にとっては意味不明な一言だったろう。

 訝しげな顔で

「傷つくとしたら、振られる俺の方だろ」

 と返す。

「意外。振られる前提なんだ」

「そういう可能性も視野にってことだろ。振られる前提で告白するやつなんていないだろ」

「記念に、っていう人はいるんじゃない?」

「俺は違うよ」

 珍しく真剣な顔をしたと思ったのに、

「いつでも全身全霊!」

 鼻息荒く力こぶを作ってみせたりするからふざけているようにしか見えなくなる。

 だけど緩士はけっして悪いやつではないし、いい加減なやつでもないと思っている。

 昨日だって、頼んだショートケーキをしっかり買ってきてくれたし、さらに、

「期間限定のピスタチオとフランボワーズのケーキ。お前、たしか好きだろ。ピスタチオ」

 とか言っておまけまでくれたのだ。意外と気の利く男なのだ。

 その能力で、きっとのぞき窓を見つけてしっかり覗き込んでくれることと信じている。

 しかしそういうものは幼馴染みのひいき目でしかなかったのだろうか。

 忠告したにもかかわらず、緩士は衆人環視のまっただ中で橋本さんに接触した。

 食堂の券売機に並ぶ列。

 その中にいた橋本さんに近づきそして声をかけた。一緒に並んでいた友だちも、たまたま居合わせただけのひとたちも、緩士が何をしに来たか聞きつけているようで、あちこちからひやかしの声が上がる。引き締まった顔で教室を出て行ったから嫌な予感がしてあとをつけてみた結果これだ。

 野次馬が作った人垣に飲み込まれそうになっていた私を、橋本さんがいち早く見つけた。困ったような顔を見せたが、私を気遣ってくれたのか、笑顔をつくり視線で何かを伝える。

『たすけて』には見えなかったから、私はその場にとどまった。

「橋本さん、俺、暮木くれき緩士っていいます」

「うん。知ってるよ」

 橋本さんは『カワイイ橋本さん』の顔で緩士の相手をしてくれる。

「え、俺のこと知ってるの? なんで?」

 嬉しさのあまり声がうわずったりしているのを見ると、なんだかモヤモヤと――情けなくなってくる。

「暮木くん有名だから」

「有名?」

「去年ので一躍有名人、でしょ?」

「あ。…………ああ」

 仕方ないとはいえ、こういう覚えられ方は不本意だったようだ。緩士はバツが悪そうにしながら橋本さんの様子をうかがっていた。

 食券購入の列が少しずつ前進する。

 それにともなって橋本さんも前に進み、それを追うように緩士も一歩、また一歩とぎこちない足取りで移動する。

「ええと、俺、橋本さんに話があるんだけど」

「うん」

 あくまでも優しく話を聞く橋本さん。外野が「今年は橋本さんからか?」とか騒いでもまったく動じることはない。

 むしろ緩士の方が動揺して、火消しに躍起になっている。

 列は進むのに、話はいっこうに進まない。

 しびれを切らした橋本さんが、ニッコリ笑顔をつくって緩士の顔を覗き込んだ。

「あのね、暮木くん」

「は、はい!」

 突然ぴんと姿勢を正し『気をつけ』をする緩士。

「お話、あとでいいかな? これからごはんなの」

 そう言って券売機を指差す。

「食べてからでよければ、ちゃんと聞くね」

 この場で断ったっていいくらいなのに、橋本さんはそう言って食堂へと消えていった。買った食券は『日替わり定食・チキン南蛮』。ご飯もチキンもボリュームたっぷりと男子に人気のメニューだった。




 あんなことを言った手前、最後まで見届けるべきかと考えはしたが、他人の告白を見届けるというのも何だかおかしなことのような気がして、私はいつも通りに昼休みを過ごすことにした。

 大急ぎで弁当をかき込み、体育館に陣取る。

 いつも通りのつもりでも、いつも通りにはいかないものだ。

 気になってパスミスを繰り返す私に「気になるなら見にいけばいいのに」と声がかけられる。

 参加者がつくる円も、いつもよりだいぶ小さかった。

 それでも私はバレーボールを続けた。

 私が見に行くのは、やっぱり違うような気がした。




 昼休みが終わり教室に戻ると、あちこちで緩士の話をしていた。直接見た者も、そうでない者も。

 告白はうまくいかなかったらしい。

 しかし彼らの言葉からうかがえるのは結末だけで、何が起きたかまではわからなかった。

 『保証する』なんて言ってしまった手前、どうなったか確認くらいはするべきだろう。

 次の休み時間にでも橋本さんを訪ねるか。いや、教室に行っては迷惑がかかる。昨日のあの練習場所ならどうか。でもどう誘う?

 そんなことを考えているうちに緩士が戻ってきた。

 クラスメイトたちの励ましやひやかしを受け流しながら私のもとへ向かってくる。

「駄目だったって?」

 ちらりと顔を覗く。緩士は眉をしかめ私の顔をじっと見た。落ち込んでいるという風ではなく何が起きたかわからないという顔だった。

「駄目だったんだよね?」

 私がもう一度声をかける。

 まわりもその答えを待ってそわそわしているように見えた。

 その中で緩士だけはマイペースで、目を細めて上を向いたり、首を傾げたり。ぶつぶつと独り言を言ったかと思うと、また私の顔を見た。

「俺、橋本さんのこと泣かせちゃったかもしれない」

 できるだけ顔を寄せ私にだけ聞こえるように囁いたその一言に、一瞬頭が真っ白になった。

「どういうこと」

 さらに私も顔を寄せる。

「それがさあ――」

 残念ながら、その先は聞けず。

 五時間目の教科担任が姿を現したせいでおあずけとなった。




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