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暗がりに火を灯す  作者: makoto
9/12

2-3

「都に来るのは初めてか?」


 都は龍神祭のせいか、何処か浮き足立った雰囲気を漂わせており、大通りに面した店の軒先は、鮮やかな提灯や色布で彩られていた。それ抜きにしても、周りに人が忙しなく行き交う都の煌びやかな様子に、忍の視線がきょろきょろと左右に行き来して奪われていることは明らかだった。


「……まあ、そうだな」


 忍は気恥しさにそっけなく返事をするが、少しばかり声が上擦り跳ねる。実際、忍は都に来たことなど一度もないし、村に住んでいる中で自ら入ろうと試みたこともなかった。ただ、たまに商いをしていた香が、そわそわと都のことを聞きたがる明に対しての土産話が隣にいる忍の耳を掠めていたことはあったが、村の暮らしに満たされていた彼の特段の興味を引くというわけではなかった。

 しかし、あんなことがなければ村の外に出ようとすることがなかったであろう忍でさえも、この美しい場所を目にすると、その声色に好奇を滲ませずにはいられなかった。杏は忍の様子をみてふっと微笑みを浮かべた。


「あれが、飛龍宮だ」

 

 杏は通りの一番奥にある、建物を指差した。馬車から降りたときにも見えた一際大きな建物であったが、近くで見ると重厚な威圧感がさらに増す。村では見たこともないような大きさと豪華絢爛な様子に圧倒された忍は、飛龍宮を見上げてごくりと、唾を飲み込んだ。しかし、門の周りをみて違和感を覚える。


「……あんな宮殿に、見張りすらいないのか」

「帝により守られているからな。邪悪なものなど入るわけがない、という訳だ」


 随分と楽観的なものであると忍は心中で囁きながら飛龍宮を眺めていると、ふいに、その手が隣からぐいと引っ張られる。


「……へ」

「ただ、今日は君はこっち」


 杏はそういって、少し驚く忍の手をひきながら大通りから逸れた。喧騒が薄くなりしばらくすると、先ほど見た飛龍宮までの豪華さとは言わないが、立派な建物があった。鮮やかな空色の布と提灯で飾られた門戸を潜ると薄桃色の花びらが散る庭園が二人を迎える。舞う花びらの美しさに息を呑む暇もなく、躊躇いなく石畳の道を踏み先に進んでいく杏に忍は恐る恐るとついていく。


「……勝手に入ってもいいのか?」


 忍の言葉を聞いて、杏は一瞬上を向いて考え込んでから、けらけらと笑った。


「私の屋敷なんだよ、ここは。そんなに緊張しなくても大丈夫だ」

「……そうなのか」


 目を見開いて驚く忍と、「そういえば、私には当たり前のことだったから言ってなかった」とおかしそうに笑う杏。あまりにおかしそうに笑うので先程までの無駄な緊張は何だったのかと忍が白い目で見つめると、杏は少しくらいは申し訳なく思ったのか、微笑みながらも「すまない」と謝った。

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