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かくして忍は、杏に連れられて都へと向かうことになった。近くの街まで十里ほど歩き、そこからは馬車を使うらしい。村に行く人間は商売をする者たちばかりだったし、忍と婆様の職業は村の中だけで成り立つものだったので実際にこう歩かされると、住んでいた村は随分と辺境にあったことが思い知らされる。
空を見ると日が暮れ始めており、空は夕焼け色に染まっている。随分歩いたがまだ街の姿は見えなかった。
残念ながら村を出ることが少なかった忍にはあまり体力がない。荒い息で膝に手をついて立ち止まる忍を見て、杏はぽんと手を叩いた。
「……よし、ここで一旦休もう」
「……すまない」
というわけで、結局一行は野宿をして夜を越すことになった。忍は火打石を何度か打つ。上手く火花が散ったら、慎重に火種を燃料に移して。
一度ついた火は燃え上がり、忍の手元を温かに照らした。
「帰ったよ」
炎を眺めていると、背後から声がかけられる。食料を探しに行っていた杏が戻ってきたようだった。振り向くと、右手には何かを携えていることに気づく。
「瓜獣か?」
「ああ、そこで見つけてしとめたんだ」
きゅうと目を罰にする瓜獣。細長い耳が2つあるその獣は、野原に生息しすばしっこくで捕まえるのが難しい。捕獲の難易度が高いため村ではあまり馴染みがなかったが、食べるとそれなりに美味しい、というのは香から聞いたこ話である。
どうやら杏は料理には無頓着なようだった。そのまま焼こうとする彼女をとどめ、料理慣れしている自分がなんとかすべく、よく研いで肌身離さぬように身につけていた短刀を懐から取り出す。化け物を倒すことに使いはしたが、本来はこのような際に使っていたのだ。
忍は短刀を使って獣を器用に捌く。捌いたらもってきた薬草で肉特有の生臭い匂いを消し、串にごろごろと刺した後、時間を置いて焼く。
しばらくすると、そこには立派な瓜獣の串焼きがあった。
「君は料理が上手いな」
目の前にあるものを見て杏は感心したように呟く。
「じゃあいただくよ」
「どうぞ」
杏の口に豪快に肉が放り込まれた。
「……おいひい!」
もぐもぐと頬張りながら杏が答える姿に、忍は少し安堵した。婆様と暮らしている際、料理は忍の担当だったが、身内のみにしか自分の作ったものなど食べさせたことがなかったからだ。
杏の食べる姿を満足げに確認した後、忍もともに肉を頬張る。火を囲みながら和気あいあいと食べるのが一段落したところで杏は呟いた。
「……そういえば先ほど聞きたいことがあったのを思いだした」
「どうした?」
杏は布きれの上に置かれた短刀を指さした。先ほど、忍が瓜獣を捌くために使っていた短刀である。
「……その短刀、どこで手に入れたんだ?」
「さあ、覚えてないくらい随分昔からだな」
忍は少し考え込みながら答える。村に来る前には既にもっていただろうか。
「……気になることでもあるのか?」
「……少し」
杏も忍も同じように考え込みながら尋ねる。
「君が、あの化け物をあの時倒しただろう?……実は普通の武器ではあれは倒せないんだ」
「……そうなのか!」
驚いて忍は自身の短刀を見つめる。何故あの時、あれを倒せたのか、自分でもよくわからないし、倒した後も実感もわかなかった。ただ目の前に敵に、死ぬまいと立ち向かっただけであった。この短刀のおかげで生き残ることができたのだろうか。
「……その様子じゃ君もわかってなさそうだ」
杏は忍のそんな様子を見て困ったように微笑んだ。
「……なあ。僕からも質問をしていいか?」
「なんだ?」




