2-13
天子──龍の化身としてこの朱耀国を治める絶対的な支配者。同時に帝とも呼ばれるその男の乾燥した指が顎に触れ遠慮なく顔が覗き込まれる。
「……ほう」
何か気になることでもあるのか、指の位置を変える。左右から爛々とした瞳で見回されて、もはや顔に穴があいてしまいそうだ。探るような視線に忍がこらえきれず飛び退くと、杏は呆れた様子で苦笑しながら半歩前にでた。
「ああっ」
「そこまでにしてあげてください」
離れる忍を口惜しそうに見る男を制して、忍と男の間に立った。忍は杏の背後から気まずさを感じつつも改めて男の顔を見る。あんなに近いとかえって目を逸らしてしまうから、これくらいの距離がちょうどよかった。
隠れながらじっと見つめて、目立たない顔をしているとまず思った。端正ではあるが派手さはない。群衆に紛れれば二度と見つからないと確信してしまうほど印象に残らない顔立ち。彼が特別な人間だと表しているのは身につけている深紅の袍くらいだ。よく見ると、もっとも衣服でさえも襟元がゆるく開いた締まりのない着こなしである。儀式での様子とは異なり威厳がないどころか軽薄さすら、感じさせる馴れ馴れしさについ先ほどまであった忍の緊張感が薄れてしまう。
「忍。──こちらが我が朱耀国の帝であらせられる」
杏は格式張った喋り方で男──帝を紹介した。目の前の男が帝である事実に、はっと背筋に緊張が走り姿勢を正す。こういう場において何が無礼に当たるのだろうか、まるで検討がつかない。というかそもそも杏の後ろに情けなくも隠れている時点で失礼なのではないだろうか、そんな思考さえ巡った。迷った末に正しいのかもわからず、何となしに頭を垂れてみる。
「……北の、村からきました。忍と申します」
「私が会いたくてつれてきてもらったのだ。そんなに構えなくてよい。顔をあげなさい」
「は、はい!」
躊躇いがちに顔を上げると、帝は思いのほか優しい笑みを浮かべ忍の顔を眺めていた。
「邪龍の涙から生き残ったのだろう?」
瞳に好奇心に満ちた光が宿る。その問いかけにどう答えるべきかと思い悩む。言葉に詰まっていると、杏が耳元に口を寄せた。
「穢れの涙の汚染の対応を君がしていたってことを報告したんだ」
「……汚染?」
「村で流行っていた病気のことだ、それをいったら君の話を聞きたいと止まらなくてな」
「僕の、話をか……」
話を聞きたいといわれても、忍は婆様の手伝いをしていただけだ。そう忍自身では考えていたから、返答に迷ってしまう。しかし、目の前の帝の顔を見ると何だか申し訳ない。




