2-12
夜であるのにまるで昼のようだ。その場に広がる、脳が錯覚を起こしてしまうくらいの凄まじい光量に忍は両目を瞑った。しばしして弱まる光に、薄らと目を開ける。
空から雪のように光が舞う。幻想的な様子に忍の喉から言葉にならない息が落ちた。
ふわふわと宙に浮く光の粒は、ほんのりと暖かさを宿している。忍が落ちていくそれを掬おうとすると指先をすり抜け、透明になりながら地面へと吸い込まれていった。
「結界だ」
周囲をきょろきょろと見回す忍の様子を見受けて、杏はそういった。
「……門のところにあったやつか?」
「ああ、門の結界と同じ術式だ。年に一度祭りの灯を借りて都全体を覆うように強化している」
淡々と説明した後に人差し指を唇に近づけ隠し事のように声を落とす。
「……とはいえ、少々不完全でな」
「不完全?」
「祈りの力に依存している。飛龍宮ほどの規模なら問題ないが、都全体を守るには少々強度が足りない」
祝詞はもう静まり、真紅の袍は姿を消している。ただ、夜空には、放たれた灯籠が無数に存在し、黄金の光の粒がまばらに降り注いでいた。先ほどの張り詰めた静けさとは相打って、賑やかに白衣と緋衣が庭から撤収していく。
「なあ」
忍が中庭をどこか物寂しい気分で眺めていると、すぐ傍で杏の声が落ちる。
「……討伐隊がなぜあるかわかるか?」
視線をあげるとやけに真剣な様子で問いかけている。忍はその鋭い視線に緊張を覚えながら、杏との会話を辿る。
「邪龍の涙を倒すためじゃないの?」
「そうだな」
忍の答えに杏は満足したようだ。目を細めて、僅かに顎を引いて同意する。
「結界では、所詮守ることしかできない。地に根づき、芽吹いた邪龍の涙は 結局人の手で絶つしかない。芽吹いた邪龍の涙の被害を少しでも食い止めるために討伐隊は存在しているんだ」
結界の外にいる人間には、祈りの力は届かない。だから、忍は一人だけ生き残ってしまったのだ。心臓がきゅっと締め付けられるように痛む。その痛みを誤魔化すかのように、指先が白くなるほどに袖を強く握り込む。
「……討伐隊に入らないか?」
唇を噛み影に目を落としていると、前触れもなく杏は呟いた。
「僕が?」
思いがけない言葉に忍は反射的に杏の方を向いてそう叫ぶ。数秒程視線が絡み合う。先に視線を落としたのは忍の方だった。
その時。
「面白そうな話だ」
二人の背後から柔らかな声が響いた。
「陛下」
「いやあ、随分と疲れてしまったよ」
首筋に手をやりながら、かしこまろうとする杏を軽く制した。着崩された深紅の袍を纏った男がそこに立っていた。
「君が忍だね。」
口元に穏やかな笑みを浮かべ、忍を見やった。そのまま一歩、距離が詰められる。男は指先で忍の顎を軽く持ち上げた。




