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暗がりに火を灯す  作者: makoto
17/19

2-11

 

 案内された部屋の奥には、朱塗りの双扉があった。


「ここだと、よく見える」


 杏は、龍を象った真鍮の環に手をかける。重い双扉が左右に開かれると、夜の風がひやりと流れ込んだ。

 そこは外へ張り出した露台であった。白い石の床が、月明かりを淡く照らし、朱塗りの欄干の向こうには、まるで都中の灯が広がっているような気さえする。

  風が、杏の長い髪を揺らした。そよそよと吹き抜ける涼風に、確かに、「きれいに景色が見える場所」なんていう杏の言葉も間違っているわけではなかった、と忍は目を細める。

 都の灯籠は、まるで地上から夜空へと落ちていく、星のように輝いていた。

 灯籠が揺れながら昇るのが良く見えた。

 先程よりはずっと高い場所にいるはずなのに。それでも、遠くなるにつれて、暖かい光は小さくなって見えなくなるのが、どうしてか忍の胸に沁みる。


「忍、下を見てみろ」


 杏は遠くの方を見据えて言った。

 視線を追い、忍も欄干に身を乗り出し、斜め下を覗く。祭官か、宮廷の文官か。忍には、判別することができない。だか、白衣と緋衣が整然と並び立つその様子に、何やら厳格な儀式の最中であることははっきりとわかった。

 香の煙がゆるやかにたち、周囲に祭官らの白衣が灯篭の灯りに照らされる。

 

 太鼓が低く、一打。


 大殿の双扉が祭官によって左右に開かれる。石の前段の上に、1人の男が姿を表した。深紅の龍紋を戴く袍。飾られた金糸が夜灯を受けて静かに光る。

 群臣の列は一斉に静まり、先程まであったざわめきは、そっと消える。1人の白衣の祭官が男のもとへ進み出る。その手にあったのは、一際豪奢な灯籠だった。


 次の瞬間、太鼓とともに朗々と祝詞が響き渡った。男がゆるやかに階段を下ると同時に、群臣は一斉に頭を垂れる。


「あれが、――天子」


 この国の「頂点」にたつ男。思わず、忍の唇から言葉が溢れ落ちる。忍の言葉と同時に、ふと男は顔を上げた。びり、と背筋に緊張がはしり、どうしてか、胸が騒めく。目が合った、ような気がした。しかし、次の瞬間にはその視線はすぐに前に向けられる。


「……大丈夫か?」


 杏にそう問われて、忍ははっと息を吐いた。どうやら、呼吸を忘れていたらしい。顔を覗き込む杏に、忍はこくりと頷く。


 再び庭へ視線を落とすと、天子は灯籠を空に高く掲げていた。灯は、黄金の線を空に残しながら、夜風に揺れてゆるやかに昇っていく。

 祝詞が太鼓ととも次第に高まる。灯籠の光が、消えてしまいそうなほど細くなり、次の瞬間強く輝き、空に天蓋のように広まった。


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