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暗がりに火を灯す  作者: makoto
15/19

2-9


 通りをずっと歩き、しばらくすると杏は止まる。目の前には、見覚えのある豪奢な建物があった。忍は、その建物を見上げながらぽつり、と呟いた。


「……ここは」

「飛龍宮だよ、紹介しただろう?」


 忍の小声を拾い、いつも通りな様子で淡々とそういう杏。しかし、ここが飛龍宮であることは忍も覚えている。……ただ、少々、いや随分と疑問が募っているだけだ。

 

「……灯篭がきれいにみえるのか、ここって?」


 忍は怪訝な顔をして、首を傾げる。飛龍宮が、杏のいう、「きれいに景色が見えるところ」なのであろうか。

 というか、そもそものところ、杏は「今日は君はこっち」なんていって忍を飛龍宮から遠ざけた。それに、忍のようなまるで関係のない人間が、飛龍宮に入っていいのかという疑問さえある。  

 杏は、考え込む忍をみて「まあまあ」と宥める。


「色々と事情が変わったんだ」

 

 本当に言葉足らずすぎる、と忍はため息をついた。

 

「……事情って」

「入ってからのお楽しみってやつだよ」


 どうやら、杏にとってこの状況は少々面白いらしい。右の口端が上がっている。


「……でも、これどうやって入るんだ?」


 ぴたり、と閉じた門を見上げ、尋ねる。押しても、引いてもまるで開きそうもない重厚さがある。もちろんすることはないのであるが、盗人のようによじ登るにしても、高さがありすぎる。


「少しまっていてくれ。……ここに、あれが、あるはず」


 忍を他所に、杏は、ごそごそと懐をあさっている。しばらくして、「……よし!」と声があがる。


 忍の前に、何かが出される。


「これが必要なんだ」


 そこにあるのは、薄い板のような何かだった。忍にはそこに何が書いてあるかはわからない。しかし、文字と記号のような何かが赤の線で刻まれていた。


「なんだこれ、呪具か?」

「令牌だ。簡潔にいうと、通行手形みたいなものだな」


 忍は興味をそそられた様子で、令牌と呼ばれたそれをじっと観察する。


「……見てて」


 ふいに、忍の目の前から令牌が消える。ふっと忍の顔を見ながら笑った後、杏は令牌を胸の前に抱き、門の前に傅いた。


「天子の命を受け、令牌に命ずる」


 ほんの少し、赤い線から怪しい光が発されて。


「これで、いいはずだ」


 杏は立ち上がると、忍の方を向いて言った。


「……いいって」


 忍は、杏の言葉に呆然とした様子で立っていた。だって、まるで門は空いていないのだから。令牌から僅かな光がもれた以外には、状況に何も変化はない。門は、先程のように、僅かな隙間もないまま、そこに鎮座していた。


「通れなくないか?これ」


 忍がそういって、門を指差す。すると、杏は「いや」と首を振って、手を伸ばした。前に出された手は、そのまま門の表面に触れておわるだろう。


「……え」


 忍の口から、思わず驚きの声が出た。杏の手の、手首から先が、消えている。いや、これは消えているんじゃない。杏の手が、まるで幽霊のように門をすり抜けているのだ。




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