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ただ、あの日、何もできないままだった自分だけは認めることができなかった。動けたのは、最後の最後。それも、あれは自分ですらないような気さえしていた。条件反射のような形で。あれが自分自身の実力であるだとか、到底信じることができない。
ゆらり、と炎が揺れる。
「……?」
見覚えのある姿だった。
「……忍、助けてくれ」
「婆様!」
思わず駆け寄るが、その姿は崩れ、消えていく。どうすればいいのかわからずに、思わず立ち止まって呆然とする。
「だから、俺たちは死んだんだよ」
背後から声が聞こえた。こちらも、聞き覚えのある声だった。
「香?」
隣には、明が微笑みながら寄り添っていた。次は、消えてしまわぬように恐る恐る手を伸ばす。
「お前が、動かなかったからだ」
二人の顔が、どろどろと黒く塗りつぶされて。浅く息を続ける。
「……僕は」
結局どうして、杏についてきたのだろうか。
復讐をしたかった?価値に縋りたかった?それとも、ついていけば、あの日をやりなおせると思ったのか。
僕は、もう二度と何もできないまま、目の前で立ち尽くしたくない。
*
「……大丈夫かい?」
気づかないうちにどうやら居眠りをしてしまったようだった。優しく揺り起こされて、ゆっくりと忍は目を開けた。どうやら、うなされていたようで夢の余韻が少し残っていた。暫くして、目の前に杏がいることに認識して、はっとした。
「先ほど帰ったんだ」
「……ごめん、思わず」
「おはよう。随分疲れていたようだね」
罰が悪そうに頭に手をやった忍に対し、杏は微笑を浮かべる。
「……なあ」
忍が杏に声をかけた。
「杏は、僕に価値があると言ったよね。そうはいったけど、結局何の役に立てるっていうんだ?」
「君はあのとき動いて、あれを倒しただろ」
「…あんなの条件反射のまぐれにすぎないし」
「それでも、動いたのは事実だ」
杏は、忍の目を見て言う。
「私はあの瞬間に動けた君を、信じた。ただそれだけだ」
不意に、ゆったりと、窓に近づいたかと思えば、こちらに来るようにと手招いた。「どうしたの」と、そう言葉をかけようとして、窓の外の景色を視界に捉えた。
「綺麗じゃないか?」
「……ああ」
朧げな光が、空に飛んでいく。
「あれは灯籠だよ」
「……灯籠」
「灯籠」という言葉を噛み締めるように、繰り返す。複数のぼんやりとした橙色の光は、巨大な生き物のように、都の夜空を照らしていた。あの黒い炎とは、まったく異なる温かさだ。
「外で見てみるかい?」
「いいの?」
目を奪われて、忍が思わずそう聞くと、杏は「もちろん」と頷く。
「……いってらっしゃいませ」
玄関の方にいくと、仙道が待機していた。 「じゃあ」と軽く目配せして、手を振る杏。対照的に、忍は、仙道の言葉を思い出して、少々挙動不審にお辞儀をした。
その様子がおかしかったのかくすりと杏は微笑んだ。
「……こんなにかしこまられることなんて普段ないから」
少々拗ねる忍に、「ごめんごめん」と、杏は更に笑みを深めた。
「実は、もともと祭りに行ってみないか誘うつもりできたんだ。……疲れていそうだったからどうしようかとも悩んだんだけど」
「違うよ、居心地が良くて思わず寝てしまっただけ」
「そうなのか?それはよかった」




