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忍が暫しの間どう答えるべきか、と思考していると、押し止められていた蘭々が声を上げた。
「やっぱり、怪しい!」
「……え」
「急にお嬢様が人を連れてくるなんておかしいと思ったのよ。……あなた、お嬢様に取り入ろうとしてるんじゃないの?」
蘭々は忍に向かって、指をさす。特にそんなつもりもない忍がふるふると首を振ると、埒が明かないとでも思ったのか、仙道の方に話を振った。
「ね、仙道もそう思わない?」
だが、かわってこちらは冷静である。「考えすぎる癖が出ていますよ」、と仙道は窘めるようにゆっくりいった。
「……でも、お嬢様が屋敷に人を連れてくるなんて。それも、あんなに近い距離でいるなんて」
「おかしい」と、蘭々は食い下がる。忍は、自分を連れてくるぐらいでこんなにも叫ぶなんて、一体杏はどのような人間なのだろうと、つくづく不思議に思った。
「……あなたがそう言い連ねるから、忍様が萎縮しているじゃないですか」
対立する二名をどうすることもできず見ている忍を、仙道はそのようにとったようだった。
「一度戻りなさい」
その言葉を聞いて、蘭々は不満げである。頬を膨らませた後、忍に睨みをきかせると、ばたばたと去っていく。
ようやく静かになった部屋の中で仙道は忍に向き直った。
「……申し訳ありません」
「いえ、全然大丈夫です」
心底申し訳なさそうな顔をする仙道に、忍は頭をかいて頭を振る。
「随分慕われているんですね」
「どうもあの子はお嬢様のことを慕いすぎてるようでして。忍様とお嬢様の関係性がどのようなものであれ、失礼な態度をとらせてしまい申し訳ありませんでした。若輩者ですのでどうか多めにみてやってください」
仙道の言葉に、忍は先ほどの蘭々のことを思い出して、苦い笑みを浮かべた。
「本当に、恋人とかそういう関係ではないんです。そもそも友人というのも怪しいというか。……死にそうになったところを彼女に助けられて。どういうわけか今ここに、というわけで」
実際のところ、忍と杏の関係性なんてそんなものだろう。まだ日も浅い仲だ。忍が、杏に頼り切りになっているだけであって。こうなると、蘭々の怪しいという指摘に、言われた張本人の忍でさえも説得力を感じてしまう。
「お嬢様が屋敷に誰かを連れてくるのなんて、本当に久しぶりなんです」
これ以上の言葉が言えない忍に唐突に、仙道は言った。
「蘭々ではないですが、実のところ私としてもめったになくお嬢様が連れてきた方なんて気にもなります。まあ、色々と伺いたくなる気持ちもありますけれど。お嬢様を信用していますから」
仙道はそんな素振りなど全く見せることがなかったため、忍は少し驚きを顔に出した。「……しかし」と仙道は忍の様子を見て、微笑を浮かべ続ける。
「お嬢様は何も考えずに忍様を連れてくるような方ではありませんよ。……きっと、いつか忍様もその意味をご理解なされるはずです」
それは、忍の迷いを見透かしたような言葉であった。
「そう、ですかね」
「……ええ」
「そうだといいのですけれど」
忍は確信を持てずに小さく呟いた。「では、失礼しますね」と一礼し去っていく仙道の背中を見つめながら、忍はため息をついて椅子に倒れ込んだ。都にきたばかりであるが、長旅のせいもあり随分と疲れが溜まっていた。
ゆっくりと呼吸をしながら、仙道の言葉を受け止めて。自分が何かの力になれると、信じたい。しかし、邪竜の涙を倒せたのは運が良かったに過ぎないと心内では考えていた。胸に潜めた短刀以外は何も持たない自分が、彼女にとって一体何の助けになれるのだろうか。




