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1-1

 また、一人死んだ。高齢の男だった。


 村には、陰鬱な雰囲気が漂っていた。ここのところ、何もかもがおかしい。木々がざわめき、空気は濁り、雨は一粒として降ることがなかった。挙句の果てには、村では奇妙な病が流行っているときた。奇病にかかった患者は黒く濁り切った痰を吐き高熱に襲われ、一週間程度で苦しみ抜いて死亡に至る。村の外れで診療所を営んでいる婆様と、居候としてその手伝いをしている忍はこのところこの奇病の対応に追われている。

 新しい罹患者は、向かい側に住んでいた年老いた女性だった。忍もよく知っている人物であり、よく診療所を利用し野菜などをお裾分けしてもらっていた。余所者である忍を早くから受け入れてくれた気の良い人である。婆様は、薬草をよくすり潰し、薬を煎じる。

 婆様は腕の良い医者だ。忍も単に薬を煎じることはできるが、婆様のは忍のもの以上によく効くと村で評判だった。事実、忍も婆様に助けられた口であり、全身におった傷や発熱で死にかけていたところを婆様の煎じた薬草で生きながらえたのは、遠い記憶である。

 しばらくして、婆様は出来上がった薬を瓶に流し入れ、ラベルをつけてそれから後ろにある棚に置いた。おもむろに棚を漁るとたっている瓶をいくつかなでてため息をもらす。


「……ここのところ、薬の減りが早い。忍、桂皮と麻黄が切れたから森へとってきてくれないか」


 忍は、返事をする代わりに小さくうなづいた。

 ここにきて、随分と長い時間を経た。初めは婆様に頼り切りの生活であったが、今ではもうすっかり一人で薬草を取りに行くことができ、半人前ではあるが婆様の手伝いもしっかりと果たすことができる。……もちろん、少々失敗することもあるが。偶然が重なり、転がり込んだ身ではあったが、婆様のようになりたいというのを忍はいつもぼんやりと考えていた。


 外には、相変わらず鬱屈とした空気が漂っていた。煙突からもくもくと煙が立ち、見慣れたはず赤い煉瓦造りの建物が色褪せて見える。広場の近くに行ったところで忍は、白い服の少女があたりを不安そうに見渡しているのに気づく。少女のその長い黒髪とオロオロとした様子には、見覚えがあった。というか、忍のよく見る、むしろ見慣れた顔だ。


「明」

「……忍!」


 忍が声をかけると、先ほどは困ったような表情をしていた明の顔が輝いた。


「お前、こんなところに出てきて大丈夫なのか?」

「最近、割と調子が良くて。婆様の作ってくれた薬のおかげかな」


 嬉しそうにはにかむ姿に、忍も釣られて微笑む。


「それなら良かった」


 明は、病弱であまり外に出ることができない。いつも熱で寝込んでいたりすることが多く、彼女の兄である香は病弱な彼女のことを案じて全くとはいわないがあまり外に出したがらなかった。そんなわけでよく婆様の付添で彼らの家に行くことが多かった忍は、彼女の話し相手になることも多かったのだ。


「お兄ちゃんに頼んで、連れてきてもらったんだけど」


 そういうと、明の視線は忍から離れ、その視線を辿ると、村の衆が誰かを囲んでいる。うち一人が、こちらに気づいたのか、ひらひらと手を振る。その時、忍は、男が明の兄であり自身の顔見知りである香であることに気づいた。


「……なんだか大変なことに」


 明はそういって、困ったように眉毛の尻を下げた。




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