9話 #モンスター図鑑
数十分後。
ピロン――。
無機質な音が鳴り響いた。
その音が、まるで何かが世界を書き換えているような、そんな不気味な音に聞こえてくる。
画面には【アップデート完了。】の通知。
「アップデート終わった!」
姉が声高く、喜びの声をあげる。
「開くか……」
俺は、アップデートされたMを再び開いた。
画面をタップした瞬間――
ドュルルルルルルルル……
陽気な効果音が鳴り始める。
画面にはガチャガチャと、
その中央に【回せ!】のボタン。
「……ガチャガチャ?」
姉が首を傾げ、画面を見つめる。
「回せって書いてあるし、押してみる?」
俺は画面をタップした。
画面の中で、カラフルなカプセルが回転を始める。
ガラガラガラ……キラッ。
まるで、目の前に本物のガチャマシンがあるかのような音と光。
……お、なんか出た。
白いカプセルが一つ、コトンと転がり出る。
【カプセルをタップしてください。】
「なんかドキドキするな」
俺は指先でカプセルを軽く叩いた。
――パァンッ!
カプセルをタップすると、光が弾け、
【Mポイント+10】の文字が浮かび上がった。
「なんか、10ポイントもらえた!」
「私は20ポイントだ」
「あ!!そういえば!ばあちゃん、1000ポイントもらえたって言ってなかった?」
姉が興奮気味に言う。
「ばあちゃんが言ってたログインボーナスって、これのことか……」
「10ポイントじゃ何も買えないよ……」
姉がしょんぼりした顔で下を向く。
「まさか、ログインボーナス以外にMポイントの入手方法がないなんて言わないよな?」
「ま、まさかね」
そのままスマホの画面に目を落とすと、
アップデートの影響か、タブの配置が少し変わっていた。
「なんか、めっちゃ増えてる……図鑑もあるじゃん!」
姉がスマホを握ったまま、子どものようにはしゃぎ始めた。
目が輝いていて、まるでこの世界そのものを楽しんでいるみたいだった。
アプリを開くと、〈マジカルスーパー〉と〈ステータス〉しかなかったはずの画面に、
謎の〈キャンディ〉マーク、〈図鑑〉のタブが追加されていた。
って――あれ?
ばあちゃん、アップデート前にログインボーナスもらってたってことになる……?
それに、図鑑も開放されてたし……?
大当たりの影響?それともバグ?
胸の奥で、何かがざわついた。
――ピロン
すると、そのざわめきを断ち切るように、突然、通知音が鳴り響いた。
――――
【HeyHeyHoHo Inc.からメッセージが届いています。】
―――――
★大切なお知らせ★
マジカルユーザーの皆様へ
改めて、マジカルワールドへようこそ――⭐︎
昨晩はゆっくり眠れたでしょうか。
いよいよ、記念すべき、マジカルワールド生活1日目の開幕です⭐︎
現在、アプリMではダウンロード不具合、接続エラー、旧世界アプリデータ残留などの問題が確認されております。
皆様が安心してご利用いただけるよう、HeyHeyHoHo Inc.では誠意をもって対応しております。
今回のアップデートにて、各種不具合の修正および新機能を追加いたしました。
また、新アプリのダウンロードを推奨しております。
↓
Newアプリ:カメラM/マップM
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――――
タップすると、勝手にダウンロードが始まる。
すぐに戻って続きを読む。
――――
皆様がなかなか外に出られない現状を踏まえ、
“モンスター図鑑”を追加いたしました。
ネタバレはマジカルじゃありませんからね⭐︎
――皆様にこれだけアドバイスを。
★モンスター図鑑をコンプリートせよ★
このSNSの時代を生きる皆様なら、どうすれば良いかおわかりでしょう?
皆様の新しい人生に幸あれ。
マジカール⭐︎
――――
「……は?」
姉と俺は同時に声を出した。
「“どうすれば良いかわかるでしょ”とか言われても、わかんねーよ!!!
マジでHeyHeyHoHo最悪な企業だな……」
「モンスター図鑑コンプリートしたら、元の世界に戻してくれるとか?」
姉が、ほんの少しだけ期待をにじませるように首を傾げた。
「そんなわけ……」
それが本当だったら……
この世界を作ったのはHeyHeyHoHo なんだから、モンスターの種類や強さなんて、いくらだって操作できる。
何が目的なんだ? 俺たちをもて遊ぶ気か?
このままあいつらの言う通りに進んでいくのが、怖くて仕方がない。
胸の奥に、猛烈な不安と疑念が渦を巻く。
でも、今は言う通りにするしか……。
「……っにしても、図鑑のコンプリートって、どんだけ時間がかかるんだよ!」
俺は図鑑を開いてみるが「未開放」の表示。
ついでにキャンディマークのタブも開くが、それも「未解放」
「図鑑はまだ未解放……」
「ばあちゃん、もう図鑑解放されてたよね?しかも★10のやつ!絶対誰よりも先行ってるよ!すごい!」
姉は嬉しそうに飛び跳ねた。
その笑顔が、やけに眩しく見えた。
でも、俺たちの図鑑はなんで解放されなかったんだろう?
見ただけじゃダメってことか?
どうすれば、いいんだ?
――モンスターを触る? 倒す?
……いや、ばあちゃんは別にあの木を倒したわけじゃない。
むしろ、大事そうに抱えてた。
あれはモンスターって立ち位置じゃないのか?
いや、でも“モンスター図鑑”って言ってるくらいだから……。
考えれば考えるほど、ルールがわからなくなっていく。
図鑑の登録方法は、外に出てモンスターと対峙してみなきゃわからない……ってことか。
――外に……出る?
外に出ることを考えた瞬間、背中に冷たいものが走った。
最後まで読んでくださってありがとうございます(嬉)
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