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7話 #マジカルパウダー

 「……その箱は、ばあちゃんのか?」


まだ段ボールの中には、高そうな木箱が残っていた。彫り込まれた文様が、どこか不気味に見える。


明らかにやばそうな箱だな……。


「どうやって開けんの?」

「……開かないね」


二人で触ってみるが、微動だにしない。

まるで拒まれているようだった。


「ばあちゃん、この箱、開かないんだけど」


試しにばあちゃんに手渡してみる。


「あら、開いたわよ」


「えっ!?」


拍子抜けするほどあっさりと――

音もなく蓋が開いた。


まるで、最初からばあちゃんを待っていたかのように。


「なにかしらねぇ〜」


ばあちゃんが、ゆったりとした手つきで、箱の中から“何か”を取り出した。


中から現れたのは――


「……木の苗?」


一瞬、理解が追いつかなかった。


見た目はただの、白い花の咲いた苗木――

しかし、その花の甘い香りの奥に、不吉な何かを感じた。


――ピロン。


すると突然、ばあちゃんのテレビから通知音が鳴った。


テレビ画面のMの表示が光っている。


「Mに通知届いたね!絶対この木のことだよ!」


「そうだね。通知、見てみるか」


俺はそう言い、ばあちゃんのMを開いた。


すると、次々と通知が流れ出す。


――


【HeyHeyHoHo Inc.からメッセージが届いています】

【New魔樹】

【図鑑が解放されました】

【Newスキルと称号が解放されました】

【Mポイント+1,000,000】


――


「……なんか、通知一気に来たね」


「まずはメッセージから見てみるか」


俺たちは吸い寄せられるように画面を開いた。


【HeyHeyHoHo Inc.からメッセージが届いています】


――


『To the Chosen Ones ーー選ばれし者へ』


大当たりの《マジカルキャンディ》を手にした、あなたへ。


あなたはこの世界にわずか数本しか存在しない――


★幻の樹《マジカルパウダーの樹》★の継承者に選ばれました。


この樹は、扱う者の心を映し、力の在り方を変える。


それは世界を癒す光にもなり、破滅を呼ぶ闇にもなる。


勇者となるか、悪魔となるか。

その選択は、あなたの手に委ねられています。


この苗木と共に成長していく姿を、心より楽しみにしております。


― HeyHeyHoHo Inc.


“May your magic bloom under the eternal night.”

(あなたの魔法が、永遠の夜のもとで花開かんことを。)


――


この木、もしかして、やばいやつ?


“勇者か、悪魔か”――その一文が、胸の奥に深く刺さる。


まるで、邪な心を誰かに覗かれているみたいだった。


お前にこれが扱えるのか?とでも言わんばかりである。


まあ、俺がゲットしたやつじゃないんだけど?


それにしても、ばあちゃん……かなりやばい木もらっちゃったんじゃ?そんな不安が募った。


「次の通知、見てみよ?この木の苗のことが詳しく書いてあるかもしれない……」


姉の声がやけに遠く聞こえた。


「図鑑が解放されましたってやつ、開いてみて」


俺は姉に言われるがまま、図鑑のタブをポチッと押した。


すると、図鑑の画面がパッと広がった。


――


New【マジカルパウダーの樹】


分類:幻樹属

レア度:★★★★★★★★★★(Legendary)

危険度:SSS

発見地:聖域(確認例:3件)

魔力属性:変質/精霊


――


その画面を見て、すぐに姉が驚きの声をあげる。


「マジカルパウダーの樹……って、★10!?」


俺もその画面を見た瞬間、さっきまでの不安が一気に吹き飛んだ。


★10!?レジェンダリー!?!?


胸の奥で何かが弾けて、興奮が全身を駆け抜けた。


レジェンダリーなんて、明らかにレアなアイテム見たら、そりゃあテンションも上がるよな?


「めっちゃレアじゃん!……ってか、危険度SSS!? ばあちゃんマジでやばいの引いてる!!」


ばあちゃんは相変わらず穏やかに笑っている。

その笑顔が、逆に怖い。


「タップしたら詳しく見れるかな?ちょっと押してみて」


姉に促され、画面の《マジカルパウダーの樹》を選択する。


ボタンを押した瞬間、詳細ウィンドウがぱっと広がった。


――


【特徴】


聖域にしか生えないという幻の樹。

葉脈に沿って金色の光が脈打つ。

まるで、魔力が血潮のように流れているかのように。


昼の間、この樹はあらゆる生命や大気から魔力を吸い取り、淡七色に輝く真珠袋に力を溜め込む。

昼に咲く花は偽花であり、見る者の心を試す。


欲に囚われた者は幻覚を見て毒に侵されるが、

清き者にはただ穏やかな香りを放つだけ――。


この性質から、古の賢者たちはこの樹を

「心鏡のミラ・ルーメ」と呼んだ。


――


▪ マジカルパウダー誕生の瞬間


夜明け前――“黎明のれいめいのとき”。


その静寂の中、この樹は七色に輝く真の花を咲かせ、昼に溜めた真珠袋をそっと落とす。


その中に宿る粉こそが、万物を変化させる「マジカルパウダー」。


それは意思を持ち、使う者の心によって薬にも毒にもなる。

扱いを誤れば、世界すら変えてしまう。


現在確認されている個体は極めて少なく、

その性質の多くはいまだ謎のままである。


――


そんなことが書かれていた……。


……全然普通に、やばい木だった!!!!


「ばあちゃん! それ、めっちゃ危険な木だよ!」


俺は思わずばあちゃんの方を見る。


「触らない方がいいよ! 幻覚とか見えるって書いてあるし!」


姉もすかさず声をあげる。


しかし、ばあちゃんは、そんな俺たちの声を気にする様子はない。


「……あら、綺麗な花ねぇ。ふふふ」


「ばあちゃん!? やめて! マジで危ないから!」


しかし、ばあちゃんには何の変化もない。

むしろ穏やかに微笑んでいるだけだった。


ばあちゃん!もっと驚いたりしろよ!!

俺たちがおかしいみたいじゃん?


ばあちゃんに抱かれた木には、ひっそりと白い花が咲いていた。


その花が妙に目に留まった。


見ていたら、なんだかとても心地の良い気分になってきた。


花の甘い香りも最高に落ち着く。


あれ……なんか、ぼーっとしてきたな。


白い花が、ゆらゆらと俺を誘うように揺れていた。


「……」


理由もなく、その花が欲しいと思った。


俺の右手がその花に近づく。


その花に触れる瞬間――



「あんたたち、大丈夫?」


ばあちゃんの声が耳元で聞こた。


――ハッ


俺は我に返った。


横を見ると、姉もこちらを見ていた。

俺と姉は、顔を見合わせ頷く。


「欲まみれの俺たちは離れた方が良さそうだな」


二人して慌ててその場を離れ、遠くから声をかける。


あの花を見ていたら、なんだか無性にむしり取りたくなる感情に囚われた。


……これが、見る者の心を試すってやつ?


ばあちゃんは――平気なのか?


「ばあちゃーん、大丈夫ー?」


「は〜い」


俺が声をかけると呑気な返事が返ってきた。

逆に心配になる。


「俺たち、その木の花見てたらおかしくなっちゃうから、俺らが見えないとこ置いといて」


「本当に危ないから、変なことしないでねー!!」


俺らは、遠くからばあちゃんにあれこれ注意する。


でも、全然言うことを聞かない。


何度か声をかけ、やっと、ばあちゃんはゆっくりとソファから立ち上がった。


「俺らの目のつかないとこ置いといて!」


「はいはい〜」


ばあちゃんはニコニコと笑いながら苗を抱えて寝室へと運んでいった。


ばあちゃん、マジで頼むよ……。


ばあちゃんの呑気な様子が、どうしようもなく心配だった。


――


リビングに戻ると、テレビにはまだ図鑑の画面が映っていた。


マジカルパウダーの説明が、不気味に輝いている。


「……ほんとにヤバい樹もらっちゃったな。あれが“大当たり”の景品か……」


そう呟きながらも、胸の奥に微かな興奮があった。


使い方次第では、かなりやばい展開になるかもしれない。


ばあちゃんは、そんな気さらさらないだろうけど……。


「かなりレアっぽかったから、大当たりってあんまりいないのかな?」

姉はそう言い、首を傾げながらこちらを見てくる。


「たしかに。あのハロウィンの動画だと、“当たり”の方にはって言ってたから、“大当たり”って相当やばい確率引いちゃったのかも」


「やっぱり、そういうのは、欲がないばあちゃんみたいな人が引き当てるのかね〜」


そんなことを言って、俺は心を落ち着かせようとした。


でも、危険度SSSっていうのが引っかかる……。


慎重に扱わないとな。


俺は、このよくないフラグが、回収されないことを祈った。


「……って、あ! 通知まだ残ってるっぽい」


そう言い、姉が身を乗り出しテレビ画面を指した。


「“スキルと称号が解放されました”だって」


「見てみるか」


俺は、再びリモコンを手に持ち、通知を選択してボタンを押した。


――


【Newスキル】


《収穫の恩寵ハーベスターズ・ブレス

一定期間、全ての作物の成長速度・品質・収穫量を上昇させる。


――


「ばあちゃんすごい! 新しいスキル獲得してるよ!」


姉がばあちゃんを揺らす。


ばあちゃんは姉の動きに身を任せ、ニコニコしたまま揺れている。


「農業スキルっぽいね」


「ねえ、これもレアっぽくない!?

しかも、農家だったばあちゃんにはぴったりなスキル!!」


「ほんとだ。結構チートなこと書いてある」


俺は、すかさずばあちゃんに声をかけた。


「ばあちゃん!このスキル使うと、農作物が早く育って、たくさん収穫できるんだって!」


わかりやすく説明したつもりだ。

俺はそう言い、スキルが表示されている画面を指差す。


ばあちゃんは、きょとんとした顔を首を傾げた。


「へぇ〜、それは助かるねぇ」


絶対理解してない!


「はぁ」


俺は大きなため息をついた。


ばあちゃん、さっそくスキルまでゲットしちゃって……。


まだ、外にも出てないんだぞ?

やばくないか?


なんだか、全てが上手く行きすぎで不安になってきた。


画面には通知がまだ光っていた。


「あと、新しい称号……?まだあんの?」


――


【New称号】

《マジカルパウダーの覇者》


――


「マジカルパウダーの、覇者? なんか……やばそうだね」


姉は驚きつつも、興奮を隠しきれない声でそう呟いた。


「強者感がすごい。本人は全然そんな感じじゃないけどね」


思わず苦笑する。


どんどんチートみたいなアイテムやスキルが増えていって、もう頭が追いつかない……。


理解しようとするたび、心のどこかで“不安”が膨らんでいく。


――


「まあ、スキルはあとで試すとして……最後の通知、見てみるか」


……もうキャパオーバーですけど、一応、確認のため、ね?


画面を見て目を疑った。


【Mポイント+1,000,000】


「一、十、百……100万!?」

姉が叫んだ。


「え!!なんで!?」


「レア度の高い魔樹をゲットしたからって書いてあるね……」


「マジ!? 本当に100万!? 桁、間違ってない?」


俺は画面の数字を見直す。


「本当だ、残高1,000,000 Mポイントになってる……」


ばあちゃん、えぐい……。


「完全にチートキャラじゃん……」


「本人は、全然その凄さをわかってないけどね?」


姉は笑っていたが、どこか現実感がなかった。


ばあちゃんの出来レース感……何かが引っ掛かる。嫌な予感がしてしょうがない。


まあ、大当たりを当てたのだから、このくらい普通か?


「なんか、驚きすぎて疲れたわ」

急に疲れが押し寄せてきた。


「ほんとに……」

姉もそう言い、ソファに倒れ込む。


その言葉に、ばあちゃんはただ笑っていた。


いつもの朝のように――。


でも、その“いつも”は、もうどこにもなかった。

最後まで読んでくださってありがとうございます☺︎

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