6話 #始まりの剣と始まりの杖
「ダンボール、結構大きいし……重っ。何が入ってるんだろ?」
「開けるか……」
俺はダンボールのテープに手をかけた。
ベリッ――。
テープを剥がす音が、やけに大きく響いた。
ドキドキしながら、俺たちは段ボールを覗き込む。
中から光が溢れ出た――
まるで宝箱を開けたみたいだった。
「おお……」
なんか、すごいぞ。
中には豪華そうなケースが二つと、重厚な木箱がひとつ。
質素なダンボールとは裏腹に、中は眩いほどに輝いていて、胸が高鳴った。
「うわぁ」
姉の瞳も嬉しそうに光っている。
片方のケースは淡い水色と白の宝石が散りばめられ、可愛らしい装飾。
姉が好きそうなやつだ。
もう片方は赤と青の宝石で飾られ、どこか威厳を感じさせる。
「たぶん、こっちが私の杖で、そっちがあんたの剣?」
姉がケースを指差しながら言う。
「……っぽいな」
俺たちは慎重に、それぞれのケースを取り出した。その重さが、手のひらにずしりと沈む。
「……重っ!」
二人はごくりと唾を飲み込み、息を殺してそっと蓋に手をかけた。
――カチリ。
箱が開く。
――その瞬間、眩い光が飛び散った。
「うぉ、すげぇ……」
思わず声が漏れた。
「すごっ……高そう……」
姉の目がさらに輝く。
姉の箱の中には、まるで王宮の秘宝みたいな杖が収まっていた。
細長い白銀の柄は、螺旋を描くようにゆるやかにねじれ、金の装飾が繊細に刻まれている。
その先端には淡い水色のクリスタルのような晶石が浮かんでいる。
光を受けるたびに色を変え、その神秘的な様子に目を奪われる。
そして、俺のケースの中には――
高級感のある黒い布地の上に鎮座する、一振りの剣。
深い青の金属でできた鞘が、薄い光をまといながら、まるで眠る竜のような存在感を放っている。
鞘の表面には細かな紋様が刻まれ、角度によって淡く輝く。
その中心の柄の根元には、赤い宝石がはめ込まれており、魔力を感じさせる異様な光を放っていた。
こんな石、見たことない……魔石か何かか?
しかし、俺の視線は柄の端に刻まれた文字へと釘付けになっていた。
装飾には“HeyHeyHoHo Inc.”のロゴと
“M”の刻印。
――これも、あの会社のものなのか。
心臓がドクンと脈打った。
「ねえ、ばあちゃん、これ本当に1000Mポイントで買ったの……?」
こんな豪華なのが、1000Mポイントで買えたとはどうにも信じられなかった。
だって、俺が見た通販サイトは、どれも何万ポイントもする高価なものばかりだった。
俺の中に、小さな疑問が浮かぶ。
そんな中、杖を手に取りたくてうずうずしている姉。
「触って……いいよね?」
その言葉に俺は無言で頷いた。
二人は同時に手を伸ばし、杖と剣をそれぞれ掴む。
……重い。
手に剣の重みがずしりとのしかかった。
俺は左手で鞘を押さえ、右手で柄を握る。
そして、ゆっくりと――剣を引き抜いた。
――シュン
金属同士が擦れる、かすかな音。
剣を抜いた瞬間――世界が光に包まれた。
研ぎ澄まされた刃が朝日に反射してキラキラと煌めく。
その輝きに目を奪われ、思わず息をのんだ。
――すると突然、全身が熱く燃え上がった。
……な、なんだ……?
心臓が、さっきまでよりも早く打ち始める。
それは緊張でも恐怖でもない。
何か、体の奥底から力が湧き出てくるような、そんな感覚。
「……なに、これ……」
「体が……熱い?」
姉も同じように体の変化を感じていたようで、声が震えていた。
内側から力があふれ出すのが、全身でわかる。
そのとき――
奥に置いていたスマホが、同時に鳴った。
ピロン――。
その音が、妙に鋭く響いた。
俺と姉は、顔を見合わせる
「……なんか、やばそうだね」
「ステータス、見てみるか……」
武器の……効果か?ステータスが上がった?
手のひらの熱は、まだ消えなかった。
俺はゆっくりと剣をケースに戻し、深く息を吐いて心を整えた。
落ち着け――そう自分に言い聞かせながら、俺はアプリMを開いた。
指先が震えないように、ゆっくりと
〈ステータス〉の武器欄をタップする。
――――
【New武器】
――――
New武器:始まりの剣
分類:剣
レア度:★★★★★
◻︎特徴
全ステータス×3%
スキル:魔力を消費しパリィ発動
――――
New武器:始まりの杖
分類:杖
レア度:★★★★★
◻︎特徴
全ステータス×3%
スキル:魔力を消費し、一定期間HP自動回復付与
――――
武器のタブを開くと、俺の画面には
【始まりの剣】が。
そして、姉の方には
【始まりの杖】が新しく表示されていた。
「え、結構強くない?」
姉の目が興奮で眩しいほどに輝いていた。
「見て見て」とばあちゃんにスマホの画面を見せている。
ばあちゃんは「よかったね〜」とニコニコと笑っている。
「ほんとだ、ばあちゃんめっちゃ良いの買ってる」
でも、俺も正直興奮している。
顔には出さなかっただけで、俺の胸の奥では興奮が渦を巻いていた。
そりゃそうだろ!
武器、スキル――そんな単語を聞いただけで、子どもの頃からの“英雄願望”みたいなものが疼く。
自由に剣を振り、スキルを放ち、世界を救う。
そんなバカみたいな妄想を、ほんの一瞬、本気で信じたくなった。
でも、この剣を本当に使う時が来るのかと思うと、胸が高鳴るような、けれどどこか怖いような――そんな不思議な感覚に包まれた。
全ステータス3%アップも、スキルの〈パリィ〉も、なかなかに使えそうだ。
「でも、3%アップって言っても、姉ちゃんのステータス全部1でしょ?」
「うん」
「1の3%……プラス0.03とか?」
「やばい!雑魚すぎる!」
姉はそう言い、腹を抱えて笑う。
「レベルアップすれば強いと思うけど、今はないに等しいね……」
「うん。でも、ステータスちょっとしか上がってないのに、力みなぎる感やばくない!?」
姉の興奮はまだ冷めないようで、瞳をきらめかせながら杖を見つめている。
「すごい? かっこいい? かわいい?」
と、理解できるはずもないばあちゃんに、
杖を何度も見せては、まるで子どもみたいにはしゃぐ姉。
「かっこいいね〜、かわいいね〜」
と嬉しそうに、ニコニコしながら姉の顔を見つめるばあちゃん。
その穏やかな光景を見て、俺は少しだけ肩の力が抜けた。
不安だらけの世界なのに、今だけは、ほんの少し――あたたかかった。
でも、現実を見なければ……。
俺はそっとダンボールへ視線を戻す。
……その奥で、何かが、こちらを伺っているような気がした。
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