14話#魔法の使い方
「ねぇ!見て!少しずつスライム倒したって投稿上がってるよ!」
姉は口元を緩ませながら、俺の視界をスマホで遮りWの投稿を見せてきた。
「ほんとだ……」
“#スライム討伐成功”がトレンドに上がっている。
「スライムなら……俺らでも倒せるのか?」
その言葉を口にした瞬間、指先がわずかに震えた。まだ黒い獣を刺した時の感触が、皮膚の奥に残っている気がした。
「私たち、魔法も使えるし!余裕余裕!」
姉は余裕そうな表情で杖を振り回す。
たしかに、あの黒い獣に比べれば……。
実際に倒せた人もちらほらいるみたいだし。
「行って……みるか?」
俺は躊躇いがちにそう言ったが、
その言葉を待っていたかのように、すぐに姉の快活な声が被さってきた。
「じゃあ、さっそく!
スライム討伐!いくぞー!!!!」
姉は笑顔で拳を突き上げる。
先ほどまで恐ろしい獣に襲われたことなんて、微塵も気にしていない様子の姉。
俺は先ほどの戦闘で手先が痺れ、足もガクガク震えていた。
スライムと戦う余裕が残っているのか?
でも、今日スライムを倒さなかったら
――何も始まらない気がした。
“やるしかない”
そう自分の中で固く決意する。
「……いくかぁ」
マップを開き、モンスターの位置を慎重に捉える。
そして俺は重い腰をあげ――路地裏から一歩、外に出た。
――――
俺たちは、再びスライムと思われる小さな点を目指して静かな街を歩き始めた。
目的地へ向かう間、俺はさっきのことがふと気になり姉に問いかけた。
「ねえちゃん、そういえばさ、さっきどうやってアクアジェット使ったの?」
「ああ!それね。私もよくわかんないんだけど、アクアジェットってよくアニメとかで使われるじゃん?」
「咄嗟にその言葉がでてきて、その時に“水ズバァッ!”って感じをイメージしたら、できたって感じかな」
水ズバァッ!?語彙力があれだけど……。
「な、なるほど」
イメージが大切なのか?いや、詠唱?
それとも……両方?
「姉ちゃん、一回なんにもイメージせずに“アクアジェット”だけ言ってみて」
「お、おけ?」
姉は少し首を傾げながらも、杖を構えてその言葉を口にする。
「アクアジェット!!!!」
パシャ
杖の先から、コップ一杯ぶんの水が情けなくこぼれ落ち、俺の足元を濡らした。
「……水かけ攻撃?」
「ち、違う! 今のはウォーミングアップ!」
「ふむ、ウォーミングアップで服濡らされたんだけど」
姉がムッと頬を膨らませる。
俺は小さく笑いながらも、思考を巡らす。
「うそうそ。今試してみただけだから。
姉ちゃん魔法が使えなくて当たり前」
「え? どういうこと?」
とにかくやってみるしかないか……。
「次はズバァッ!のイメージして無詠唱で杖振ってみて!」
「お、おけ!」
姉は目をぎゅっと瞑り、恐らく心の中でアクアジェットをイメージして杖を振った。
パシャ
結果は――先ほどと同じだった。
杖から勢いのない水が出るのみ。
「使え、ない……」
姉はしゅんと肩を落とし、視線を床に落とした。
「大丈夫!大丈夫!
たぶんだけど、詠唱とイメージが重なったときに“魔導書の力”が発動するんだと思う。
姉ちゃん、一回魔導書俺に貸して」
「……え?どういうこと?」
俺は姉の魔導書を奪い取った。
「次は、アクアジェットって言いながら、ズバァッ!をイメージして魔法発動してみて!」
「おけ〜!任せて!!
いけーっ!!!アクアジェット!!!!」
パシャ
杖からは心許ない水が少量出ただけだった。
やっぱり……。
「え、うそ。アクアジェットが……使えない?さっきのは……奇跡だったってこと?」
姉の杖を持っていた手がぶらんと垂れ下がり、みるみると顔が青ざめていく。
そういうことか……。
「姉ちゃん、ほんとに大丈夫!」
「え?」
半泣きの姉がこちらに顔を向ける。
「俺の予想が正しければ、魔法を“出す”だけなら、詠唱なしで誰でもできる」
「これを、攻撃に匹敵する力に“変える”には、魔導書が必要になるんだと思う」
「え?どういうこと?」
姉の頭にはハテナが浮かんでいる。
「つまり、魔導書の力を借りて、
詠唱+具体的な強いイメージで、初めて複雑な魔法が使えるんじゃないかってこと!」
自分で言っておきながら、理屈っぽすぎる気もするが――たぶんそういうことだ。
「な、なるほどー?
つ、つまり?魔法を使うには魔導書と呪文とイメージ?が必須ってことかカナ?」
絶対理解してないな。
姉は口も目もぽかんとしており、思考を放棄しているのが見てわかる。
「まあ、でも、つまりそういうこと」
「姉ちゃんが、さっきの戦闘でアクアジェット使った時、魔導書が光ってたんだよね」
「そうなの?集中しすぎて気付かんかったわ」
「そう。だから、複雑な魔法を使う時には、
【魔法の杖、魔導書、詠唱、イメージ】
この四セットが必要ってこと」
「へぇ、なんか、だるいね。
えーでも、呪文はなんでも良いのかな?
例えば、アクアマリン!とかいう呪文にさっきのズバァッ!のイメージでもできるのかな?」
「どうなんだろ……やってみないと」
こういうのは、いろいろと試してみるのが一番早い。
「姉ちゃん、次はアクアマリンって言って、ズバァ!のイメージで杖振ってみて!」
「おけ!」
「いけ!アクアマリン!!」
姉は叫び、魔法の杖を振り上げた。
しかし、アクアジェットが繰り出されることはなかった。
「えええ!なんでー!!」
「たぶん、奇跡的にこの世界のアクアジェットと姉ちゃんのイメージが重なったんだよ」
「え!そんな奇跡ある?」
「まあ、アクアジェットなんてアニメとか漫画でもよく出る魔法だし、詠唱とイメージが重なっても全然おかしくないと思うけどね」
「えーじゃあ、魔法バンバン使うには詠唱を探ってかないといけないってこと?」
「そうなるね」
「うぇー時間かかりそう……」
「いや、そんなことないと思うよ!魔法呪文オタクとかいると思うし、だんだんとWとかで“初期魔法まとめ”みたいなのが出てくるんじゃないかな?」
「まあ、全部使えるとは限らないけど、初級魔法くらいだったらすぐ使えるんじゃない?」
「俺が知ってる中だと、ヒール、ライト、ファイアボール、ウォーターボール……とか……?
やってみる?」
「なにそれ全部かっこいい!やりたい!!!」
姉が興奮気味に飛び跳ねる。
「あ、でも俺、自分の魔導書持ってなかったわ。やるとしても姉ちゃんだけだな」
俺がそういうと、姉がにやりと口角を上げた。
「こんなこともあろうかと――
はるとの魔導書、持ってきてましたー!!」
意気揚々と俺の魔導書をバックから出し、
それを掲げる姉。
「マジ?」
あんな重いものを!持ってきていたなんて!
「ねえちゃん、怖いわ……」
「は?」
姉が少しムッとしたように目を細める。
「いや、違う。ありがとう。助かったわ」
俺は急いで訂正し、姉に感謝の言葉を伝える。
「でしょー?さすがあや姫!」
姉はすぐに機嫌が戻り、誇らしそうに胸を張る。
あんな重い物を二冊も持ちながら全力疾走していたなんて……。
我ながら、恐ろしい姉を持った。
「じゃあ、さっそく!魔法の練習しよ!」
姉は息を弾ませながら魔導書を俺に渡してきた。
俺と姉は、知っている限りの呪文とイメージの組み合わせを試し、初級魔法獲得を目指すことにした。
結果――
……俺はファイアボール。
姉はライトとウォーターボールが使えることがわかった。
姉に……負けた……。
「はると、まあ、落ち込むなって。魔法にも相性とか得意不得意があるんだよ、きっと」
姉に……励まされている……しかも、それっぽい言葉で……!
――屈辱!!!!
でも、これでわかったことがある。
魔法の杖、魔導書、詠唱、イメージがあれば
――いろんな魔法が使える!
それに、一度獲得した魔法は、魔導書に記載されるらしい!
姉の魔導書には、アクアジェットとウォーターボールと、ライトが記されていた――たぶん。
たぶんと言うのは、その文字が俺たちには読めなかったからだ。
魔導書を開いた瞬間、厚紙が微かに温かくなり、墨のような異世界文字がじわりと浮かび上がった。
――まるで、見えない誰かが、今この瞬間に呪文を書き記しているかのように。
俺の魔導書に記されてたのは一つだけだったから、数的に新しく獲得した魔法が記されるということで間違いはないと思う。
あ、でも俺、自分の魔法の杖なんて持ってなかったわ……。
姉に魔法の杖を貸してもらって初期魔法を獲得したが、実際俺が戦闘で使うのは、杖ではなく“剣”だ。
杖から繰り出す系の魔法ならいくつか思いついたけど、剣に付与させる系の魔法はわからん!!!
試しにWを開き、剣で魔法を使った人がいないか検索してみることにした。
しかし、剣の魔法はおろか、普通の魔法ですら使っている人はいなさそうだった。
まあ、いずれ使えるようになるか?
深くは考えるのはやめた。剣があれば攻撃は喰らわせられるわけだし。
強い敵と戦うようになったら剣にも魔法を付与させた方が絶対にいいから、その時になったら考えよう。
――
「……」
そんなことを考えていると、隣から軽やかな鼻歌が聞こえてきた。
……ん?
「ふふふ〜ん♪」
隣を見ると、姉がご機嫌な様子で鼻歌を奏でていた。
……え、まさか……?
――嫌な予感が脳裏を掠めた。
「ねえ、もしかしてだけど……」
「……ん?」
「今の一連の流れ、投稿しちゃった?」
「……え?」
一瞬時が、止まった。
「……ダメ、だった?」
あっけからんとした表情の姉。
その瞬間――
俺は、膝から崩れ落ちた。
「俺が集めた大事な情報があぁぁぁ!!!!」
……この姉がいる限り、俺の情報は世界に拡散され続けるのだろう。
そう思うと、背筋が凍り、心の底から戦慄した。
――――
あや姫(@ayaya-hime…)
魔法の杖+魔導書+呪文+イメージがあれば色んな魔法使えるよ!!
知ってる魔法があったら、呪文とどんな魔法かを具体的に教えて欲しいな♡
ちなみに、私が使えたのは、アクアジェットとウォーターボールと、ライト!!これはみんなも知ってるやつだよね?
#魔法の使い方
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