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12話 #外の世界

俺はゆっくりと玄関の扉を開けた。


ギィ――


その瞬間、朝日が俺の瞳孔を刺した。

眩しさに思わず瞼が閉じる。


「まぶしっ」


俺は目を慣らすようにゆっくりと瞼を上げる。朝の光が満ちる中、俺は恐る恐る周りを見渡した。


「……」


朝日が街を照らしている。

その暖かな光が、俺の中の闇を照らすように心の奥にじんわりと広がってくる。


澄み切った朝の空気が肌を撫でる。

その冷たい空気を思いっきり吸い込むと、新鮮な酸素が体中に染み渡った。


ああ、やっぱり落ち着く。


俺は、今日の始まりを告げる夜明けの光と、澄み渡る空気が溶け合う朝のこの時間好きだった。


胸の奥にじんわりと広がる静寂と心地よさを噛み締め、俺は目の前の世界を見つめた。


家のすぐ前を、朝の光を映した道路がまっすぐ伸びている。


その道路を挟んだ先には、お向かいの佐々木さんの家が見える。


その庭から佐々木さんちのお爺さんが大切にしていた金木犀が顔をのぞかせている。


佐々木さんちのお爺さんは、長年使い込んだ野球チームの帽子をかぶりいつも朝早くから庭の手入れをしていた。


そして俺の姿を見るや否や


「はる坊元気か?こっちきて手伝え」


と、黒く日焼けしたゴツゴツの手を振りながら声をかけてくる。


「元気だよ!今から学校!また今度ね〜」


と、毎朝同じやり取りをして家を出る。

それが俺の日課だった。


そんなお爺さんの姿は見えない。


右隣は川口さんの家。

朝っぱらからやたら元気な川口のおばさんは、いつもワーワー言いながら洗濯を干している。


……けれど、その姿も声も聞こえない。


そのさらに奥には、高齢夫婦が営む昔ながらのスーパー佐田。


その前にはいつも、開店は10時のくせに朝の5時過ぎにはもう店の前に椅子を出し、

シャッターを閉めたままぼーっと座っている店主の爺さんがいる。


もちろんその姿も――今日はない。


建物は変わらずそこにある。


でも、何かが違う。


俺の中に謎の喪失感と不気味な違和感が広がる。


街の風景に大きな変わりはない。


だけど……。



――街が、静かすぎる。


見慣れた景色のはずなのにどこかが違う。


建物だけがぽつんと存在し、交差点の信号も光を失っている。


車も、人も、鳥の声さえもしない。


風がほとんどなく、それがさらに不気味さを増している。


――異様に静まり返った世界。


「……なんか、怖いね」

姉が小さくつぶやく。


「……ああ。なんか俺たちの知ってる街じゃないな」


姉も同じ違和感を感じていたようで、少し不安そうな表情となる。


「と、とりあえず……マップ見てみるか」


俺はその不気味な恐怖を断ち切るようにして、すかさずマップMを開いた。


スマホの中には見慣れたマップがあった。


「ほんとに、マップが使える……」


表示範囲は半径1〜2キロってとこだろうか。


現在地と思われる場所には勇者姿の俺のアバターがいた。


俺らを囲うようにして白い点がいくつも散在している。


「……この点滅してる白いやつが、勇者の言ってたモンスターの位置?」


「そう……じゃない?」


姉もマップを見つめながらそう言った。


マップを拡大するとさらに数が増える。


大小様々な白い点はゆっくりと点滅しながら動いており、まるで何かが彷徨っているようだった。


「この一番小さい点、行ってみる?」


姉はマップを指差し行き先を示した。


「そう、するか……」


1番近くかつ小さな点。


「一旦遠くから様子見てやばそうだったら逃げよう」


俺がそう言うと姉は小さく頷いた。


そして俺たちは静まり返った道を歩き出した。 


――――


変わらない街の風景が続く。


だけど……。


「家はあるのに、人の気配が全くないな」


窓はすべて閉ざされているしカーテンの向こうにも影は見えない。


スーパーもコンビニも中には誰もいなかった。電気はすべて消えていて店内は薄暗い。


静まり返った空間に日の光だけがぼんやり差し込んでいて、なんだか異質な光景だった。


俺の生まれ育った街は、まるで時が止まったかのように動きを失っていた。


俺たちは無言で歩いた。


現実のはずなのになんでこんなにも現実感がないんだ……?


「……」


「この街にいるの、私たちだけなのかな?」


姉が急に口を開いた。

その一言が静かな街に吸い込まれていく。


「うん……」


それ以上言葉が出てこなかった。

静まり返った世界に沈黙が流れた。


「……ねぇ、モンスターに会う前に、魔法が使えるかだけ見ときたいんだけど」


静寂を裂くように姉が言葉を発した。


姉は使い方を探っているのか、魔法の杖をくるくると回しながら首を傾げている。


「ま、魔法……?」


あ、ああ。そうだった。


モンスターと戦うんだった、俺。


このなんとも言えない喪失感にどうも俺だけが置いていかれていた。


姉はもうとうに受け入れているのだろうか。


そう思った途端胸の奥に小さな痛みが刺さった。


そりゃ、そうだよな……。


普通に考えてモンスターと対峙するために外に出たんだから。


この世界の異質さに動揺して目的を見失っていた。


二人してWの投稿に興奮して考えるより先に家を飛び出してしまった。


そのせいで、この剣と杖の使い方も何も分かっていなかったっけ……。


「マップ見る限り、モンスターは近くにはいなさそうだし、ちょっと落ち着こう」


そう自分に言い聞かせながら、俺は進行方向を変え歩き出した。


目指すのはいつものあの公園。


――――


俺と姉は公園につきベンチに腰を下ろす。


「懐かしいね」

姉がぼそっと呟いた。


「うん。昔よく遊んだね」


懐かしい記憶が蘇ってくる。


滑り台、ブランコ、鉄棒、砂場。


夏休みはいつもここにきて二人で遊んでいた。


最低限しかないけど……。


何にでも意味を見出せたあの頃。

今よりよっぽど自由に遊んでいた。


あの時の俺たちにとっては、この場所さえあればそれで充分だった。


俺は気持ちを切り替えるように言った。


「とりあえず作戦会議!!!!」


俺は胸の奥に溜まった喪失感と不安を降り払うよう、少し声を張り上げて言った。


「お、おお。急にやる気出すじゃん!

頼むわ!リーダー? いや、私がリーダー!」


姉は急に大きな声を出した俺に驚きながらも、賛同するように拳を上げる。


切り替えろ!!!!俺!


「と、とりあえず、Wで言ってたスライムじゃなかったら逃げるか!

投稿の通りなら、素手の十発で倒せたって話だ。俺らは武器もあるしもう少し早く倒せるはず!!」


「うーん、そうだといいけどね〜

さっきも言ったけど、問題は魔法が使えるかどうか!」 


そう言い魔法の杖をぶんぶんと振りまわす姉。


その顔には不安や恐怖といった感情は見えない。むしろ何か期待に胸を膨らませているような、そんな表情。


「さすがに、魔法の杖って言ってるくらいだから使えるはずだけど……まあ最悪俺が戦うわ」


俺はカッコつけてそんなことを言った。


「いや、無理!はるとに守られるとか死んでも無理!!!!自分の身は自分で守る!!」


そう、だった……。


姉は男勝りなところがあったんだった。


俺より勇敢だし、俺より好奇心旺盛だし、俺より……アホ……だったな、そういえば。


「でも、魔法の呪文なんて分かんないよ〜」


姉はわざと泣きそうな顔を作り、口をへの字に曲げてこちらをみてくる。


「まぁ最悪、拳で?」


姉は拳をかかげニヤリと笑った。


「……でた。いや、魔法の杖持ってるなら、お願いだから魔法で戦ってくれ」


「それな〜」


俺たちは静かな公園で笑い合った。

姉のおかげで緊張が少しだけ和らいだ気がした。


「いやぁ、でも、こういうのテンション上がるな〜」


姉はそう言い、杖をまじまじと見つめながらゆっくりと立ち上がった。


「昔、こういうおもちゃでよく遊んでたよね?魔法少女、あや姫〜♡とか言って」


姉は杖を額の前まで持ち上げ、それっぽく杖を構える。


目はキラキラしていてまるで子供の頃に戻ったみたいだった。


「おもちゃって言っても良く出来ててさ、“いけ!魔法の杖!”とか言って振ったら杖が光ったり……して……」


姉が杖を振ると、杖がふわっと青白く光りキラキラと震えるように光をまとった。


その瞬間――


――バシャッ。


杖の先から水のような何かが飛び出し、前の木の幹を濡らした。


「「え」」


二人は思わず同時に声をあげた。


そして顔を見合わせる。


「つ、使えた……?」


きょとんとした表情の姉。


「お、おお!すげえ!もう一回!」


「任せて〜!いけ!魔法の杖!!!」


姉は意気揚々と杖を構え直しもう一度杖を振り下ろした。



――ヒュンッ


姉の振った杖は宙を切るのみ。


今度は……何も起こらない。


「魔力、使い切ったとか?」


「あ、絶対そうだ!魔力1しかなかったし!」


「回復するまで待つしかないな」


「えー。じゃあ、次ははるとやってみてよ!」


姉は肩を落として小さくため息をつき、静かに杖を下ろした。


「剣でも出るかな?」


「わからんけど、試しに試しに!」


やって……みるか。


俺はゆっくりと剣を鞘から取り出した。


まだ何の汚れもない研ぎ澄まされた剣が、太陽の光に反射してきらめく。


俺は足を前後肩幅に広げ、胸の前まで剣を持ってくる。


正しい剣の構え方はわからないが、とりあえずそれっぽく構えてみた。


そして、俺は腹の底から力強く声を出し、空気を切り裂くようにして上から下に向かって斜めに剣を振り下ろす。



「……いけ!!」


――その瞬間


ブワァァッ。


「え!?」


剣が炎に包まれた。

熱気が手と頬を焼くようにまとわりつく。


「はると、すごいじゃん!」


姉が手を叩きながら小さく跳ねる。


ゆらゆらと揺れる炎に見惚れていると、

数秒も立たずに炎は力を弱めふっと消えた。


炎が消えた瞬間、焦げ付く匂いが周りを漂い鼻の奥に広がった。


「詠唱なしでもいけるのか?」


……驚いた。


まさか、すぐに魔法が使えるとは思わなかった。


「“使う”って意識が大事なのかもね」


姉は納得したように頷きながらそう言った。


「そういう、ことか……?」


拍子抜けするほどあっさり魔法が使えてしまった。


ほんとに……?


「すごい!私たち魔法使いだ!

魔法少女、あや姫誕生♡」


姉の声が高くなりテンションが急に上がる。


「まじか!魔法簡単すぎじゃん!」


俺もそれに釣られ、剣を持って軽やかなステップで踊り出す。


しかし、現実はそう甘くはなかった……。


――


「は、はると?」


目を潤ませた姉がこちらを見つめている。


「この威力じゃ、モンスターなんて倒せないよね?」


「うん……さすがに……」


俺たちはその後も何度か魔法を繰り出してみたが、姉の杖から出る水は地面を少し濡らすだけ。


俺の剣に纏う炎も一瞬で消えてしまう。


「やっぱり、最悪俺の剣でぶっ刺すしかなさそうだな」


マジカルワールドとか言うから、もっと魔法バンバン使えるのかと思ったのに!


とてもじゃないけどモンスターの前で使えるものではなかった。


「ガーーン」  


姉は目を見開き、真っ青な顔で地面に膝から崩れ落ちた。


「魔法少女……あや姫の夢が……」


「ま、まぁ、いずれ使えるようになるって」


俺の慰めは姉の耳には届いていなかった。


「はぁ……」


どうするかな……。


俺は大きくため息を吐き、姉から視線をずらした。


――その時だった。



最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。゜(゜^ェ^゜)゜。

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