11話 #勇者
俺たちはWを開いた。
タイムラインを開いた瞬間――
……え?
Wのタイムラインのおすすめには、一際盛り上がっている投稿があった。
この投稿、数分前なのにすごいいいねの数。
何事?
「……」
俺はその投稿を見た瞬間、言葉を失った。
「姉ちゃん、これ見て!!」
俺はすぐさまその投稿を見せようと、姉の方にスマホの画面を向けた。
しかし、姉は真剣な顔で自分のスマホの画面を見つめている。
「たぶん同じの見てる。“勇者”って人の投稿でしょ?」
こちらを見ずに答える姉。
その目は、Wの“ある投稿”に釘付けとなっていた。
「そう、それ!」
「数分前なのにすごい反応……。いいねの数がどんどん増えてく……」
真剣な横顔の姉がぼそっと呟いた。
姉は、食い入るようにその投稿を追っていた。
――――
勇者(@yu_sya…)
とりあえず雑魚モンスターと戦ったけど武器無しでもいけるぞ、10発くらいでやれた。
質問あるやついる?
(青いスライムの写真つき)
〈返信:3120〉〈リポスト:2.2K〉〈♥2.8K〉
┗ 伊月よる(@sun-sun…):HP1でも攻撃くらったら死ぬ?
┗ 勇者(@yu_sya…):三発は耐えれた。でもそれ以上はやばいなって感じ。
┗ リリィ(@riry_heart…):どうやってHP回復するの?
┗ 勇者(@yu_sya…):知らん
┗ 坂本透(@s_777…):どんな攻撃きた?
┗ 勇者(@yu_sya…):普通にタックル。
┗ ふわふわもるん(@huwa-run…):倒すと何かドロップされた?
┗ 勇者(@yu_sya…):Mポイント1とスライムの飴1個。
┗ みみ(@ro_d…):スライムの飴って?
┗ 勇者(@yu_sya…):知らん
┗ みみ(@ro_d…):食べた?
┗ 勇者(@yu_sya…):怖くて無理
┗ ルイ(furui_tea…):どうやって弱いモンスター見分けたの?
┗ 勇者(@yu_sya…):マップM開くと近くのモンスター表示される。その点が小さいやつ狙った。馬鹿でかい点もあったから、あれは多分やばいやつ。
┗ ミズホ(@mi_zu…):魔法って使える?
┗ 勇者(@yu_sya…):知らん
┗ まりもっこり(@tntn_dekai7…):スライム倒したらステータス上がった?
┗ 勇者(@yu_sya…):上がらんかった。
┗ 魚王子(@uouo-gyogyogyo…):戦ってる時の動画よろ
┗ 勇者(@yu_sya…):お前が戦え
┗ みっちー(@wakare-michi…):がち勇者
┗ ポテト星人(@star_chips…):助かる
┗ ミント(@greenleaf-3…):かっけええ。
┗ 匿名(@no_id…):みんな騙されんな
――――
そんな感じのことが書いてあった。
「すげえ、こういう時、やっぱり先駆者っているんだな。名前の通り、勇者すぎる」
俺の“偽勇者”というユーザー名が恥ずかしく思えてきた。
この投稿には、かなりの反応があり、勇者のフォロワーがどんどんと増えていく。
どこまでが本当かはわからないが、実際のスライムの写真が説得力を増している。
それに食いつくように、勇者にあやかろうとするユーザーたちがどんどん湧き出てくる。
スライムの写真は、少しぶれていて見にくいが、見た目は“リアルスライム”って感じだ。
かわいい感じ……ではなさそうだ。
青色の体にギョロリとした不気味な目がついている。スライムの中心は少し色が濃くなっており、核の役割でも担っているのだろうか?
……?
なんか、スライムの体幹全体が、キラキラしてる気がするんだけど?
……気のせいか?
光の当たり具合によるものなのか、少しだけスライムの体がラメのように煌めいている気がした。
「でも、スライムって、ざ、初討伐モンスターって感じすぎない?」
姉が不思議そうに首を傾げて言った。
「まぁ、そんなもんじゃない?」
まあ、別にスライムがいてもおかしくはない。
俺たちが早々に全滅しないよう、HeyHeyHoHoが操作してるって可能性もあるし。
「じゃあ、夜のあれはなんだったんだろうね」
姉はそう言い、首を傾げる。
「たしかに」
スライムとかの雑魚モンスターがいるなら、夜、外に出た瞬間食われるとかないよな。
夜の間に「スライムいた!」とか投稿してる人がいてもおかしくないだろうし。
「夜はモンスターが活性化するとか?」
姉は腕を組み、考えこむようにそう言った。
「ありえる」
どっちにしろ、夜は外に出ない方が良さそうだ……。
「この投稿を見て外に出る人多そうだね」
「……だね」
なんだか、外に誘導されている気がしてしょうがない。
まあ、でも、あの投稿によれば、
マップMにモンスターが表示されるっぽいし、
そんな心配はしなくても大丈夫か?
「びびってこんなに装備固めなくても良かったかな?」
姉が少し恥ずかしそうに笑った。
「いやいや、装備にやりすぎとかないから。
運良くその雑魚モンスターにあたっただけで、点が大きいやつもあるって言ってたし、
強いモンスターに見つかったら逃げれる確証もないし……」
「た、たしかに」
「しかも、俺らはばあちゃんの分も働かないとだから!」
「そうだった!ばあちゃんに、こんな良い装備買ってもらっちゃったしね!
私たちも、外、行ってみる?」
姉は俺の顔色を窺うように、恐る恐るそう言った。その顔に、不安の色は見えなかった。
「行くしかないな」
早かれ遅かれ、俺たちは外にでなければいけない。
食料はいつかはつきるし、ここにいるだけじゃ何も変わらない。
しかも、他の人たちと違って、
俺らは運良く、初日から装備を固められたんだから……!
生きていくためには――
外に行くしかない。
「じゃあ、早速、外出ちゃう?」
なんだか、姉は外に出ることへの恐怖なんて感じていないようで、むしろ外に出たくてうずうずしているように見えた。
俺と姉は、水分補給と軽食を口にし、装備を整え直す。
「準備オッケー」
俺がそういうと、
「ちょっと待って!!!!」
と姉がバタバタと何かを急いで準備し始めた。
「は?それ持ってくの?」
姉は、大きめなショルダーバッグを首から下げていた。
「その中、何入ってんの?」
「え、まあ、一応水分と、魔導書!」
「魔導書は置いてきなよ!重いし!使い方わかんないし!」
「一応一応!なんかあるかもしれないしね?」
姉はこういうところがある。
何かと、いつも理由をつけて荷物を増やす。
「まあ、姉ちゃんが良いなら良いわ。途中で重たいとか言っても持たないからね?」
俺は呆れて言った。
「別に持ってもらうつもりないし!」
姉は不貞腐れて言う。
「行けんの?」
俺は低めの声で姉に問いかける。
「行ける!!」
元気いっぱいに返事をする姉。
――準備は整った。
「気をつけてね。遠くには行きすぎないように。暗くなる前までには絶対に帰ってきて、約束だよ」
ばあちゃんが心配そうにこちらを見ている。
「ばあちゃんも絶対、外には出るなよ。人が来ても入れちゃダメ。誰も信じられないからね。ほんとに絶対」
「わかったよ〜」
ばあちゃんは、心配そうに目を細めながらも、いつもの優しい笑顔で見送ってくれる。
俺は、玄関の扉の前で少し立ち止まった。
正直、怖い。
何で姉は平気そうなんだ?
そう振る舞ってるだけか?
この扉を開けた瞬間、
もう戻れなくなる気がしていた。
昨日まで当たり前だった日常が、
どんどん、音を立てて崩れていっている。
でも、外に出なければ何も変わらない。
このまま何もせず、家族が危険に晒されたら――。
その時の方が怖い。
何もしなかったことを、きっと一生後悔する。
「よし!」
俺は気合を入れ、姉の顔を見る。
姉は、俺と目が合うと大きく頷いた。
扉のノブを握る手が、かすかに震えていた。
それでも、離さなかった。
ばあちゃんの笑顔を胸に刻みながら、俺たちはゆっくりと扉を開けた――やけに静かな朝の街へ。
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