親友 下
本田さんの腕をつかむ。
「あ、松野!」
「誰この陰キャ」
先輩が冷たい声で言う。
本田さんは、最初こそはびっくりしていたが、今では心配そうな顔を俺に向ける。
「えっと...僕は本田さんの友達です」
「いやいや、お前なんかじゃ、本田さんと釣り合わないから」
くっ、俺自身が気にしてることをよくもずけずけと...
悔しいが、今の自分にはこの言葉に言い返すことはできない。
「...じゃあ、先輩だったら本田さんと釣り合うんですか」
俺は覚悟を持って聞いた。
先輩は、俺を小ばかにしたような目で見て、言った。
「はあ。お前、俺の顔見えねえのか。このかっこいい顔ならどんな女子でも釣り合うんだよ」
俺は絶句した。どこまでも救えない馬鹿だった。
俺があきれて、口をパクパクしていると、隣から声がした。
「...先輩は、確かに顔は整っているかもしれません。でもその下衆な心は、
女の子に見透かされると思いますよ。...はっきり言うと、とっても気持ち悪いです」
この言葉は俺の心には、ぎりぎりで刺さらなかった。さすがにこんな空気で気持ちよくはなれなかった。が、先輩には大ダメージだったようだ。でも本田さんはさらに追撃をいれる。
「あなたみたいなナルシスト、この世にいらないと思います」
先輩の眼は、怒りに満ちている。何をしでかすかわかったもんじゃない。
俺も言ってやりたいことはたくさんあるが、次回に回すとしよう。
ずっとつないでいた本田さんの手を引き、俺は言った。
「本田さん、戻ろう」
すっきりしたような顔で、本田さんはうなずいた。
「おっけー!」
そして、少し歩いたが、本田さんが急に止まった。
「あっ、先輩。松野は私の大切な友達なので、釣り合ってるとかいないとか、部外者の先輩が言わないでください」
その言葉を聞いて、俺の顔は、かっと熱くなった。
「じゃ、行こ松野」
そういって志向が停止した俺は、半ば本田さんに引っ張られるように、教室に戻っていったのだった。
その後、イラスト練習会を放課後に延期することを決めた、俺たちは、いつもと違い、学校の近所のファミレスに入った。
「なあ、ここでいいのか」
俺は心配だった。本田さんは俺との関係がばれることに懸念を抱いていたし、
いつも通りのファミレスに行った方がいいと思ったのだが。
「いいよいいよ、ここの方が松野の家から近いでしょ」
「それはそうだけど...」
「それに、、松野との仲がばれても別にいいかなあって。
だってそうでしょ、私と松野の仲に何か言ってくる人間なんてあの屑、塵、ごみと同等だから」
本田さん、昼の件を相当引きずっているようだ...
俺は本田さんにイラストを教えながら、同時にあの先輩の愚痴を拾ってあげた。
どうやら、あの先輩、いろんな女子にナンパしまくっていて、そっち方面で有名な人らしかった。本田さんに絡んできたのは今日が初めてではなかったらしい。
放送禁止用語を含むような愚痴を聞いた後、俺は聞きたかったことを聞いてみることにした。
「...あのさ、昼のさ...大切な友達ってどういう意味」
途端に本田さんの顔が赤くなる。
「え!いやあ、さ...私はそう思ってたんだけどな...」
悲しそうな声で返してくる。不覚にも、その声もいいと感じてしまったが、
その感情を消して、返す。
「そう思ってるのは俺だけだと思ってたよ...ありがとう、本田さん」
生まれて初めての女友達。いろいろな経験を通して彼女のことをいろいろ知れた。
もうとっくに俺は大切な友達だと思ってたよ。
本田さんは目を見開く。
「そうだね、でもこちらこそ、だよ」
俺たちの間を流れる空気はとても穏やかだった。
「じゃあさ、その”本田さん”って名前やめない?」
俺はドキドキしまくりだった。ここは、やはり勇気を出すべきだろう。
彼女が期待に満ちた目で、俺を見てる...きがする。
「じゃ、じゃあ」
男を見せろ、おれ!!
「本田....」
急に本田が冷たい目で俺を見始めた。そりゃそうだよな、ごめんなさい。
チキンで。次の瞬間、俺の足から快感を感じ、意識を刈り取られた。
最期に聞いたのは、「ヘタレ」という本田の冷たい声だった。