修羅場 上
「うわ、すごい人だなあ」
今日は五月の某日。ゴールデンウィークというものの真っただ中であった。
周りを見ると、やはりというか、人で溢れかえっていた。
世の高校生はゴールデンウィークは恋人や友人と楽しい時間を過ごすらしいが、
あいにく、あるいは当然というか、俺には、友人との予定などはいっていなかった。啓介は、新しいクラスメイトと遊ぶって言ってたし、ゴールデンウイークには本田さんに会う予定は入っていない。
と、いうわけで俺はこの週末を家でだらだら過ごす予定だったが、見かねたブラコンが、まだ早いが来月の兄の誕生日に向けてのプレゼントの下見をするという名目で郊外の大型ショッピングセンターに由香里と二人で出向いていた。
「で、今日は俺の誕プレの下見ってことだったが、なぜお前の服を見ているんだ、由香里」
「え、だってお兄ちゃんが欲しいものなんて、程度が決まってるじゃん。だってお兄ちゃんだよ、そんな考えたって無駄。」
「そんな...」
俺はうなだれた。
が、お約束通り、カウンターが飛んできた。
「だって、、私はお兄ちゃんの、すべてを知ってるからね!」
んぐっぬぬぬぬっっ、
少し頬を赤らめ言った妹。だがそんな顔を見ながら、やっぱりかわいいと思っていた俺であったのだった。
「じゃ、じゃあ、着替えてくるから、、くれぐれも妹の着替えを聞こうとする変態にはなんないでね」
「そんなことしねえよ!」
ということで、更衣室から少し離れたベンチに座る。
やっぱり、やさしいな、由香里は、
ツンデレ気質ではあるが、今回のお出かけも友達との予定がない兄を心配してのことだろう。昔から兄の世話をよく焼いてくれる妹だ。
すると、こちらに向かってくる楽しげな女性の声が聞こえてきた。
ん、なんか聞き覚えのある声のような...気のせいか。
まあこれは俺の気のせいということではなかったのだが。
声の主たちが、角を曲がってきた。
「あっ」
先に気づいたのは彼女たちのほうだった。
「どーしたの、麗奈、ん?なんか、この人どっかで見たことあるような...あっ、松野君か」
俺は顔を上げる。
そこには、驚きの顔をした、やはり清楚感を漂わせる服を着た麗奈と、麗奈ほどではないが長い、金髪の髪の、それでもってピアスも付けたギャル感あふれる女子がいた。
「あっ、えっと白石さん?だっけ」
「ああ、うん、てか何で、婦人服フロアに、一人でいるの、松野君」
思いっきり変態を見る目で白石さんに見られる。
彼女はそう、何を隠そう、俺のクラスメイト、白石愛莉であった。
さらに最悪な追い打ちが、俺には待っていたのであった。
「お兄ちゃん、これどう?...ってこの人たち誰?」
妹様の眼は輝きを失くしたが、その代わり黒い光が宿るのであった。