耳
俺はスマホの画面に目を落とす。
『今日、放課後、イラスト教えてね』
『りょ』
と返信しながら前の席で、スマホを見ている女に目を向けた。
学校では話しかけんなっていう意思表示か。
前の席なのに話しかけてこない本田さんに内心頭を傾げたが、まあいいかと思った俺は、教室の空気になるように一人で弁当を食べ始めた。本田さんは友達と購買にでも行ったのだろうか。席に姿はなくなっていた。
...入学して一週間たったが、結局卓也に話しかけてくる変人は麗奈以外いなかったのだった
放課後、俺たちは学校から少し離れたこないだ話し合った時と同じファミレスで落ち合った。麗奈が右手側に入ったので、卓也は言った。
「じゃあ、左いくわ」
「まって」
その瞬間、俺の腕を冷たい何かがつかむ。
本田さんの細く、白い手だった。
俺の心臓は跳ね上がった。
(ったく、俺のこころよぉぉぉ、頼むから静まり返ってくれぇぇぇ)
こんなところで何かが反応したらしゃれになんない。...ナニがとは言わないが、
「こっちで一緒に座んなきゃ私の絵、指導できないでしょ」
そこまで言うと彼女は俺を見た。その俺の顔はというと....
赤く染まりうつむいて、俺、わけのわからない何かお経のようなものを口にしていた。
そして、その視線は、俺をつかんでる手に投げられた。
その瞬間、彼女は何かを企んでいそうな悪い顔をし始めた。
ニヤッとした顔を浮かべ、俺の耳に顔を近づけると、
「かわいい...」と究極のウィスパーボイスを繰り出した。
(耳もいいっっっ)
とか考え、無事に意識を刈り取られましたとさ。
机の上に紙を広げた彼女が言う。
「じゃあ、教えてもらってもいい?」
「...ああ、わかった」
疲れ切った声を出す。
そして、二人は並んで座って教えあいを、始めた。
「まずは、線の練習からしよっか」
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「まあ、線はうまくなったよ、次は模写の練習かなあ」
さっきまで集中してたからだろうか。心ここにあらず、みたいな感じで、彼女は答えた。
「わかったあ」
俺はひと段落したところで、聞きたいことを聞いてみようと思った。
「あのさ、本田は俺と仲良くされるとこを見られるの、そんないやか?
今日の昼の件もそうだし、わざわざちょっと離れたこのファミレスにしてんのも、そういうことだろ。やっぱ、ボッチ陰キャといるとこ見られたくないか?」
これは俺が前々から思っていた疑問だ。でも大体答えの見当はつくが....
まあこんな奴と一緒なの見られんの恥ずいだろうけどと俺は思っていた。
彼女ははっとした表情を浮かべ、急に暗い顔をしだした。
「それはね、全部私のせいだよ...」
彼女によると話はこうだった。
彼女は中学校に親友がいたらしく、そしてその親友が好きだった人はA先輩という人だったらしい。まあそのひと、実際は彼女が好きで、彼女に近づくために、親友に近づいていたそうだ。そしてAは告白本田さんに告白。彼女は断ったが、親友とは連絡をとっていないらしい。それで、彼女は、悪いのは全部Aだと判断し、男を全員シャットアウト。今に至る。
自己紹介で男連中にあんな態度をとり、あんな挨拶をしたのもこれが原因だったんだなぁ。
「お前もつらいこと経験してんだな....」
正直陽キャに悩みなどないと思っていたのだが、、、
そうすると一つの疑問が出てきた。
「じゃあ、なんで俺と仲良くしてくれるんだ?」
本田さんが俺を見た。
「そんなの決まってんじゃん」
そういってまたもや顔を近づけ言う。
「特別だからだよ」
今日はやけに素直な彼女に、俺は、昇天。
見事に一日の最多死亡記録を更新したのだった。