約束(脅迫ともいう)
「おい、なんか目の隈すごくないか、卓也」
学校への登校中に俺1時半の親友、斎藤啓介が言う。
「ああ、まあちょっと考え事してたんだよね」
まあ、考え事をしていたのは本当だが、内容が、ね。
親友でも言えないことはあるのだ。
校門を通り、靴を履き替え、啓介と別れる。
正直、昨日の今日で、あの女に会うのは超絶気まずい。
どんな目をされるのか、想像するだけで、ゾクゾク........最悪の気分だった。
教室のドアに手をかけた。
「よしっ」
開けた。そしたら、一本のツンドラのように冷たい視線が俺にぶっ刺さった。
(いいっ)
不覚にもそんなことを思ってしまったが、何とか表情を保つことができた。
一歩歩くと視線の圧はなくなったが、ただならないオーラが俺の席から、....いや、正確にはその一個前からしたのだった。
それを醸し出している張本人は、周りの女子と話していたが。
俺は、周りの女子やそれらを見ている男どもを見たが、彼らはあの威圧を感じとってはいなさそうだった。
俺の考えすぎなのか。ちょっと安心。
俺は席に着いた。そんなことはなかった。
予鈴が鳴ったため、クラスメイトが座り始めた。
「ねえ、ちょっと話があるの、松野君」
冷たい笑顔をきれいな顔に浮かべ、本田さんはいった。
「えっと本田さんなんの用」
「ねぇ、ちょっと話があるの」
ねぇ、botですか、そういうのもいいっすね。
俺はまたしても何かを感じそうだったが、我慢した。こんなとこで死んだらひとたまりもない。
「あ、はい」
「よかったあ、じゃあ昼休みに図書室にきてね?」
「.....」
昼休みになって女子たちのご飯への誘いを断って教室を出て行った本田さんを見て、
俺は覚悟を決めた。
図書室へ向かう道で俺は、
どんな罵声を聞けるのかなあ
と半分、現実逃避、....もう半分は本音でそんなことを考えていた。
だがそんなことをしても、図書室にはついてしまう。
心を無にして、図書室に入ると、一番奥にポツンと座る本田さんが見えた。
他には誰もいなかった。妙に静かな図書室に居心地の悪さを感じながら、
俺は本田さんの座っている向かい側の椅子に腰かける。
『......』
きっっっまずい....
春の日差しが図書室を照らしているが、二人の間を流れる空気は、、、、、地獄。
「っあの、昨日は足踏んだりして、ごめんね...」
なんか思っていたのと違った。正直俺は、ぶちぎれられて他界する予定だったため、この言葉には意表を突かれた。
「えっと、昨日は俺が悪かったからしょうがないよ、」
昨日の本田さんの絵を思い出して、また思い出し笑いしそうになったがぎりぎりでこらえた。
さすがにそこまで空気を読めないわけではない。.....まあ空気を読めないのは事実だが、
「それでね、あのね、、」
本田さんはなんか恥ずかしそうに言う。
「ん?どうしたの?」
「お願いがあるんだ。......私にイラストの描き方教えてくれない?」
そういってうつむき、顔を赤らめながらながら、しかし真っすぐと俺を見つめた。
「ああ、わかった.....ってえええええええええええええ!」
驚きに満ちた声を出す。
「えっと、今なんて?」
「だあかあらあ、っもう、あと一回しか言わないよ?、、私にイラストを教えてください!」
やっぱり顔を赤くして本田さんは答える。
でも俺は何か裏があるのでは?とか思い始めていた。
(こんな美少女が俺なんかに教えを乞うなんて何かあるに違いない。
やっぱり昨日の絵の口封じか?まああれは傑作だったけど)
「なんで、よりによって俺なの?」
「だって、絵がめっちゃ上手じゃん。私ね、絵を描くのは好きなんだけど、実力についてはお察しの通りで....やっぱりだめかな....」
こんな美少女にお願いされたら、流石の俺でも断れなかった。
「わ、わかったよ、こんなやつでいいならだけど、、、」
本田さんは初めて笑った。
「うん、これからよろしくね!松野君!」
その言葉に、俺の心臓は跳ね上がってしまった。
(くそぉ、昨日から本田さんやられっぱなしだなあ)
「じゃあ、教室もどるね」
「あ、はい」
今の俺には感情の整理が追い付かなかったため、なんとか返せたのがそれだった。
出口に向かう本田さんを呆然と見ていた。すると突然、本田さんが振り返り、小走りで戻ってきた。
「どうしたの?」
顔を上げた彼女は獲物を捕らえたときのように笑い、言った。
「line、交換しよ!」
その笑みと、人生初の家族以外の異性とのline交換に、俺は殺された。