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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トロッコ問題のその後で

作者: 強敵

腕と足、主に足首に冷たいものが当たった感じがする。俺はそこで目が覚めた。昨日は自分の家のベッドで寝ていたはずだが目を開けると上には青空が広がっていた。心地よい風が吹き、息を吸うと心地よい空気が感じられた。とりあえず、体を起こそうとした。だが体が動かない。まずい、こわい。得体のしれない不安が押し寄せてきたが、空気がいいからなのか景色がいいからなのか、すぐに落ち着きを取り戻せた。とりあえず現状を知ろう。首を動かし、辺りを見渡してみる。可動域の限界まで首を動かしてみると、自分の周りには山が広がっていることが分かった。そして俺自身は線路の上に仰向けになっていて、腕と足が線路に紐か何かで括りつけられていた。このせいで動くことができなかったのか。辺りを見渡していると頭上から悲鳴が聞こえた。

「え、なにこれ!」

その声は聞き覚えのある声だった。俺と高校生の時から5年間付き合っている彼女である、まゆりの声だった。無理やり首を曲げ、腰をそらして声のした方を向いてみる。そこには自分と同じような形で5人の人間が線路の上に並べられていた。体の下の方しか見えないが全員が見たことのある体をしている。俺の両親と母方の祖父母、そして藻掻いているまゆりだ。

「まゆり!落ち着け!」

「京真?もしかして京真なの?!これなに。これどうゆうこと?!」

「まゆり、大丈夫だ。一旦落ち着いて。」

まゆりが俺の名前を叫んでいる。俺自身、状況の理解も整理もできていないが一旦、まゆりを落ち着かせることにした。

「うん、ちょっと落ち着いた。それで、これは何?」

「俺にもわからない、そっちから見えるかわからないけど俺も線路に繋がれている。」

「京真も?だいじょうぶ?」

「ああ大丈夫。今は動けないこと以外は問題ない。」

まゆりが俺の心配ができるほど落ち着いたのでとりあえず何かできないかそれぞれ探ることにした。腕をよく見てみると、結束バンドのような固いもので線路と腕を繋がれていることが分かった。頭を寄せたり指を近づけたりしたがその結束バンドを触ることができなかった。両親と祖父母も起こそうとしたがパニックになると危険かもしれないので起こさないことにした。というかこの状態で起きないのは逆に才能がある。


そうして、いろいろ探って5分ほどたったとき、遠くから足音が聞こえた。足音のほうを見たら男性が立っていた。大学生ぐらいだろうか、細身で弱弱しいイメージがある。よく見ると彼の足元にレバーのようなものがあり、さらに下の方を見ると俺の下にある線路とまゆりたちの線路が1本につながっていた。その状況を見てわかったことがある。これはトロッコ問題か?なぜこの状況になっているのか、なぜ俺が選ばれたのかわからないことは多い。

だが、これが有名なトロッコ問題を模しているということが分かった。おそらく、この後すぐに向こうから電車が来るだろう。

「おい、助けてくれ!」

俺は転轍機の横に立つ男性に助けを求めた。一度こちらを見たが返事はない。

「なあ!おい!」

俺は必死に呼びかけるが男性は反応しない。これはトロッコ問題を模しているはずだ。だから転轍機を動かすことのできる彼には義務論や功利主義的な考えが備わっているはず。そしてこれはトロッコ問題を模しているだけであって本当のトロッコ問題ではない。つまり彼が私を助け、転轍機を倒せばだれも死ぬことはないはずだ。しかし、彼は私の声に反応してくれない。何度も呼びかけているうちに線路が振動しだした。電車がこちらに向かってきている。すぐにでもここに来るだろう。

「君!レバーを倒せ!早く!」

もう線路から離れることはできない。だったら自分が轢かれて5人を助けようと思った。

「レバーを倒せ!時間がない!早く倒せ!倒せ倒せ倒せ!」

何度も倒せと叫んだが男性は聞く耳を持たない。叫んでいるうちに電車がまゆりたちの上を通過した。肉がつぶれた音がした。顔に血が飛び散ってきた。俺は怖くて5人がいた場所を見ることができず、最後まで転轍機の横に立つ男性を見つめていた。彼は電車が通過するとき笑っていた。そして少し時間がたった後、黒い服を着た数人が唖然としている俺の前にやってきて俺を眠らせた。

次に起きた時は自分のベッドの上だった。大学に入ってから暮らし始めたアパートの何度も見た白い天井。時計を見てみると昼の2時、長いこと寝たせいか頭が痛く気持ち悪い。変な夢を見たせいだろうか。俺が線路に括りつけられて、まゆりと両親と祖父母が電車に轢かれる夢。夢にしてはかなりリアリティがあった。自然の空気、線路の感触、額についた血。そうやって想起していると夢の出来事が鮮明に浮かんでくる。俺は気持ち悪くてすぐにトイレへ駆け込み嘔吐した。あれは夢だ。あれは夢だ。夢だと思わなければ正気を保てない気がする。だが、あの時の感覚は鮮明に覚えている。あれは夢にしてはリアルすぎる。また思い出し嘔吐した。

 長いことトイレの中でうずくまっていると携帯電話が鳴った。足取りがおぼつかないまま携帯電話をとりに行った。出てみると相手は警察だった。普通なら警察から電話がかかってきたら自分が何かしたのかと不安になるが今回はそんな余裕がなかった。力のない返事をしながら警察の話を聞いていると、驚くことを言われた。両親と母方の祖父母が車に乗って父が運転している時、外出中にまゆりを轢き、その後その車のガソリンが引火、後続の車もその事故現場に突進して逃げられず5人とも焼けて死んだらしい。あれは夢じゃなかった。おそらくこの事故はあの夢の後処理だろう。父はいつも安全運転を心がけていたし、事故現場に偶然まゆりがいたこともおかしい。ほかにもおかしいところが多い。後続車が突進ってなんだよ。普通、前の車が事故になったら止まるだろ。

「はあああ。」

生きる気にもなれない。昨日はまゆりと会ったばかりだし、この前は実家に帰って両親と祖父母と会った。昨日までは幸せだったはずなのにどうしてこうなってしまったのだ。とりあえず警察に遺体を安置しているから来てほしいと言われたのでそこまで行くことにした。警察に両親と祖父母の遺体を引き渡してもらった後、近くに住んでいる叔母に連絡した。父方の祖父母は他界していて、交流のある親族は今となっては叔母だけになってしまった。少し経って叔母が来た。

「あんた大丈夫?ひどい顔だよ。後のことはあたしに任せときな。家に帰って休みなね。」

「ありがとうございます。」

声に出せたかわからないが叔母に感謝した後、俺は立ち上がり歩いて行った。

「ちゃんと寝なね!」

後ろで叔母の空元気な大きな声が響いていた。

アパートに帰っている途中、いつの間にか辺りが暗くなってきていることに気が付いた。それと同時におなかが空いてきた。近くにスーパーがあったのでそこで夕飯を買うことにした。何を食べようか、料理はできないから弁当か総菜を選ぶことになる。そんなことを考えているうちにいつの間にかスーパーの中にある鮭のコーナーに来ていた。そういえば母さんは鮭のムニエルが好きと言っていた。家にいた時はよく食べさせられていた。父さんは母さんの作った味噌汁が好きと言っていた。ご飯の時に味噌汁が出た時は毎回も「うまい、うまいな。」とつぶやいていたのを覚えている。毎回言うので一度だけ母さんに「うるさい」と怒られていた。まゆりは唐揚げが好きと言っていたな。俺はまゆりを喜ばせようと一度、唐揚げを作ったが失敗して食感が気持ち悪いものができてしまった。それでもまゆりは「おいしいよ。京真が私のために作ってくれただけでうれしい」と言ってくれた。あのときの笑顔は忘れられない。まゆりと両親のことを考えていると涙が出てきた。

前がぼやけてきて体が熱を帯びてきた。歩けなくなりその場でうずくまって泣いてしまった。

「すんません。大丈夫っすか。」

そのままうずくまっていると店員に声をかけられた。

「立ってもらってもいいっすか。」

「ああ。すまない。」

力の入らない足で立ち上がる。

「ここでじっとしないでほしいって言って来いって店長に言われたんすよね。すんません。」

「薄情だな。」

「自分バイトなんで。でも辛いことがあったらきっといいことがありますよ。」

余裕がないのか薄情だなんて言ってしまった。彼らの言っていることはもっともだ。俺はすぐに移動し会計を済ませた。スーパーから帰るとき宝くじ売り場が目に入った。この時期になると祖父が1セットだけ買って結果を楽しみにしていた。300円が当たっただけでも喜んでいたし、3000円以上が当たった日にはずっと笑顔が絶えなかった。そんな祖父を思い出し俺も宝くじを1セット買ってみることにした。

 アパートに帰ると俺は早速、料理を始めた。まずは鮭のムニエル。作るのは初めてだ。ネットでレシピを調べ、それの通りに作っていく。唐揚げ、味噌汁も同時に作っていく。料理初心者が3食も同時に作ると失敗するかもしれないと思ったが案外うまくできた。一度できたものを机の上に並べてみる。栄養バランスは悪いが見た目はそれなりにきれいにできた。まず唐揚げを食べてみる。この前作った時より多少マシになっているがおいしいとは言い切れない。鮭のムニエルを食べてみる。作るのは難しかったがそれなりにうまくできた。見た目は問題ない。だが食べてみるとそこまでおいしくはなかった。まずくはないが母さんの作ってくれたムニエルより圧倒的に違った。この調子だと味噌汁もだめだと思ったが案外おいしかった。実家の味噌汁とは全く違うがこの中だと一番おいしかった。お腹がいっぱいになり、残った唐揚げを冷蔵庫に入れ、食器を流しにおいて水に浸ける。一通り片づけた後、椅子に座り壁を眺めていた。長いこと呆けていると眠気が襲ってきて、いつの間にか寝てしまった。

 目が覚めた時、不安を感じて勢いよく起きると寝る前と同じ光景が広がっていた。また線路の上ということはなく安心した。体を起こし水道水をコップに入れ、それを一気に飲む。水道水が寝起きの体に染み渡る。

「ぷはーっ」

飲み切った後、思わず声が出てしまった。寝たからだろうか昨日より気分が軽い。一息ついていると玄関の方から音がした。ポストに何か入れられた音だ。昨日のことについてだろうか。ポストを使う機会はほとんどないのでそれぐらいしか見当がつかない。ポストを開けると中には1枚のハガキぐらいの大きさの紙が入っていた。その紙を取って見てみると、紙の中央に『復讐したくないか?』と書かれていて右下にトロッコ問題と書かれていた。トロッコ問題という文字に見覚えはないがその言葉から考えられることは一つしかない。詳しく知るために紙の裏を見ると住所とビルの名前と日時が書いてあった。場所はアパートから歩いて30分程度の場所で日時は今日の15時からだ。今は朝の9時。それまでだいぶ時間がある。だが問題はこの場所に行くかどうかだ。あんなことをする連中だ、素直に行って無事で済むわけがない。ただ、このまま生きても俺には何もない。だから試しに行ってみるのもありかもしれない。そう思い、時間まで待つことにした。ネットを見ながら昨日の残りの唐揚げを食べて時間をつぶしていると14時になっていた。念のため早めに出ようと思い、唐揚げの皿を片付けて俺は家を出た。

『復讐したくないか』、紙に書かれた文字を見る。単純に考えたらあの時に転轍機の横に立っていた男性に復讐したくないかということだと思うが、わざわざトロッコ問題と書いているのだから間違いないだろう。この紙の場所に行けばトロッコ問題について何かわかるのだろうか。俺に手紙が来たということはおそらく常習的にトロッコ問題をしているのだろう。そう考えると許せない。こんなひどいことをしているなんて、だが俺に何ができるだろうか。俺は何の力もない一般大学生、そして相手はあんな大掛かりなことができる正体不明の団体。俺にできることなんて全くないだろう。そんなことを考えていると目的地に着いた。

外観はきれいだが中に入ってみると殺風景で気味が悪かった。ビルの奥の方に歩いていくと大柄な男性がドアの前で立っていた。

「鈴村京真だな?」

「はい。」

俺の名前を呼ばれて返事をするとその男性はドアを開け俺を部屋の中に入れた。部屋にはソファが2つ向かい合っていて向こう側に偉そうな男性が座っていて、その後ろに2人の強面な男性が立っていた。

「ここに来たということは了承したということだね?」

「ああ。だが、わからないことが多い。少し質問してもいいか?」

了承したというのは復讐することについてだろう。だが現状情報が少なすぎる。今後のためにも情報を引き出すべきだろう。

「ああ、いいよ、少しだけね。」

「復讐相手ってのは誰なんだ。」

「そりゃあもちろんこの前のレバーの横に立っていた男だよ。」

「トロッコ問題の?」

「そりゃあ、もちろん。」

「じゃあそのトロッコ問題ってのはなんだ。」

「ただの行事だよ。」

「何のためにやっているんだ。」

「それは言えない。」

「ボスは誰だ。」

「それも言えない。もう終わりね。」

「ああ。」

深追いしすぎると危険かもしれないので今は引いておくことにした。

「じゃあ準備するからじっとしてね」

男がそう言った後ろにいた男が俺を麻酔で眠らせた。

次に目を覚ました時には青空が広がっていた。今回は動けないことはなく、立ち上がることができた。周りを見渡すと見たことのある景色が広がっていた。俺が線路の上にいた時と同じ景色だ。あたりを見渡していると線路があり、それが2つに分かれているところがあった。とりあえずそこまで歩くことにした。歩いているときにズボンのポケットに何か入っている気がした。ポケットから出してみるとそれはハサミだった。俺はそのハサミを持ちながら線路の分かれ道に到着した。そこにはやはり人間が並べられていた。片方に5人いて転轍機を倒した方向に1人いる。俺が1人だけのほうを見た時そいつと目が合った。見たことのある顔だ。あの時、転轍機の横に立っていた男だ。間違いない。

「おい!助けてくれ!」

その男が俺に呼びかけてきた。俺は許せなかった。俺が助けを求めたときは無視をしたくせに自分が危ない状況の今は図々しくも助けを頼んできた。彼が助けを求めている中で俺は無視をし続けた。ポケットに入っていたハサミで助けることができるはずだが、それは自分が許さなかった。俺は無言で転轍機を倒した。

「は、おい。倒したのか。なんでだよ!」

男が喚いている。どうやら彼は俺が誰だか分かっていないようだ。自分のしたことを自覚していないことを知ってまた怒りが込み上げてきた。

「おい!なんでだよ!俺はそっち側のはずだろ!くそ!」

俺は泣きわめく男を見ながら仁王立ちをする。そのまま立っていると電車がやってきた。電車は男の線路の方にいき、男を轢いた。肉片が飛び散り、気持ちが悪い光景が広がった。だがそこまで不快感はなかった。逆に復讐ができて爽快感があったかというとそういうわけでもなかった。その光景を見ているとき俺は何も感じなかった。そのまま立っていると前にも見たことがある黒い服の男たちが来て俺を眠らせた。

 起きたら殺風景なビルの中のソファの上にいた。俺は起き上がりアパートに帰ることにした。俺のしたことは良いことだったのだろうか。まゆりたちを見殺しにした男を殺して復讐することはできた。だけど心が晴れない、その上、前よりも息苦しい気がする。生きることが苦しい。やはり諸悪の根源を絶たなければならないのだろうか。あの組織をつぶすまで心が晴れないのだろうか。だが俺には力がないどうにもできない。俺はアパートに着くとすぐにベッドに寝転がった。そんなとき、宝くじを買ったことを思い出した。もう結果が出ているはずだ。期待はできないが結果だけ見てみよう。期待はしていなかった。しかし番号を見てみると1等の番号と一致していた。恐る恐る、組の番号も見てみるとそれも一致していた。二度三度確認する。同じ数字だ。当たった。まさか宝くじが当たるとは思わなかった。セットで買ったから1等の前後賞も自動で手に入ったことになる。全部合わせたら10億にもなる。この金があれば、あの組織をつぶせるんじゃないか。いやこれだけじゃ足らないかもしれない、それに一人じゃ何もできない。資金を増やし、信頼できる仲間を作ろう。そしていつかあの組織を壊滅させよう。そう心に決め、宝くじを換金しに行った。

 1週間後、口座に10億が振り込まれた。さて、この金をどうしようか。金を増やすには投資か会社を作るか会社を買うかするべきだろうか。資産を増やしながら信頼できる仲間も作らなければならない。自分には会社を経営した経験もないし投資をするノウハウもない。だから経験を積むためにも一から会社を作ろう。そう思い、大学、高校、今まで出会った中で信頼できる人に声をかけていった。その仲間たちの協力によって少しずつ会社を大きくしていった。

会社を作ってから半年たったときのこと。俺は近くのスーパーに買い物に来ていた。10億も当たったがそれは全部会社のために使い、住んでいるアパートも食べるものも前とは変わらない。強いて言うなら食べる量が少し多くなった程度だろうか。このスーパーは俺が泣いているときにバイトの人に注意されたスーパーだ。あの時からよく利用している。度々あのバイトにも会うときがありその時は軽く話すようにもなった。スーパーを1周して買い物を終わらせた。今回はあのバイトに会うことはなかった。少し悲しいなと帰路に着こうとスーパーを出たら人が道路の端で座り込んでいるのが見えた。よく見るとあのバイトだったので俺は気になり声をかけた。

「どうしたんだ?」

「あ、いやー。スーパー辞めたんす。というか辞めさせられたんすよ」

「そうなのか」

「いやー困りました。時給よかったんで母親の負担減らせてたんすけどね。あ、俺片親なんす。」

「そうだったのか。」

俺はなんて言えばいいのかわからず彼の話をそのまま聞いていた。

「ミスはなかったんですけどね。店長に嫌われてるっぽくてだんだんと居づらくなって辞めたんす。」

「そうか。大変だな。」

気の利いた言葉が出てこない。

「まあ、バイトなんで。」

「だったら、うちの会社で働かないか?」

彼と話すのはとても楽しい。このスーパーに通っているのだってほとんど彼に会うためだ。そんな彼に俺も何かしたくなった。

「お兄さん経営者なんすか?」

「ああ、最近なった。」

「あ、でも正社員は嫌っすよ。高校があるんで、バイトならできるっす。」

「わかった。バイトで雇おう。」

「自分、柴田光輝っす。」

「俺は鈴村京真だ。よろしくな。」

俺は光輝と握手をした。そこから光輝は俺の会社に来るようになり、主に雑用をこなしている。1ヶ月も経たないうちに会社にいる全員と打ち解けた。俺の会社は光輝も加わり、どんどん成長していった。売り上げを伸ばし、新しい社員を雇い、他の会社を買収したりして3年ほどで驚くほど成長した。そんな頃には新しい仲間ができ、毎日が楽しくなり復讐なんか忘れていた。そんな時だった。買収した会社に悪い噂があることを聞いた。その会社について調べていくと過去に人を殺すようなことをしていたらしい。もっと調べていくとそれはトロッコ問題を行っていたらしい。これはあくまで噂でしかない。だが、トロッコ問題。忘れかけていた言葉が出てきた。これは俺に復讐をしろということだろうか。とりあえず噂が本当か仲間たちと調べることにした。そうして調べていくと噂が本当だということが分かった。それと同時にトロッコ問題の指示役である人たちも判明した。その中には過去に殺風景なビルで会った男もいた。俺は確信した。こいつらが諸悪の根源だと。このまま警察に突き出してもいい。だが、それじゃ駄目だ。死んでいった人たちが報われない。今、奴らは俺の傘下にいる。奴らを奴らがしたように復讐することができる。

 すぐに俺たちは動き出した。意外にも簡単に奴らを捕まえることができた。捕まえるのに手こずると思っていたが、今の俺は思ったよりすごいのかもしれない。指示役の4人を縛り座らせる。俺は奴らのうちの一人の前に行き質問した。

「何であんなことしたんだ。」

俺がそう聞くと奴らのうちの一人はすんなり吐き出した。

「あれで権力者相手に賭けをしてたんだ。それで大金を得ていた。権力者たちのツテで後処理も簡単だったよ。でも隠れ蓑にしてた会社が危うくなっちゃってねあんたらに買収されたんだ。」

「トロッコ問題であった必要は?」

「意味はねえよ。ただ、あれは結構有名だろ?やられる側もすぐ状況がわかって面白いじゃないか。」

くだらない答えを聞かされ錆びていた怒りがまた込み上げてきた。だが崇高な考えだったら許せていたのだろうか。

「そうか。どうやってトロッコ問題をしていたか教えろ。」

そう聞くとやつは簡単に答えた。俺は聞いた方法で奴らを眠らせ、あの時の場所に運んだ。トロッコ問題を準備していた下っ端たちを俺が買収し彼らに運ばせた。指示役の一人を残し、他は線路に括り付けさせた。残った一人を起こし俺は言った。

「レバーを倒さなければ奴らは死ぬ。だがレバーを倒せばお前を殺す。」

俺はそいつの後ろに立ち、俺の後ろには実行役の黒服がいる。残ったやつを転轍機の前に立たせた後、俺は電車を走らせるよう指示を送った。

「電車を走らせた。もうすぐ来る。よく考えろ。」

残った一人は転轍機を倒さず立っている。すぐに電車が来て奴らを轢いた。だが、奴らが轢かれる姿を見ても俺は何も感じなかった。だめだ。奴らを消しても世界には悪が蔓延っている。悪を消さなければ俺の気持ちは解消されない。俺は悪が許せない。そこから俺は犯罪者を集めて電車で轢いていった。残った指示役の人脈やノウハウを使って、うまく悪を消していく。最初はトロッコ問題に似せていたが途中からただ電車で引くだけになっていった。殺人犯、強盗犯、暴力犯、痴漢、罪が重い軽いにかかわらず犯罪者は殺す。

 俺が表の業務をしている時のことだった。バイトの光輝が話しかけてきた。

「京真さん、最近悪い噂聞くんすけど大丈夫すか?顔色も悪いっすよ。」

「ああ、社会貢献で忙しいんだよ。お前もやるか?かなりの給料やるよ。」

「まじっすか。いくらくらいなんすか?」

「時給5万くらいかな」

「すげー!やります!でもなんでそんなに高いんすか。」

「社会貢献だからだよ。」

「なるほどっす!」

それから光輝には人間の運搬や死体処理をしてもらった。光輝が最初の業務が終わったとき俺に声をかけてきた。

「京真さん。これ大丈夫なやつなんすか。死体とかじゃないんすか。」

「深く入ってくるな。バイトだろ。」

「そうっすね。」

これが終わってから光輝は俺の前から居なくなった。会社にも来なくなったが基本、雑用しかやっていなかったから大して影響はない。少し活気がなくなっただけだろうか。

 光輝がいなくなってから一週間経った。表の業務も裏の業務も滞りなく進んでいる。しかし、何か足りない。いつも光輝のおかげで活気のあったオフィスもなんだかどんよりしている。ここまで成長できたのも光輝のおかげだったのかもしれない。そんなことを思いながら仕事をしているとオフィスの入り口が騒がしくなってきた。なんだ?と思ったら警察がなだれ込んできた。その中には光輝の姿もあった。警察は令状を見せつけ俺を逮捕すると言ってきた。警察は俺を取り押さえる。

「光輝!おまえか!」

俺は光輝に向かって叫んだ。

「そうっす。」

「裏切ったな!」

「バイトなんで。」

「お前も捕まる事になる。お前の母親も悲しむぞ。」

「母に自慢できないことはしたくないっす。大事な母親なんで。でも大丈夫っすよ。一緒に罪を償いましょう。」

光輝に罪を償おうと言われ俺は気がついた。俺はどこから間違っていたのだろうか。まゆりたちの復讐をしたときからおかしくなっていった気がする。そこから奴らを殺して歯止めが効かなくなっていった。俺は殺しすぎた。こんなことをしても気持ちが晴れるはずがないのに。今になって自分のしたことを自覚できた。

「なあ、こんな俺でもこれから生きていいのかな。」

「京真さんは自分の恩人なんで大丈夫っす。一生ついていきます。」

「なんで、そこまで。」

「バイトっすから。」

光輝の言葉を聞いたあと俺は連れていかれた。俺は警察の聴衆に正直に答えた。警察が知らないことまですべて話した。俺は死刑だろうと覚悟を決めていた。だが裁判の判決では無期懲役を言い渡された。俺の経済的な影響力と民衆の訴えによるものらしい。どうやら俺のしたことは知らぬ間に誰かのためになっていたらしい。俺のしてきたことはなかったことにはできないけどこれからは復讐なんて考えず誰かのために生きてみよう。俺のことを思ってくれてるバイトもいるからな。


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