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ここか!
「いやいや、わたくしも怖い話をいくつもきいて生きてまいりましたが、寒気がするようなこんなおはなしは、ついぞきいたことがございません」
ほほえむようにダイキチがヒコイチのほうを振り返った。
いやいやそんなことねえでしょう、と言う代わりにわらってみせた。
ところがダイキチは笑い顔を消して、ヒコイチのむこうをみている。
ふりかってみると、なにやら近づいてくる音があった。
ざざざっ ざっ ぱき ざざっ
誰かが走るようにやってくる。
この立派なクスノキの近くにだけ、葉を落とさない低い木々がしげっているが、その茂みから、いきなり色の黒い男がとびだしてきた。
「 ここかあっ!! 」
さけんだ男は両手に鎌をにぎっている。
ヒコイチはとっさにその男にとびついた。 ―― つもりだったのに、男はするりとよけて、ダイキチへむかった。
「 に、 にげろっ! 」
いいつけをやぶってさけんでしまったとき、ダイキチのそばに立っていた男が脇差しをぬき、うえにかまえた。