バケモノ退治
「 そんな兄をおれもさがしにこの山へいく度もはいったのだがな、おれのことを避けているのか、出会えなかった。 だが、ふもとの村人や樵の前にはあらわれて鎌をふりまわしつづけるので、 ―― 『バケモノ』だということにして、鉄砲で退治された」
「 な、なんと、・・・いや、そんなことが許されましょうか?」
「だからな、ゆるされるために、―― あの社をつくったのだ。 まずはむこうのお山にいる坊主にバケモノを鎮めてほしいとみんなで頼む。祈祷をしてもらうと、あれはこの山の中へ戦からのがれてきて死んだ兵が、大カマキリと結びつき《悪霊》となったものだと知れたので、『社』をつくり、祀って鎮めようとしたのに、《悪霊》はそれに怒って、山道を通るものたちを殺しはじめた。だから退治するしかない、 という、 ―― はなしに仕立てた」
「『仕立てた』?」
「 父が、このあたりの里長たちとはなしをすすめてな。 お山から破門された坊主にそれらしい書状をつくらせて役人にみせ、山の中、鉄砲で退治するのは『大カマキリのバケモノ』だということにしたのだ。 ここの山道で、『賊』ではなく『バケモノ』に人が襲われていることも役人の耳にはいっていたから、鉄砲で殺すゆるしもでた」
「そんな、まさかそれで、退治されたのが、その、あなたの・・・」