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蓑の中


「ありがたいのはこちらのほうでございます。こんな暗い道でこの大雨。心細くなってまいっておったところでございまして」

 ダイキチは、てぬぐいを首にまく。

 

「たしかに、ここの道は暗い。ご隠居さまは、おひとりで山越えなさるか?」



 おひとり?


 ヒコイチはくちをまげて、うなりごえももらさぬように息をとめた。



 あらためて笠をかぶる男をみる。

 雨にぬれたみのの中には、着古した質素な着物と、雨にぬれた刀の黒いつかがみえた。



  ワキザシだ・・・


 それは、ヒコイチのじいさんが隠し持っていた刀のうちの、みじかいほうと同じほどの長さで、黒いさやはところどころがげかけている。



 そんなものをむきだしで腰にさげ、なんでこんな山道を歩いている?



 ヒコイチはダイキチの腕をつかもうとしたが、ダイキチは合羽の雨をはらうまねで、それをよけた。




 どういうことだ?この男、幽霊だっていうのか?



 このダイキチは、死んだ者が見えたり、ふしぎなものを引き寄せたりする年寄で、いままでもヒコイチは、そこへ巻き込まれていたりする。



 ダイキチの手が、まだヒコイチを追いはらうように動いていたが、それをみなかったことにして、ワキザシを腰にさす男のほうをみた。

 男も、なんだかこちらを見ているようなきがしたので、ヒコイチはにらみかえした。すると、指の先をむけられた。

「あそこに、 ―― たしか、大きなクスノキがある。枝が横に大きく張っているから雨もしのぎやすい」言うなり男はヒコイチの前をとおりすぎ、数歩いったところでダイキチをふりかえった。

「歩きにくければ、おれが背負うてゆくが」


「いえいえ、こうみえても足だけは達者でございます」

 荷物を担ぎなおすふりで、ヒコイチにうなずいてみせる。



 たしかに、いまは足元で砂利じゃりまじりの泥がはねかえるほど雨のいきおいはひどく、山道のわきにはすでに、細い川のようになって水が流れ始めている。



 ゴロゴロゴロ

 山を覆うように低い音が響く。



 いそぐように歩く男のあとを、ダイキチといっしょにヒコイチも追った。









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