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笠に蓑(みの)
このあたりは杉や松が競うように上へ上へとのびていて、ただでさえ薄暗い道はいよいよ暗い。
その曲がったほそい山道を、むこうからやってくる藁色の細いかたまりがみえた。
いや、蓑だ。
笠をかぶり蓑をはおった男が、むこうからしっかりとした足取りでやってくる。
「 ヒコイチさん、―― なにもしゃべらないでください」
ダイキチがヒコイチを見ないまま、ふところの手ぬぐいをだしながら低い声で命じる。
返事をしそうになったヒコイチはあわててうなずいた。
「 ―― こんな降りになってしまって、参りましたなあ 」
ダイキチが大きな声で、男が近づく前に声をかけた。
笠をひきあげた男が、ようやくダイキチに気づいたように足をとめから、いやほんとうに、と寄ってきた。
「 ―― こんな山の中でひとり雨をしのぐのも退屈だし、駆けおりようとおもうておりましたが、これはまた、あまやどりのお仲間とはありがたい」
親しみのもてる、はっきりとした声の、ヒコイチより上だろうが若い男だ。