香炉には花
「まあ、・・・ちょっと縁があってな。おめえ、里にすんでるのか?それならみんなにいってやってくれよ。この山にいたのは、カマキリのバケモノなんかじゃなく、兄弟をたすけようとしてた、やさしい弟なんだってな」
ヒコイチのそれに、こどもは眉をしかめて口からてをどけた。
「そんなこと、いってまわらなくても、ひとなんて、もうみんな忘れてるぜ。この山に《カマキリの化け物》がでてたのを覚えてるやつなんてもういねえから、その石をたてたんだ。 このあたりの《時のよどみ》だってもう、ジョぅっか っぐしゅン! その煙どうにかならねえか?さっきから鼻がむずかゆくっていけねえ」
「え?あ、ありゃあ、さいごに仕上げのお清めをしてエって、おれのしりあいに頼まれちまったもんで、ここに置いてゆこうかとおもってるんだが、―― 」
香炉をみて、ふりかえったら、もうこどもはいなかった。
おいどうした?まさか木から落ちたか、と、クスノキにかけより、一周して見たが、どこにもいない。
まあきっと、もう家にかえったのだろうとなにげなく目をもどしたむこうの香炉に、花がさしてある。
いましがたまで煙をあげていたはずの抹香のあともなく、きれいな水がはられていた。
このあたりにはない、麓のあぜみちに咲くちいさな花がいけられた香炉にほほえんだヒコイチは、もういちど手をあわせてから立ち上がる。
「サブロウさんとシロウさんも、きっとよろこんでるぜ」
だれにともなくいってみると、むこうのしげみがガサっとゆれて、それきり静かになった。
つぎで終わりです




